三百四十一話
「な、なんだな?」
エミールも指さされて困惑の様子だ。
「冗談じゃねえよ。俺は野郎の背中に乗って戦えってのか! 竜騎兵に乗るのは俺だ!」
「MEだYO!」
「つーかあいつに乗って戦うと言ってもよ。背中に乗ってるだけじゃねえか!」
確かに、エミールと一緒に戦うというのとは何か違う。
俺だとエミールの能力引き上げや戦闘サポートとかできるから違うんだけどさ。
エミールが魔法に集中するから体の操作をするとかやった訳だし。
本人は弱いと自称するけど切り札持ちで結構強いと思う。
「きゅ? お腹に入るでも大丈夫っきゅ」
ラウ、君もその辺り相変わらずだね。
ムーイでやっちゃったからか抵抗ないもんね。一度拒否されたの忘れてない?
「冗談じゃねえっての! そもそもそれは百歩譲って乗り込むに近いとしても一緒に戦うじゃなくて守られる流れだろ」
確かに、その流れだとエミールが守っているに近い。
「適任者はー……バルトに決めて貰うのが良いんじゃないか? 何時までもここで言い争ってないでさ、バルト。戦闘シミュレーションを出来るか?」
そもそもバルトには高度な戦闘シミュレーション機能が搭載されている。
これって竜騎兵のボディでも出来る……はずだよな。
こっちには非搭載とかだと別なんだけど。
「ギャウ」
コクリとバルトは頷いた。
よかった。出来るようだ。
「出来なかったらユキカズに寄生して貰えばやって貰えるぞ?」
「ギャウ!?」
聞き捨てならない事を言ってるぞ!? っとばかりにバルトが俺へと鳴く。
「寄生した際に再現しただけだから! ムーイ位にしかできないって!」
そりゃあ脳内で似たようにさせようと思えばできるけどムーイかエミールが出来るかなーくらいのかなりの荒業だ。
「ギャウウウ」
バルトの疑惑の視線が刺さる。
お前仕込みの戦闘シミュレーションだよ。
寄生能力あるんだから再現したっていいじゃないか。
「治して貰ったけど勘弁だYO!」
「そうだぜ! さすがに目玉の化け物に寄生なんてさせられて溜まるか!」
健人もラルオンも俺の寄生は嫌だと抗議している。
ムーイ達は俺の寄生を前向きに捉えすぎなんだよ。
『いや、かなり助かったが』
『驚かされたもんなー弱っているはずなのにヒョイヒョイ避けて操られてたけど舌を巻いたぞ。神獣の力恐るべしって』
聖獣たちもそこは口出しNGにしてくれ。
「まあ健人かラルオンのどっちがバルトを操縦するかはともかく言いたいことはわかった。何が出来るか把握しておきたいって事ね」
俺は周囲に気配察知と目視で敵がいないかの確認を念入りに行う。
この辺りは見る能力が高い故に多少の自信がある。
妙な奴らに情報がいきわたる危険性ってのが一番怖いからさ。
念には念をで認識範囲外には見えないように簡易結界を生成しておくぞ。
パチンとな。
「敵が何処からか盗み見ないように配慮しておいたぞ」
「便利な能力を持っていることで」
「これでもヴァイリオ達から力を貸して貰っている身なのでね」
一応、世界の守護の代行者なんだからこれくらいは出来ても問題ない。
「話は戻ってバルトに決めさせるのが良いな。二人とも駄々こねず頑張れ」
こんな所で喧嘩しても何にもならない。
使えるものは何でも使わないと厳しいってのは間違いない。
とはいえ操縦ってだけならラルオンの方に軍配が上がると思うけどさ、健人って白兵戦での小回りが売りだし。
サイズが大きいとその分、攻撃は強力だけど小回りが利かない。
まだ俺が人間だった頃にはブルにこの辺り助けて貰ったなぁ。
「負けないYO!」
「アーもう面倒くせえなー」
「健人とラルオン、バルトはこれで良いとして……やる事ってあんまり変わらないような気がするんだが」
ムーイは前衛、俺がムーイに寄生できるようになったからとりあえず寄生して戦闘のサポート、何かあったら変身で対処でどうにかなりそう。
言っちゃなんだけど、現状だとこれが最適解だ。
「ユキカズがムーイと一緒にヴァイリオを呼び出す事が出来るのはわかるけど他にも手立てはあるんだろー?」
「そうだとは思う。ローティガとかにもなろうと思えばなれるし、やり方次第じゃいろんな変身が可能だな。具体的にと言われると……例えばバルトに化けるとかもできるんじゃないかな?」
バルトの解析はともかく見た目をそっくりにすることは簡単だ。
ドラゴン達を目で見て分析は割と出来ているし、竜騎兵のコンセプトがドラゴンを操縦するだからなり切る事さえできれば同じみたいなものだ。
これに変身する際にこれまで手に入れた因子とかを追加することで戦う相手に有利な姿を取れる訳だし。
「ならケント、トツカに竜騎兵になって貰って操縦すれば良いと思うZE!」
「冗談じゃねえよ! 気色悪い!」
あー……まあ、俺自身がバルトに変身ってのは出来るかもって訳だし、結局は魔力維持の観点もあって長期間の大型変身はかなり骨が折れるんだよなぁ。
「そこは出来なくはないけど、それなら別の変身をした方が効率が良いんじゃないか?」
「んー……ムーイに寄生して貰うのはわかるぞーじゃあエミールだとどうなるんだー?」
「な、なんだな?」
ああ、この前の祭りの夜にエミールが寄生する際への別口を作ったって話を思い出す。
「ユキカズに寄生して貰うだけじゃなくエミールとは話をしようと思ってたんだぞ」
「何をなんだな?」
「今回の戦いで集まった力の源をどうするかだぞ」
改造された迷宮種たちを片っ端から倒して力の源を奪い取った。
影響を受けないようにムーイが若干の変質を施しているけれど相当数の力の源が手に入っている。
死なないように体を動かす為に使っていたけれど確認するとどうしたら良いのかと言う問題はあるか。
「もしもの時は貸して欲しいと思ったけれど、ムーイの姉貴が集めたんだから姉貴の物で良いと思うんだな?」
なんでそんな事を聞くんだろう? ってエミールは首を傾げる。
まあ、ムーイは今回の戦いで倒した迷宮種から集めた力の源をそのまま抱えていて、その状態で俺が寄生しても俺は焼かれる事は無くなったから集めたぶんだけ出力が出せるようになっている。
お陰で文字通りとてつもなく強くなっているのは確かだ。
だけどムーイの反応からするとエミールにも分け前を渡そうという事なんだろう。
俺に自身の力の源を渡してムーイが変化させた影響を受けない力の源を体に入れる案をエミールも提案していたのだからこれくらいは考えても不思議ではない。
「確かにムーイだけで回すというのでも良いとは思う。分裂してその分みんなを守れる。けどエミールだと出来る事が増える可能性もあるから確認したいんだぞ」
何より、とムーイは俺を抱き上げてエミールに見せるように差し出す。
「今のユキカズがエミールに寄生したら何が出来るか、いざって時に力が足りないと困るのはエミールだって同じ、試すのは大事だぞー」
「わかったんだな……」
ムーイに頼まれてエミールも妥協した感じに受け入れる事にしたようだ。
実験は大事だもんな。
「それじゃユキカズの兄貴、虫さんにはならずにお願いするんだな」
「わかったよ。ただ、本当に良いのか?」
「なんだな」
エミールがそう言うと背中にある傷口に植え付けてある植物から花が伸びて花開く。
その花の根元を掴んでエミールが俺に差し出した。
「それじゃユキカズ、ムーイが持ってる力の源を持って行って欲しいぞ」
「あいよ」
と言う訳で俺はムーイから力の源を受け取り宝石に擬態するモードへと変化してエミールの差し出した花の中へとコロンと転がって行き、エミールの体の中にすんなりと入り込んだ。





