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三百五十五話


 ……。

 …………。

 ………………。


 一日の中でも短い時間……ムーイに抱えられて俺とラウは一緒に就寝をしていた。

 そんな希少な睡眠をしている時、それは唐突に起こった。


「!?」

 ドゴ! ともドキン! グァアアアア!? とも聞こえる妙な感覚が俺の中……聖獣たちの意識が繋がっている所から響いてきてバッと意識が急速に覚醒したのだ。

 な、なんだ!?

 周囲を見渡しても熟睡しているムーイとラウしかいない。

 特に町に襲撃があった訳では無く、あくまで俺の内部から聞こえた音だったようだ。


『これは……』


 ヴァイリオ達の方は何が起こったのか分かったようだ。

 一体どうした? 何があったんだ?

 もしや座って所から侵食でもしてきたか?

 そっちから来るなら相応に対処しなくちゃいけないんだが、あくまでそこは物理ではなく魔法や精神的な箇所なので特に異常のない俺をどうにか出来るような問題にはならない。

 何より聖獣たちも俺が囲っているのでこっちからの攻撃だったら対処可能なはず……なのだが。

 そもそも後少し一週間もすれば聖獣の一匹くらいは復活が可能になるくらいに解析が進んでいる状況だ。


『君が守ってくれているから私たちは特に問題はない』

『ああ、何もないのは保障しよう』

『だが……』


 どういうことだ?


『まだ敵に捕らえられている最後の聖獣である奴が……何かされたとしか言いようがない。少なくとも操られたよりも酷い有様となっている』

『意志が座に戻って居ない、何かしら酷い状態になっているのを私たちが感じたのだ』

『言うなれば断末魔が私たちに届いた』


 それは……どうしたら良いのかわからないけれど、情報としては受け取るほかない。


『神への道を開くのが現状では不可能と悟っての犯行だろうとは思うが……このような状態にまで行くと相手は道すら開けなくなるはずだ』

『一体、敵は何が目的なのだ……』

『ああ、奴らが何をしているのか……』


 どうにか場所の特定は出来ないのか?

 どくん……どくんと俺の心臓と言うか体が異変を感じ取って鼓動を強める。

 いや……なんだろうか、世界が震えているような、そんな妙な錯覚があるような気さえしてきた。


「……何か、起こってるぞ」


 ゆっくりと、ムーイが目を開いて俺とラウを抱え込む。


「ムーイ?」

「感じる。どこかで何か、起こってる。鼓動が遠くから感じられるぞ」


 むくりと起き上がり、ムーイは俺とラウを抱えたまま窓から外をのぞき込む。


「すごく大きな気配、迷宮種……ムーイ、この気配が何なのかわかるような、そんな気がするぞ」

「急いで迎撃準備をした方がよさそうか」

「……こっちが行く必要がある気がするぞ。居場所を隠すつもりがない」


 あっちが攻めて来るんじゃなくて来いと?


「逃げも隠れもしないという事か?」

「うん。あっちから、来いってばかりに気配がしてくる」

「お相手の準備が整ったって事か」


 何とも歓迎が激しい事で。


「違うと思うぞ。たぶん、何か……準備してる。その鼓動だぞ」


 準備? 一体何をしてるんだ?


「これは……うん。ユキカズがムーイを使って羽化しようとしたのと似てる。何かが変わろうとしてるんだぞ」


 羽化?


「何にしても被害が出る前に確認に行くべきか」


 サッとムーイの腕から出て窓を開ける。

 ムーイが感じられるって事は迷宮種の気配か?

 と、思ったのだけどドクンドクンと……おい、なんだこの気配。

 神獣と聖獣としての感覚、更に迷宮種の感覚が揃ってとある方角を指し示している。

 しかも……これは魔物としての本能もか?

 異世界の戦士としての感覚は……うん。あるのかもしれないけど、元々現存する最後の神獣の因子を俺は所持しているからよくわからないんだよなぁ。

 世界が震えているような気配と形容するのが良いか。


「おい。妙な気配がしねえか?」


 で、健人も今夜も酒で酔いつぶれていたはずなのに起き出して俺たちの所へとやってきた。


「おおー……まだ眠いけど何かあったのかYO?」


 ラルオンの方は健人に叩き起こされたって事で良さそうだ。


「なんだな……」


 孤児院の庭の方からエミールも気配を感知して起き出してきたようだ。

 もはや隠すつもりすらない気配を受けて行動をせざるを得なくなったのは間違いない。

 と言う訳でみんな就寝していたのだけど急遽起き出して作戦会議をすることになった。

 俺は気配の方へ先に偵察をしてから戻ってきた。




「この感覚は一体何なのでしょうか? 神獣様の気配にも感じられます」

「よくわからない。けど不気味なくらい大きな気配が……種族関係なく放たれているのは間違いない」


 これだけ大きな気配を放てるって一体何だろうか?


「雪一、お前が偵察に行くのが良いんじゃねえの?」

「そこはそうなんだが……ただ一点、厄介な真似を敵はしててな」

「なんだよ」

「……ターミナルポイントからエネルギーを吸ってる」


 そう、少なくとも相手が何をしているのかをターミナルポイントにアクセスした際に判明した事実がある。


「やばくねえのか?」

「そういった事をする魔物とか居ない訳じゃないから……珍しくはないが吸う量は多い。放置していると面倒なのは間違いない」


 あれだ。セーブポイントを守っている魔物みたいな形でターミナルポイントには魔物が多く集まる。

 使い方さえしっかりしてれば結界にもなるからね。


「それとターミナルジャンプで直接飛ぶのも無理」


 龍脈と言うかエネルギー濃度が足りずに途中までしか近寄れない。

 どうも相手は大地からエネルギーを吸い始めたようだというのは把握できた。


「いや、話からしてヤバそうだが」

「まあ……どうもどこかの世界では世界が滅ぶような手段のようだけどこの世界では即座にって程じゃない」

「OH、ターミナルエネルギー発電ってのは聞いた事があるYO。廃れてるけどNE!」


 ああ、そういった技術、あっちの異世界にもあるのね。

 考えて見ればターミナルがそれに該当する代物だからね。


「今すぐ世界が滅ぶような状態じゃないけど、放置もしていられない。で、俺も偵察とばかりに望遠で居場所を確認はしてきた」


 気配を隠すつもりはないようなのでね。

 俺は気配のする地点を地図で描写する。

 その場所は首都方面の町近くの一角に……いつの間にか作られた敵の基地……と言うのかな。クレーターみたいな地形に盛り上がった場所に鎮座している。

 ターミナルポイントの上で妙に黒い霧みたいな物で覆われた建物とその上に塔が聳え立っていた。

 場所が首都に近いからそっち方面にターミナルジャンプが使用できなくて急遽迂回して確認をしたくらいだ。


「なんだこりゃ……いつの間にこんなの建てたんだよ」

「まあ、一瞬で作ったんじゃないか? もしくは地下にでもあったとか」


 相手は迷宮種は元より機械も使うみたいだし、大きな塔なんて建てるのは容易いって事だろう。


「こっちもエミールやムーイでやろうと思えばできそうだし」

「なんつーかよ。ゲームとかでありそうな展開じゃねえか。あれか? ラストダンジョンってか?」

「笑えないネタだな」


 これで最後とかだったら苦労しない。


「と言うより……決闘場とも受け取れるけどな。ここまで気配を放ってると」


 準備万端だからさっさと来いって言ってるかのような何かを感じられる訳だし。

 そうとも言えない厄介さがあっちからあふれているんだけどさ。


「最後の聖獣に関しちゃ、どうも……生きてはいないみたいなんだけどさ。どうなってるのかと思ったら……」


 ピピっと視界を更にズームして塔の外壁を確認する。

 するとそこには無数の機械っぽいパーツと、魔物、そして聖獣がバラバラになってくみ上げられているようなのだ。

 聖獣に関しては絶命するとエネルギー状になって霧散するはずなのにそういった訳では無く塔の建材にされているという非常にグロテスクなオブジェとなってしまっている。

 更に植物みたいな……がれきの木の塔とでも呼べそうな代物だ。


「OH……」

「悪趣味な塔じゃねえかよ。マジでラストダンジョンって感じじゃね」


 そしてその塔の一番上には……黒い木のような鼓動する何かが黒い煙を放ちながら胎動しているようなのだ。

 もちろんこの黒い煙は塔を循環する……肉塊みたいなものと密接に関係ある代物の様だ。


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