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三百五十一話


「同じ迷宮出身って事なら兄弟とか姉妹って思えば良いんじゃないかー? ムーイはムーイ=ムーフリスみたいに、ユキカズがトツカ、兎の束でトツカって言うのと同じみたいにー」


 ふむ……確かにそんな風に思えば不思議ではないかもしれない。


「そうだな。じゃあムーイのミドルネームはムーフリスで良いかもしれないね」

「おー」

「きゅー!」


 何とも楽しそうなムーイとラウな事で、微笑ましい。


「じゃあエミールはエミール=エミロヴィアだぞー」


 ムーイはエミールへと語り掛けるけどエミールの方はぼーっと放心しているようだ。

 俺の命名でそのまま名前として定着しちゃってるんだけど……もう少し迷宮名から名前を作るのはやめた方が良いか?

 名前と名字が近くなってしまう。


「……ムーイの名字がトツカになるのはどれくらいになるかなー?」

「せっかく決めた名字を捨てない様に」


 愛の剛速球はまだ見逃しで回避します。


「のんきなもんだぜ」

「真相はどうなのかはともかく、ムーイもエミールも生きてて俺たちと一緒に居るんだから気にせずに行けばいいさ。問題なし」

「むしろヤベェのは雪一、お前の方だもんな。どこまで変わるんだろうなお前」


 ええい、考えない様にしている事を一々言わないで良いだろ。

 なんて話をしていると周囲からポッポッポ! っと緑と言うか植物が生い茂り始める。

 えーっと、麦? なんで麦がいきなり?

 こんな事が出来るのはエミールだけど……エミールの方を見るとガタガタと震えていた。


「お、おい。エミール。大丈夫か?」

「う、うう……も、もう溢れちゃうんだなぁああああ……」


 ドバァ! っとエミールを中心に麦が周囲を塗り替えるかのように生えて行った!


「うわ!?」

「OH!?」

「おー?」

「きゅ」

「ギャウ!」


 咄嗟にバルトが爆心地近くに居た健人やラルオン、ムーイとラウ達を持ち上げる。

 サーっと周囲は麦畑になり、その麦畑の中心でエミールが息を切らしていた。

 バルトの足元の様子からしてダメージとかは無いけど驚いたな。

 それからエミールは整えるように何度も深呼吸をしていた。

 遠目に見ている町の人々も驚きの表情をしているのが分かるぞ。


「え、エミール?」


 いきなりどうした?


「ああ……やっと、収まったんだな……」


 で、すごく渋い顔をしながら俺を見てくる。


「ユキカズの兄貴、オデのお腹の中に置き土産していったんだな。それがオデの中で凄い力になったんだな。おかしくなるかと思ったんだな」

「つまり力があふれ出たって事DANE!」


 チェキラ! ってラルオンがエミールを指さしてる。


「なんか恍惚としてるなと思ったけどよ。雪一、お前こいつに何したんだよ」

「進化とかでエネルギー消耗しただろうからそれを補えるように出る前に腹の中にエミールが消化できそうな鱗粉とかを……」

「やりすぎてあふれ出ちまったって事じゃねえか。雪一、おめーそのカエル気に入ってるのはわかってるけど加減しろよ」


 うるさいな。エミールの体調管理は大事だろうが。


「ユキカズの兄貴、もう少し強さを自覚してほしいんだな……オデ、太っちゃってるんだな」


 ボインっとエミールがお腹のぜい肉を持ち上げている。

 まだ放出したりないって感じだ。

 うーん……やりすぎてしまったのかなぁ?


「あぁ……まだ、ふわふわするんだな。オデに気を使いすぎなんだな」


 酩酊に近い様子でエミールはぐったりしている。


「エミール、ユキカズのお陰で力が溢れてるみたいだぞー」

「悪かったよ」


 ここで気になるのは今の俺が出した鱗粉とかでエミールはどれくらいのエネルギーを生成出来るんだろうか?

 ってここで提案したらエミールが怒りそうだからやめておこうっと。

 俺は良い人の力になりたい、困らせたい訳じゃない。


「ちょっと……うらやましいような気がするぞ」


 ムーイの羨望も聞き流すことにしたい。







「ま、まあ……せっかくだし生えた麦を収穫しておけば食料になるか」


 色々と事件が起こった所為で町の人口が多くなっている。

 エミールとムーイが居るお陰で食料の問題は無いんだけどね。

 いやぁ……二人が居なければこの人口の食料を維持するのは中々大変だ。

 今回生えた麦も収穫して頂くことにする。

 そんな訳で町の人たちに協力を仰いでエミールが生やした麦の収穫を行う。


「麦っぽいがこの麦、小麦や大麦、野麦じゃねえな」


 健人が麦に手を添えて確認する。

 野麦は人の手が入っていない麦を俺たちがそう呼んでいるに過ぎないんだけどさ。


「異世界の麦だからってのもあるから正確には俺たちの世界の麦とは別種なんだろうけどな」


 確かに小麦とも大麦とも違うタイプの麦だ。


「ああ、この品種はパンには向かないですよ。お酒にするのにもちょっと癖が強い奴ですね」


 集まってきた町の人たち……カトレアさんが詳しいのか説明してくれる。


「エミール、どんな麦を生やしたのかわかるか?」

「オデ、知ってる植物さんを咄嗟に生やしただけだから使い道まではわからないんだな」


 エミールのいばらの魔女の能力で植物を生やした際に咄嗟に食料に出来そうで安全なのを生やしただけかぁ。


「こういう時はよ。神獣様に判定してもらえりゃいいだろ」


 おい。ここで俺を露骨に神獣呼びで判断させようとするな。


「とは言っても鑑定だと植物名しかわからないんだが……」

「んじゃ数奇の菓子職人の感性では?」

「カトレアさんに聞けば良いだろ、知ってる品種みたいだし」


 こういう植物ってこう……鳥人だと詳しそうだよね。

 種食べるの好きそうな印象あるし。


「確かこれ……前に食べた事ありますね」

「きゅ?」


 ラウとリイも麦を見てる。

 ……フクロウは肉食の鳥だからイメージには合わないかな?

 ラウやリイも食べてそうではあるけど。


「そうですね。ケントがシリアルと言っていたものの材料になりますね」


 シリアルってフレークの事かな?

 それって小麦でも出来るんだけど……。

 モロコシに似た植物もこの世界にはあるんだ。あれはあれで便利だ。


「パンにしようとすると上手く練り上げるのが難しいんですよ」

 あ、なんとなくわかった。

 グルテンの形成が上手く行かないタイプの麦なんだろう。

 それで大麦ともなんか違うとなると……あっちの異世界でも菓子作りで扱った覚えがある。


「ユキカズ、こういうのをエネルギーバーってのにしてムーイに作ってくれたぞー」

「穀物をチョコやキャラメル、飴で固めた奴な。大雑把に作るには良いけどさ」


 ムーイに作ったのは日本に居た頃に、近所の人がお腹が空いたら~とか言ってた方の某お菓子なんだけどさ。


「沢山収穫出来ましたね」

「何か良さそうな使い道は無いでしょうか」

「粥でしょうかねー脱穀して煎ると風味がよくなりますし」

「うえ……あれか、俺はパース」


 健人が露骨に拒否しやがった。

 食べ物を粗末にするなよ。

 まあ……オートミールみたいな料理としてあるみたいで栄養豊富で町でも時々出るんだけど……ってああ、オートミールに似てるのかこれ。


「オートミールに使われるのに似てるんだな」

「オートミールってあれだろ? 栄養はあるけど不味いって奴」


 健人が曖昧な知識でぶちかましてきた。

 間違っちゃいないかもしれない。

 栄養豊富だけど人を選ぶってのは間違いない。


「なんとなく調理方法が浮かんできたから色々と作ってみるか」

「お菓子かー?」

「ああ、ムーイも腹減っただろ」

「おー! やったー! ユキカズがお菓子作ってくれるぞー! エミール、ありがとー!」

「な、なんだな」


 エミールがちょっと複雑な顔をしてる。

 あふれ出た力……漏らして生やしてしまった植物だから微妙な感覚なのかもしれない。


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