三百六十一話
「ユキカズ寝るならムーイも一緒だぞーでも起きたいならムーイが何が何でも起こすぞー」
「そうだな」
むしろムーイの方が眠りに弱いんだけどね。
戦いの申し子で直感で大体の事が出来るムーイは事、眠気にはあまり強くない。
俺みたいに寝ずに行動しようとすると寝ぼけ始める。
まあ、俺に操作させる用の体は特に問題なく動けるんだけどさ。
「無駄話はこれくらいにしてさっさと下の方に行くぞ」
「あいよ。とは言ってもこの手の建物と来ると入り組んでるんじゃねえの?」
「ついでに厳重なセキュリティがってな。ま……その手のセキュリティ系を今の俺が素直にロック解除の手立てを探すとでも?」
「つーか……そんな用意した手段なんて残していくのか?」
「HAHA、絶対に無いNE。YOUの技能に期待DAYO! イエイ!」
ま、そうなるよな。
そんな訳で透視を駆使しつつ建物内を探索することにした。
竜騎兵が出入りできるくらいの規模の建物って相当大きいよなぁ。
「通路デカイな」
「大型兵器の移動通路じゃないかYO?」
「その辺りかねー……とりあえず建物内の探索となるけど地下への道は何処かな」
「バルトの視界だと瘴気の流れが見えるぜ?」
ああ、地下で瘴気を生産して散布してる訳で……この通路はその瘴気のダクトも兼ねてるのか。
「そんじゃこっちだな」
って指さした所でここで生産された魔物やマシンミュータント連中の雄たけびと足音が聞こえてくる。
大歓迎って感じで集まって来るな。
俺たちを消耗させるのが目的だろ。
「どんどんやっていくしかないか」
ヤケクソになってる割には戦力多いじゃないか。
本拠地だから残存戦力を防衛に回してるって事なのかもしれないけど。
ちなみに壁は非常にグロテスクで魔物なんかがそのまま壁の中で脈動してたりする。
そもそも上の塔近くには敵に堕ちた最後の聖獣が塔の一部としてバラバラにされてくっついているし。
「ひゃーおっかないぜ。過去の生きてる建物って廃墟の探索したけど、ヤバイ奴よりもっとやべえって感じだ」
「体内ダンジョンって形相なのは否定しない」
本当、バルトを見つけた建物にも生物的な側面があったもんな。
……竜騎兵まで通れる建物って単純に獲物として胃袋に収容してるって意味でもあるかもしれない。
捕まえた獲物を消化するためにって。
さてさて、この先はどうなっている事やら。
なんて様子で出てくる防衛の魔物共を薙ぎ払いながら俺たちは探索を行い、地下へと行く。
途中ですとーんっと……垂直形状の大穴が開かれていた。
「おうおう、ご丁寧に地下への道があって助かるねー」
「壁が生き物っぽくて、体の中だとお腹への入り口みたいだなー」
「言いえて妙だな。となるとこの先は胃、溶鉱炉ってか?」
目を凝らすと地味にそれっぽい。
「……ごはんだぞー」
ムーイが何処から出したのかクッキーを穴に落とす。
何ともムーイらしい思いやりっぽい配慮だなぁ。可愛いと思うのは俺のひいき目だと思う。
これでムーイはクッキー美味しく感じるのだろうか?
「大丈夫なのか? この先進んでよー」
「俺たちの耐性的にあの程度でダメージは受けないと思うし、周囲のエネルギー反応からして目的地が大分近い」
「行かなきゃいけねえってのはわかるけど面倒な地形してやがる」
「ギャウ」
「ま、行くしかないだろ」
バサァっとエミールに寄生したまま翼を展開してそのまま降りて行く。
やはりと言うか降りた先には強酸の池がお出迎えしていたけれど適度にホバリングして足場に着地した。
「よっと! ほ!」
ムーイは耳を広げてパラシュート状態で落下速度を殺しつつ適度に壁を足場にぴょんぴょんと跳ねまわりながら同様に着地。
バルトは俺に似た感じで羽ばたきながら着地したぞ。
どうやらこの強酸の池は建物へのエネルギー供給装置も兼ねてるみたいで池の底から溶かした物質を変換しているのが鑑定で分かる。
「どうやらここはラストダンジョンで入手できそうな品をエネルギーにしちまったみたいだな」
ブクブクと強酸の池の中にそれっぽいものの残骸が沈んでいる。
「対策されてんなー強力な武器とかあったんじゃねえの?」
「修理すりゃあ使える代物があるかもしれないけど、今は無理だと思う。それこそエミールに長期で修復して貰うってね」
「frogな彼は実に有能だNE!」
「本当な」
「恥ずかしいからオデを褒めなくて良いんだな……」
「付与効果でも残ってたらユキカズが解析してムーイが武器を再現と言う事も出来たんだけどなー」
「なあ……割と迷宮種は説得なりなんなりして味方として運用するのが正しいんじゃねえの?」
「今更気づいたか、ムーイとエミールの有能さに」
「何偉そうにしてんだよ」
俺の自慢の良い人だぞ。
弱いと自称するエミール、最初から天才のムーイ。この二人が居なかったら今の俺はいないぜ。
なんてな。
そうして雑談しながら進むと……俺たちの目的ではなくこの落下した空間の先に……瘴気を生産している装置が不気味な肉の柱のように聳え立っていた。
どくんどくんと心臓のような鼓動をしながら地脈からエネルギーを吸いこみ、建物内へ……いや、その上の塔へとエネルギーを運んでいるようだ。
「おうおう。ここが目的地って事みてえだな。で、ここで何をするんだカエルはよ」
「邪悪なfogをfrogな彼がどう対処するかワクワクだZE」
「それ、冗談のつもりか?」
「ラルオンのボケはともかく……」
周囲を見渡す。
どうにも違和感と言うかこれと言った敵の気配が無いのが不気味で気色悪いな。
何ていうか……あっちの異世界での決戦を思い出すというか。
あの時みたいに敵の気配が不気味に無くてあの神を僭称する奴の所まであっさりと行けた時みたいな滑っとした嫌な感覚とでもいうのか……。
どうにも不安でしょうがないが……。
「SYAGAAAAAAAA! ギギ!」
っと肉の柱が不気味な声を上げてギョロっと……マシンミュータント・機械仕掛けの天使と同種の目玉型の機械が肉の柱を泳ぐように蠢いて顔を出した。
マシンミュータント・ミアズマクリエイター。
と、名前が表示される。
「ギギィイイ!」
カッと目から牙が生えてボォオオオオオ! っと緑色の炎を俺たち目掛けて浴びせてきた。
魔眼は耐性あるので効果が薄いタイプだ。
「おっと!」
「やらせないぞー!」
バックステップしながら俺とムーイは息を合わせたように各々、トルネードエアっぽい風を豪快に引き起こして炎を吹き飛ばす。
そのまま地面に着地すると同時に剣を構え円を加えて突き出すように前に放つ。
確か突剣技だったかな。
スパイラルドライバーって技だったはず。
ドチュ! っと口になった目玉を貫く。
「うへぇ……見てるだけで痛いぜ」
「ギギギギ――!?」
バン! っと音を立てて一つが弾けたが肉の柱の中には何個も同様のマシンミュータントが潜伏しているようでギョロギョロと顔を出す。
「いや、割とマジで気持ち悪!」
「悪趣味だNE」
「ギャウ」
ゴオオオ! っとラルオンがバルトを操縦してブレスを吐いて焼き焦がす。
もちろん敵も一方的にやられるはずも無く、肉の柱から……ポイズンアップルと表示された赤いリンゴのような何かが放たれる。
「果物かー?」
「いや……これは――」
ブシュウウ! っとリンゴが弾けるとそこから瘴気が周囲に散布されていく。
「ギャ……ゲホ! ゲホ!」
バルトがここで大きく咳をし始めた。
「OH、ずいぶんと毒性の強い瘴気を放ってるね。バルトの毒耐性を突破してきてるYO」
「徐々に生命力が減って来てるぜ」
瘴気の大本らしい攻撃をしてくるな、おい。





