三百五十二話
「そんじゃ町のキッチンを借りるとしてー」
と、収穫した麦……異世界のオートミールに使える麦を色々と処理する。
こういう時、兵役経験が役立つ。
麦の処理業務も俺は経験済みだ。
ザッザと手際よく麦の下処理を行る。
この辺りは魔眼で種だけを浮かせて加熱……乾燥処理をしっかりと行う。
兵士だった頃は機材で乾燥させたんだけどね。その手伝いをしていた。
チリチリと麦の穂先にある種が乾燥していく。
うん……麦と言うより米、稲に近い種類だろうというのがよくよく観察するとわかる。
「よーし、これを潰してーっと」
グチっと麦を潰してオートミールへと変える。
そういえばこの町でもこの手の食材はあった気がする。
それをしっかりと作り出した形だね。
量が沢山作れる。ムーイに覚えて貰って量産……するにしても今じゃない位、大量に食材があるので不要だ。
魔眼を駆使して手早くオートミールを確保。
俺の勘が今から作ろうとしているお菓子にはドライフルーツとか他のクルミとかも混ぜるたりも出来ると告げているけど今回はシンプルに行きたい。
魔眼で調理するのも良いけどフライパンを加熱しつつバターや砂糖を入れて溶かし、他に甘み……ムーイにハニーアントラインの蜜を作って貰って混ぜ合わせ、より甘みを感じられるように塩を少々入れた後にオートミールを投入して混ぜる。
グネグネとオートミールがしみ込んで混ぜ合わせたら今度は型に均等になるように入れてヘラで整地。
「おー? エネルギーバーと似た作り方だぞー」
「あれはキャラメルを穀物とか種を混ぜて冷やして固めたが今回は逆だ!」
っとかまど、オーブンでなんとなく、175度前後で調整しながら投入してきつね色になるまで焼く。
頃合いまで焼けた所で感覚で取り出してっと。
「おー焼けてるークッキー? ケーキ?」
「きゅー甘い良い匂いー」
ムーイとラウは元より匂いに釣られて孤児院の子供たちもやってきている。
「で、取り出したこれの余熱が取れた辺りで手ごろな大きさに裁断してからしっかりと冷やす!」
魔眼で今度は冷却して凍らない程度にキャラメルっぽい部分が固まるくらいに冷やすと……うん! 完成だ!
「出来上がりだ!」
「おー! エネルギーバーともなんか違うお菓子ー」
「ギャウー!」
「キュー!」
出来上がったお菓子を前にムーイは元よりみんな目をキラキラして見ている。
「オートミールでお菓子を作りやがったなーつーか、無難な代物じゃね? 名前は知らねえけどキャラメルと種ありゃこんな料理になる感じだろ」
健人が俺がせっかく作ったお菓子にケチを付けてくる。
「それを言ったら大抵のお菓子はチョコかキャラメルとかで和えりゃお菓子になるだろ。工夫を察してくれ」
お菓子ってのは見た目似てるけど色々と違いが出るんだぞ?
かぼちゃの種だって上手く扱えばお菓子に出来るんだからさ。
俺の苦労にケチを付けるなよ。
健人にはあれだ……これを食わせれば良いだろう。
と言う訳でオートミールを魔眼で浮かび上がらせて圧力を空中で施す。
それを回転させながら加熱してから一気に圧力を解放するとボン! っと音がして膨張しポップコーンみたいに膨れたお菓子が完成だ。
適当に砂糖で味付けして健人の前においてやる。
もちろんこれも次作るお菓子の食材に使う。
「文句があるならお前はこれでも食ってろ」
「てめえ……目の前で曲芸しながら何作ってんだ。ポップコーンか? いや、なんか違うなこれ……食った事ある覚えがあるぞ。なんだったか? スーパーで似た菓子で似たのあった気がする」
ポップコーンともちょっと違う触感でボリボリ食えるつまみを作ってやった。
健人には丁寧に作った菓子はやらん。
と言う訳で健人は無視して出来上がった代物をまずはムーイとラウに渡して、他の人たちにも振舞う。
『おお、また美味しそうなお菓子を作っている』
『見てるだけと言うのは何とも生殺しな事か……』
『ここに転送出来ないのか? ああ……』
聖獣たちが作ったお菓子を涎を垂らしながら見てる。
神獣も似た感じで俺に干渉して菓子作ってたっけな。
味だけなら伝えられるのかな?
ちょっとだけ味見をしてみる。
まずはエネルギーバーの焼いた版みたいなお菓子。
バターキャラメル風な味付けを意識したけど、うん。
外はカリカリで中はモチモチしててエネルギーバーとはまた違った香ばしさがあるっぽい。
「ん~~~……これ、すごく香ばしくて甘くておいしいぞおおおお! 外がカリっとしてて中はしっとり!」
「きゅー! 美味しいー」
「美味しい! もっとー!」
「あら、これ、好きな味だわ」
と、カトレアさん達、ニワトリっぽい、草食っぽい鳥系人種の人たちへの受けが非常に良い様だ。
「超美味い! この味好きー!」
カトレアさんと健人の子が夢中になって食べていた。
「ME達の世界で見た事あるようなお菓子だNE」
「ラルオン知ってるのか? 勘で作ってるんだけど」
「地元で似た味のスウィーツを知ってるだけDAZE? 確か……フラップジャックって言うお菓子だYO」
フラップジャック……。そんな名前なのか。
ちなみに鑑定ではエネルギーバー(オートーミール? 試作品)ってなってるんだけどさ。
レシピとか知らずに適当に作るから鑑定でも名前なんて出てこないって事なんだろう。
俺の自作料理って事で……いや、ターミナルとかその辺りのライブラリー辺りからなら類似のお菓子名とか引き出せそうだけどね。
「じゃあエミールが出した麦のフラップジャックって事でエミールフラップジャックと命名しよう」
「いきなりオデの名前がお菓子の名前に組み込まれちゃったんだな!?」
エミールフラップジャック(仮)
品質 新鮮 美味 香ばしい
毒物 重度の美味中毒
効果 空腹解消 スタミナ低下大幅減少 魔力回復(大) 疲労回復(大)
あ、鑑定で効果まで確認しちゃった。
最近はここまで凝視してなかったけど……美味中毒ってヤバくない?
いや……料理って結構、この中毒ってのはよくある効果だし大丈夫。
うん。大丈夫だと思いたい。
だってお菓子作ると大体つくもんこれ。
重度になってるのは見なかった事にする。
そんな菓子作りの腕前上がってない。
きっと俺に料理を教えた菓子職人の方が腕が良いはずだもん。
「うま! ユキカズ、お菓子作り天才、ムーイ、エミールの気持ちわかるくらい美味しい!」
ムーイが夢中になってエミールフラップジャックをもぐもぐと食べている。
「YOUの菓子作りはあの頃から変わらないNE! レラリアに居る流れの凄腕菓子職人の名は伊達じゃないYO! 噂の大本がYOUだってのを知った時は驚いたNE!」
く……ラルオンがあっちの世界での噂話を言ってくる。
そんな口コミあった訳?
「伝説のお菓子職人から教わった、職人をいずれ超える逸材が居るって騒ぎになってたYO! 各地の弟子たちから学んでいったそうだZE? YOU、そうなんだヨ?」
何その噂、一体……いや、各地で俺に菓子作りを教えてくれたコックの弟子ってのが色々と教えて来たけどさ。





