三百五十七話
「敵の本体だけと言っても同様に吸収されかねない。やめる事だ」
「チッ! そうそう簡単に攻略出来ねえって事かよ」
「安易な攻撃はやめなさい」
やはりそうなるかー。
「じゃあ逆に何が効果的だってんだよ」
「ふむ……そうだね。まず厄介なのは瘴気だよ。あの瘴気は毒素は元より様々な力に干渉してくる。トツカユキカズとムーイが対応する力を持っていても、もっと力を出さないと後手に回りかねない」
俺とムーイが力を合わせれば脅威じゃないけど相手の陣地内なので妨害に使われる可能性が高いか。
「人手は多いに越したことはないだろう? まずはこの瘴気を抑え込まねば話にならないだろうね。放置して良い問題じゃない」
「となると」
俺が映像で敵の本拠地を映すとオウセラは建物の地下を魔法で指さす。
「おそらくここに瘴気を産み出す設備があるだろう。ここを見てごらん、魔物も生産しているよ。そもそもトツカユキカズ、お前もどこを叩かねばいけないかわかっているんじゃないか?」
と、俺が凝視してなかった所から魔物が顔を出しているのをオウセラは教えてくれた。
まあ……解析するとウイークポイントとかも見極められる気がするんだ。
本当、進化してからわかるけど見る神獣の力って使いこなせると強力だなぁ。
「まずは瘴気を抑え込むために地下の破壊か、じゃないと相手の本体にエネルギーをどんどん送り込まれる」
「正解だ。圧倒的火力で一撃のもとに仕留められるなら苦労しないが相手も馬鹿ではない。出来る限り対策をしようと知恵を駆使しているという事だ。どうやら総力を結集している、聖獣たちに復活されて一網打尽にされる前により強化をしようとしているのだろう」
「……何をするつもりな訳?」
「現状の判断材料としてはおそらく、トツカユキカズ、君に匹敵する存在を作り出そうとしているのだろうさ、いや……なろうとしているというのが正しいか」
「なろうとしている……」
「そうだよ。自身より脅威となる武器を持った者たちが相手と同等になる簡単な方法はなんだね?」
「武器だったら同じ武器を手にすればいい」
「正解だ。あれは言ってしまえば製造施設と言う所か、様々な素材を組み合わせて作り出そうとしているのだよ。決戦兵器とは言ったものだ」
うわぁ……嫌だなぁ。
通りで俺や聖獣たち、ムーイ達が揃って妙な気配を感じ取れるはずだ。
「んじゃ完成する前に邪魔をするとして……流れ込む地脈を塞げばいいか」
「それをさせないために聖獣をバラシて素材にしているのだろう。地脈を弄って周囲に堰を作って流れを変えるのにも手間がかかる。そんな事をしている間にエネルギーが集まってしまう。そして建物周囲には瘴気由来で発生した魔物と、敵が作り出した魔物が居る」
ああ、安易に妨害は出来ないか。
実に嫌らしい所に設置された施設だなぁ。
こう……いろんな地脈が重なった所に現れてるんだ。考えて設置されたとみて良いかー……。
「性質が悪いNE……挙句ME達にとって厄介な人質も抱えてるのは間違いないYO……いや、トツカ。あんまりMEの仲間の事は考えないで欲しい。その所為でこの世界が滅ぶような事になるのをMEの仲間もよしとしないからネ」
ラルオンが本気の目で見てくる。
お茶目な様子はない本気の目だ。
出来ればとか甘い事をするなとまで言う位に睨んでいる。
「YOUはこういう時に理想に走るのを知ってるYO。だけどそれは出来ればであって難しいなら躊躇はしてはダメだ。助けられた方の身になって考えてあげないとNE」
最後は朗らかに笑っているけれど覚悟は持っておけと……先輩からの助言って事で良さそうだ。
「で、結局どうしたら良いんだ? 蓋を塞げねえって手立てが無くねえか? いや、ここをぶっ壊せばいいんだろうけどよ」
「君たちの手札で出来る手立ては幾らでもあるが……そうだな。最も簡単な手立ては……おや? 聖獣が全て実質討伐状態だ。わかるだろう?」
「あー……」
道を開けるから神の所に行けば勝利条件自体は満たせるってか?
「それで俺たちが勝った、神が全部解決してくれます。って……なると思ってるのか?」
『あの方がこんな選択を許すはずがない』
『ああ、そんな手を面白いと思うはずがない』
『間違いない。私たちは元よりユキカズ達がどう動くのかを見ている』
俺の返事にオウセラは頷く。
「ワシもそう思うが最終手段、相手に完全に押し切られた場合として考えておいて挑むのが良い。二段三段構えの考えは必要だろう?」
ああ、何らかの作戦で挑んで敗走した場合の最終手段か。
そこまで追い詰められたら考えておこう。
やるだけやって無理だったら神ってのも何か考えてくれるってね。
そんな願望を答えてくれるかね……結局世界を敵諸共消し去るとかするんじゃない?
「他の手立ては?」
「言うまでもなく先に地下を叩いて封じるのが良いだろう。物理的でもなんでも、ここの設備を壊せ。ついでに浄化出来れば良いが……ふむ、そういった能力に優れた聖獣にここで変身して、他の者たちが上にある本体に挑むという手がある」
「って雪一とムーイをここに設置して足止めで、俺たちで奴さんに挑めってか? 竜騎兵が居ても厳しくねえか? 戦力的にやべえだろ」
「OH……異世界の戦士の力は使わなくても竜騎兵の切り札フュージョンモードを全開にしてME達を燃料に戦うしかないYO」
「バルトの場合はユニゾンモードって事にもなるけど異世界の戦士じゃないとダメなんだったか。健人はもうそういうの出来ないしなぁ」
因子は持ってても侵食率が無くなってしまっている。
「おめーの因子を新たに植え付けりゃ出来そうだけどな」
「いやー……やめといた方が良いぞ。ムーイがやっと使いこなせるくらいで侵食が早い。死ぬようなもんだし俺が嫌だ」
改めて思うけど俺って新たな神獣として侵食因子を与える側になってしまったんだなぁ。
出来ればムーイにだって使ってほしくないこの因子をどうしろと。
「つーかそんな気色悪い事しねーよ。竜騎兵に食われるのもごめんだね。どっちかと言うと決戦には雪一とムーイが居た方が良いだろ」
「手段を択ばねば……いや、その手で行くと力が足りないかもしれないか……」
なんかオウセラに考えはあるようだけど却下になったようだ。
「そうだな……では次の案を提案するとだ」
オウセラはここで黙って作戦を聞いていたエミールの方に視線を向ける。
「なんだな? お、オデ?」
「ワシの能力からしてエミロヴィア、エミール。お前はあの瘴気をどうにか出来る方法に心当たりがあるのではないか?」
「え……えっと……よくわからないんだな」
エミールが困ったように答える。
「正確には今のお前ではわからないだろうが、ユキカズから多大な力を供給されている状態だと出来る手立ての心当たりが付くだろうという事だ」
「寄生してみるか?」
「や、やるんだな! あんなのを放っておけないんだな!」
ちょっと俺が色々と寄生して困らせたので拒否感を持っているエミールがやる気を見せている。
こういう時に素直に力になりたいって思えるエミールは、やっぱり本質は良い奴だよなぁ。と思う。
ブルみたいに動けるのは尊敬する所だぞ。エミール。
「でもユキカズの兄貴、今度は絶対にこっちの花から出て欲しいんだな。絶対にお腹の方で暴れたり置き土産したりしないで欲しいんだな」
念押しが強いなぁ……。
まあ、元気過ぎて寝入りが遅くなって困っていたみたいなんだよね。
ここは反省だけど、エミールが頑張ったから喜んでほしくはあったんだぞ?





