三百五十話
ムーイが強いのはレラリアでも有数の大迷宮名、ムーフリス大迷宮だ。
逆に元々は弱いってムーイが答えたエミールだってエミロヴィアと言う地名、最寄りの迷宮の名前な訳で。
その階層のボスを二人ともしていたのかもしれないなら……。
「バルト、ムーフリス大迷宮の出現魔物や階層主のデータとか出せる?」
命令確認……当機体の存在していた迷宮ではありますが階層ごとの出現迷宮主等のデータの齟齬が多いため信用性は著しく低いものとなります。
バルトのデータで差異があるので信用出来ないか。
「と言うか……そもそもバルトってなんでムーフリス大迷宮のあんなところに研究所がある訳?」
考えてみればおかしいよな。
なんで迷宮内にあんな研究所が存在するんだ? 迷宮内に籠って神獣と人類が争っていたとかなのか?
考えてみれば迷宮自体が不思議な場所で深く考えて居なかった。
すべて迷宮だからで片づけていた。
データなし。当機体が居た施設が迷宮内を拠点にしているのは多大な疑問があるのは間違いは無し。
「バルトもわからないか……と言うかあまりバルトもわからない事が多いな」
マスターの言葉に遺憾の意を提示します。
あ、理性的だけど怒ってるって返事だ。
何にしても色々と疑問が出て来るもんだ。
世界の成り立ちからして疑問があるって事だろう。
この謎が開かされることがあるのかなぁ。
聖獣たちもきっと知らないと思うし、知っててもきっと答える権利を持ってない。
『理解されているのが何とも歯痒いものだ』
『私たちが管理しているこの世界の迷宮は神が用意した箱庭にして挑戦者たちの修行の場と定義されている。ユキカズ、君が居た世界にとは色々と事情が異なるのだ』
多少の答えは得られたけど、やっぱ望む答えは教えて貰えてないかぁ。
ただ一点……。
と、バルトがムーイを拡大して表示させる。
マスターと共に居る迷宮階層主反応のある個体からは脅威的な程に危険を検知。
味方であるのは了承してますが神獣よりも脅威存在の可能性あり。
「ムーイの危険性? 今更だぞ。俺の体だってムーイを苗床にして進化した代物なんだし」
割と本気でムーイって色々と規格外の奴だってのはわかっている。
この体はムーイを使って進化しているのでもはや関係した代物だと言っても過言ではない。
……本当、規格外な体になってしまったなぁと思うよ。
状況が状況だったから拒否できなかったというのは否定できない。
もしも、ムーイに最初に寄生した時にこの進化をしたら今の姿に成れたのだろうか。
どうもこう……ムーイからすると俺の進化は大してダメージにならなかったようだし。
その潜在的なスペックは計り知れない。
ムーイは……俺と色々と交流した結果、いい子に育ってくれたんだと俺は信じている。
「どんな力だって使い方って奴があるだろ? バルトだってその力で人々を蹂躙したら脅威でしかない訳だし、まあ言いたいことはわかったよ」
マスターの返答を了承。
「しかしまあ……コアと違ってボディの方とは理性的なやり取りが出来てる気がする。こう、バルトってもう少しペット的な付き合いだったから」
割とこうして話をしていると別人に感じてしまう。
性格面は同一。最初に登録をしたマスターに搭乗して貰いたいという意識はありますが現状では効率面で不要との判断の為に命令に従っているにすぎません。
感情的には俺を乗せたいけど、健人やラルオンを乗せた方が戦術的に有利だからか……。
まあわかるような気はする。
ボディの強化及び設計案をここに提示、尚……道徳を無視したマスターにとって不快な提案であるのを大前提。
ってバルトが自身のボディの設計図の図面を引き始める。
こういうのってフィリンやラスティ辺りが作る代物じゃないか? まあ、再現性とか新技術を度外視しての代物なんだろうけど……。
でー……表示される設計データなんだけど俺が分かりやすいように訳している代物を確認した。
まあ……確かにこれはちょっと、とは思いつつ確かに出来たら強力な兵器になるだろうとは思うのが表示されている。
ニュっと……俺に引っ付いている部分のムーイもそれは閲覧されている訳で。
特に気にはして無さそうだ。
「コンセプト的には……まあ、わかる。何かの機会があったらあり得るかもしれないなぁ……さっきムーイが説明していたものに非常に近いし」
あれだ。バルトの魔獣兵のボディって何で出来ていた?
そう、スライム系の細胞や骨を集めて特定の施設で組み立てた代物だ。
で、ムーイは何の魔物に近いかと言うとスライム系……要するにムーイを素材にして作ったらとてつもない竜騎兵や魔獣兵になるのではないかと言う設計プランだ。
正直、俺が聖獣たちに変身するのとプロセス自体は非常に近い。
「バルト、ムーイと仲良くなったらムーイが手伝ってくれるかもね。もしくは今の段階で強化装甲って形で協力はしてくれるかもな」
この辺りの判断でムーイは太っ腹だ。
分裂してバルトのボディとして力を貸してくれるかもしれない。
「ただ、まあ……バルトの言う通り、ムーイに頼りすぎで俺も良いとは思えないから保留な」
命令を受理。
と言う事でバルトとの話を終えてコックピットから出る。
「お? バルトとどんなtalkが出来たのかNA?」
「色々と細かな情報のすり合わせだよ。俺の現状、迷宮種とはどんな存在なのかとか、今後の改造プランとかね」
「OH! 更なる強化プランがあればME達にとって助けになるNE!」
「そうは言ってもムーイをバルトのボディを移植して模倣とかそう言ったちょっと問題がある計画だぞ」
「おー? ダメなのかー?」
「ムーイに頼りすぎなのはな……甘えなのは元より何か問題が起ってムーイに取り返しがつかないようなことにはしたくないんだ。これは……まあ、道徳的な意味でな」
ムーイ個人を尊重したいからこそ、そのプランの優先度は下げたい。
「そうなのかー?」
「今のムーイは別にいいんじゃないかと思うだろうけどね。手段を択ばずで行くと相手と同類になってしまうからさ」
「ふーん」
「きゅー」
ムーイはラウを抱えてよくわからないと言った感じに小首を傾げている。
「迷宮種ってどんな存在なのかってバルトの分析も聞いた。バルトの分析だと階層主反応ってのが迷宮種に存在するらしい」
「ああBOSSって事だNE!」
「まあ、ボスってのは間違いねえんじゃね? それくらい、強いしよ」
「その階層主に何かしらの変異が起こって迷宮種って代物になるんじゃないかって、名前の由来も発生した迷宮の名を冠するのはそれが理由だとかさ」
「辻褄は合うな。どうもムーイと同名の迷宮種も居るっぽいのはそれが理由じゃね?」
健人の言う通りだとは思う。
「階層主との違いは迷宮種達は揃って力の源を所持している所か、それがコアと言うか肉体と同一性のある魂とも言える代物のようだし」
「食性に関してもわかんねえけどそうなんじゃね? つーか、オウセラに聞きゃあ知ってそうな話じゃね?」
確かに……これくらいは知ってそう。
ラウの方を見ると、察してラウも玉を確認してる。
「キュ……寝てるっきゅ。後で聞くっきゅ」
ああ、色々と行使したから呼び出せない状況なのか。
「仮に階層主の変異体だとするならムーイは相当深い階層の主だったって所じゃね?」
「んー? よくわかんないぞ」
「まあ、自分が生まれる瞬間なんて知ってる奴は居ねえだろうよ。あくまで推測でしかねえし」
「だろうな。で、エミールが弱い方の迷宮種ってのもエミロヴィア自体が浅い迷宮ってのもあるだろうし……」
「浅いなら冒険者に倒されたりしてそうだけどな」
「そこら辺の辻褄はわからん」
エミールがどうやって階層主から迷宮種になったのかとか真相はわからないし、あくまで推測でしかない。
「ユキカズユキカズーあのなームーイと同じ名前の奴が居るって事で思うんだけどな」
ムーイが何か提案があるっぽい。





