三百六十話
「ムーイ、前に出るなよ。道を切り開く、エミール。合わせろ」
「わかったんだな!」
「んじゃ行くぞ! はぁああああああ!」
俺は魔眼をチャージして一気に活路を切り開かんと高威力熱線を放ち、同時にエミールが焼き切った大地の上に余計な奴が入らない様に植物で周囲を遮る。
前はエミールに寄生状態だとどちらかしかできなかったけど今は両方を同時に出来るのは俺とエミールの両方が強くなったからに他ならない。
この前の戦いでムーイが集めた迷宮種達の力の源を使いやすいように処理したお陰でエミールにも渡してエネルギー量の増加に貢献してるからなぁ。
「なんつーか……どこぞのロボットのビームみてえにぶっぱなすようになったよなお前の魔眼」
「下手な魔法より効率良いからな……」
スターショットが俺が最初に覚えた魔法だったけど今は魔眼をよく使っている。
異形化して最初に使った熱線なんて射程3メートルくらいのお世辞にも威力が期待できなかった攻撃だったというのに。
成長したもんだなー。
「よし! このまま駆け抜けろ!」
「おー!」
「ギャウ」
「頼りになるNE!」
「勇ましい事で、とはいえ昔は俺が奥の手って感じに突っ込んだ事もあったから懐かしいぜ」
健人も異世界の戦士として侵食率と兼ね合いをしていた頃を思い出したように呟いている。
うん……異世界の戦士としての力に匹敵する動きを、今の俺たちは出来ているって事なんだ。
それほどまでに強くなってきたんだなーと改めて思う。
そうして世界救済センター邪神領域支部に到着、当然の事ながら入口なんてあってもしっかりとしまっているし、入れるつもりはないとばかりに強固な防壁と防衛装置が施されている。
入口周りは顕著で蠢く肉塊に黒い煙、その周囲に機械っぽいけど魔物であるマシンミュータント・マジイクガンホール型ってサーベイランスアイみたいな魔物が何十基も設置済み。
「正面から行くってか? 蜂の巣にされそうだな」
「そんな事する訳ないだろ」
俺は魔眼が使えるんだぞ? 当然の事ながら透視とかも使用可能だ。
相手もその辺りの対策をしていて透視範囲は狭いけど薄い壁なら見抜ける。
「俺だけとかムーイやエミールだけならブリンクで空間跳躍も無理やり出来るだろうけど……瘴気が妨害するか、出来ないな」
ブリンクに障害とか対策されてんな。
無理やりブリンクも出来なくは無さそうだけど消費削減に壁をぶち破る方が早そうだ。
「けど……薄い壁くらいならわかる! ムーイ!」
俺は魔眼でムーイにここに当てるようにとポイントを照射しつつ力を貯める。
「わかったぞー! むううううう!」
「はぁああああ!」
ムーイが俺の狙った所に能力で干渉してお菓子へと物質変更を施しつつ力を貯め、俺も合わせて剣技であるブルクラッシュを力の限り壁に叩き込む。
ドゴォ! っと壁の一部はお菓子化したけれど一部レジストされたが俺たちの強力な一撃を受けて思いっきりぶち破る事に成功した。
「バルトが居た研究所を思い出すな。あの壁は人一人通るのでやっとだったけど」
ヒビが入った壁を強引にぶち破ったんだったっけ。
今の俺たちは竜騎兵のバルトが通れる壁を強引にぶち破った訳だけどさ。
搬入用の大型通路っぽい所に入り込む。
「ヒュー! 果てしないNE」
「早く入らないと穴が塞がる」
ジワジワとぶち破った壁が自動修復で再生していくので急いで入るように指示しながらそのまま建物内に侵入した。
ビービーと警報音がしばらく鳴り響き、建物内に侵入者撃滅用戦闘型エレキックス・エクスキューショナーと言う、ドラム缶型にしては凶悪そうなレーザーソード搭載の肉塊の侵食を受けた魔物が4基編成で高速で近づいてくる。
「警備が厳しいNE。腕が鳴るYO!」
「熱烈な歓迎だな。健人喜べよ。魔導兵っぽい魔物だぜ?」
「あれに乗れるのかよ?」
「コックピットは無いだろうなーそれとハッキングして乗れるように改造しても瘴気対策までは難しい。健人、瘴気の中で頑張れよ?」
「そんな微妙なのいらねえよ」
元々そういった機能がある訳じゃない所だし、ムーンライトプラズマゴーストに変身して健人仕様に改造するのしても手間がね。
割に合わない。
「つーかあんなのに乗りたくねえ。乗れたとして戦力になるのかよ?」
ワガママ言うんじゃねえよ。
とは思うけど気持ちはわかる。
「バルトよりも弱いだろうな。改造する手もあるけど時間が必要になる」
「んじゃいらね」
「ギャウ!」
「この手の相手の弱点部位は覚えがあるYO」
ラルオンが手慣れた動きでバルトを操縦してガスっとエレキックスの装甲をぶち抜いて動力部に剣を突き立てつつブレスを放つ。
「ギギギ――」
バチバチとスパークしたエレキックスは煙を吐きつつ、グニュウウっと肉塊と触手で切りつけようとしてくるのを蹴り飛ばして、他のエレキックスに当てて転ばせる。
「動力が機械だけじゃないヨ。混合魔導キメラだNE」
おー……さすがは腕の良い冒険者、手慣れた操縦技術だ。
俺だったら少し出遅れてたかもしれない。
「おー!」
ムーイは縦横無尽に壁を足場に飛び回って竜騎兵に匹敵、いや……それを越える剛力で殴り、流れるように一回転しながら剣で一刀両断した。
「ユキカズの兄貴」
「わかってる、エミール。目を回さないでくれよ」
「目だけは追いついてるけど体は全然追いつけないから諦めてるんだな」
っと、エミールの体を操作して剣で動力部を突いた後に尻尾を絡めてムーンライトプラズマゴーストの力でハッキングして内部を滅茶苦茶にしてやった。
何か建物内の情報を吸い出せないかと思ったけど、俺対策なのかなんもデータ入れてねえ。
最小限の命令系統しか入って無い様だ。
しかもすぐにぶっ壊れた。
ずいぶんと弱いな。
そう思った所でどうやらこの手の魔物に対して特攻の俺自身に掛かるっぽい。
目で見てたら弱点として効果があるのが分かる。
進化してから薄々気づいてたけど、どうも機械系を破壊するのにずいぶんと有利に働くっぽい。
「やーここまであっという間だったな」
息もつかせぬ突撃で、ここまで何分くらいだったかな?
「作戦開始7分でここまでこれたYO。快進撃だNE」
ああ、戦場に入ってここまでそれだけの来れたなら快挙だ。
「半端ねえな。晩飯前に帰りてえぜ」
「全くだ。こんな戦いさっさと終わらせて帰って休みたいな」
「ユキカズ帰ったら寝るのかー? そのまま見回りしてそうだぞー」
「なんだな」
ムーイとエミールが健人と俺の冗談の混じった願望にツッコミをしてきた。
「HAHAHA、理解されてるNE! YOUはこの戦いを乗り越えたらして休みもせずに働いてそうだYO」
「ギャウギャウ」
ラルオンとバルトまでもが同意してきた。
まあ……この戦いが終わって町に帰るだろ? 戦勝会なり、その後の処理が終わった後の時間に何するかって仮眠を取って休んだと思ったら……見回りしてるかもしれない。
もしくはムーイに食べさせるお菓子の仕込みとか。
『確かに、この戦いが終わっても君は見回りをしてそうだ』
『休むことを知らない兵士の鏡だな。私たちだって十分な休息を取ってはいるのに』
『今は休養中で君の戦いを見させて貰っているがね』
『中々上手く進めていると思うぞ。このまま行けることを祈っているよ』
『日々の何かズレた考えをしている君の様子を見守らせてほしいものだ』
……うん、俺って普段からやる事変わらないかもしれない。
新兵だった頃は世界に馴染む為に読書とかも結構してたんだけど最近はする暇無かった。
だから読書とかも考えておこう。本はこの世界にもあるのはわかってる。
「さすがに戦いが終わったら寝るだろ。寝てた事あるじゃないか」
「カーラルジュを倒した時だなー」
「あんときのお前、何連勤だったか言えるのか?」
「う……」
言い返せない。
休んだらムーイの生命維持が出来ないから寝ずにずーっと動いてたようなもんだったのを。
「アレだよな。世界が平和になったら次のお役目が来るまで長い長い眠りに入る、世界を守る神獣様って感じでよ。その頃にはみんな寿命で死んでたりしてな」
「そうなのかユキカズー?」
「シャレにならないことを言うのやめろよな? そんなルールがあったら抗議するぞ。それこそみんなして神にでも会って叩き起こさせてくれよ?」
さすがに無いとは思うけど、物語とかでありそうなのが嫌らしい。
神獣として眠るとかさ。





