三百四十話
『我らが神の声がここから聞こえるのならば聞いてみたいな』
『うむ……どのようなお考えなのか』
『この状況をどうにか……はして下さらないだろう。ユキカズがいるから不要だとの判断を下していると私は思う』
そもそも下手するとこの世界の消滅をさせるって話だったろ。
『そうだった。あの方ならその手を慣行する』
大雑把と言うか、引かせちゃいけない引き金としか言いようがない。
謁見したらいろいろと言いたいことがあるんだからな。
お前には大分迷惑してるんだぞ。
聖獣共に肩入れするのは頑張ってるからだからってな。
「結局は俺が狙われるけれど偵察をするのが一番って流れになりそうだなぁ……」
機動性や隠蔽、毎度おなじみの流れだ。
「敵からしたら総大将が広範囲索敵しながら飛び回ってるって状況になるな。チャンスと見るかどう出るか」
「敵は焦ってるかもしれないぞー?」
お? ムーイが何か考えがあるようだ。
「だって倒したはずのヴァイリオ達もいずれは戻ってくるんだろー? そうなったらあいつら大変じゃないかー?」
確かに、このままヴァイリオ達が戻って来るまで待てば対処はもっと容易になるのは間違いない。
まあ、異世界の戦士の力をあっちは持っているから聖獣では後れを取る事になるだろうけれどさ。
ヴァイリオ達も二度目は無いだろう。
『そうありたいものだ』
対策くらいは出来るだろ。
「どこかに潜伏している奴を見つけるのって本当、厄介極まり無い。どちらにしてもターミナルジャンプで行ける所を飛び回って被害状況を確認していくしかないか……」
あくまでヴァイリオが封鎖した経路は一部な訳でローティガが操られていた際に起こった被害や犠牲者も多かった。
オウルエンスの村も壊滅したものがある訳だし……ちゃんと敵を駆除しないといけない。
まだ操られている聖獣が各地の町や村で暴れている可能性だって十分にある。
「割と本気で聖獣の領域に行ってしまったんだなお前」
「嫌な言い回しをするなよ……敵の認識では神獣なんだろうけど実際の神獣ってどんくらい凄まじかったんだろうな」
どうにもよくわからない。
概要だけ聞くと人類を何度も滅ぼしたような化け物らしいけどさ。
「ターミナルジャンプだったか、便利な能力を手に入れたよな。よくあるゲームの拠点跳躍だろ、それ」
「まあ、相応に魔力を消費して移動するけど確かに便利な能力だな」
これがあれば日帰りでいろんな所に行き来出来る。
下手な乗り物よりも便利だろう。
昨日はムーイやラウと一緒に懐かしの基地に行ってきたもんな。
この異世界の聖獣クラスが許可されている手段のようで……まあ、使わせて貰っている。
「では今後の方針としては神獣様が首都に先発で向かって都市開放及び敵勢力の調査を行うのですね」
「そうなる。健人とラルオンはバルトと一緒にここに待機しておいてくれ。ムーイは……来てくれると助かるかな」
ラウには留守番してほしいけど駄々をこねて来るだろうなぁ。
最悪、ムーイに包んで守れば良いかな。変身でもその辺りで守る事は出来るだろう。
「あいよ」
「了解だゼ!」
こうして会議は一区切りつき、籠城している都市へとターミナルジャンプで飛ぶことが決まった。
『都市に到着したら私を祭っている祭壇に来てくれ! そこからなら少しだけ干渉出来る。私を構築する力を落とすから受け取ればヴァイリオ達みたいに私も参加できるはずだ!』
ってペリングリさんが大人げなく俺にお願いしてきたのは、まあ聞いてあげることにした。
結果だけで言えば都市の方は籠城で困っていたけれど飛ぶこと自体はすぐに出来て結界の解除は出来た。
俺の気配で味方だと判断して貰えたし、ヴァイリオを含めた聖獣たちの助言を元に話をするとあっさりと物事は進んだ。
ペリングリからのお墨付きの加護も貰えたのが信用を得られる決め手になったね。
周辺の探索を行ったけれど敵の気配はすでになく、いったいどこへと逃げたのかと言う状態だ。
ムーイ曰く、迷宮種の気配すら周囲に無かった。
良い事だと思えば良いのだろうけれど、ここまで何もないのは逆に不気味だ。
むしろ迷宮種の気配があるのは首都より孤児院のある町の方なくらい。残党が残ってるって事かとの判断だ。
もはや本格的に撤退でもされたのではないかとすら思えてしまう。
とりあえず激戦を乗り越えた末の復興の雰囲気になりつつある。
……まあ、何にしてもヴァイリオ達の復活か最後の聖獣の救出を目的に町の防衛って事だ。
何時どこで敵が潜んでいるかわからないってのも厄介なものだなぁ。
今の俺の力ってヴァイリオ達から貰ったものが多い借り物でもある訳で……期間限定の万能を満喫すべきなのかな?
進化自体は消えないか、出力はどうなるんだろう。
そんな中で……まあ、何が出来るかを改めて確認をしようという事で町の近くでムーイやエミール、バルトや健人たちと一緒に実験を行う事になった。
ムーイもいろいろと試したい事があるらしい。
ラウも一緒で、少し離れた所で成り行きを見守っている。
「神獣の申し子から神獣と認定された雪一が色々と出来るようになったのはわかったけどよ。ムーイ、何がしたいんだ?」
「軽い模擬戦ってのをすると良いと思うんだぞーそれでケントかラルオンのどっちがバルトを操縦したら良いかとか」
「ギャウ」
「その辺りは二人揃ってバルト仕込みの戦闘訓練をして貰うのが一番わかりやすいだろうなぁ」
「だーかーらー操られていたコイツを竜騎兵に乗せようとするなよ」
「そりゃないYO! MEから乗り物を取ったらこの状況じゃ足でまといになっちゃうYO!」
戦闘の規模が白兵戦でどうにかならなくなってきているのは否定しない。
対抗できるのってムーイやエミールのような迷宮種クラスじゃないと厳しいだろう。
本気の聖獣クラスの戦いにはそれくらい必要って事か。
「そこはあれだ。助けたドラゴンの誰かの背に乗って古来にある竜の騎兵でもやれ、雪一からの恩もあるし乗せてくれるだろ」
確かに救出した人員に竜系の方々が混じっているけれどさ。
健人も中々にラルオンへの対応が厳しい。
「竜たちの目つきが辛いよ! 元々侵略者側だったMEへの風当たり考えて欲しいNE! それこそケントの方がそっちは向いてるよ!」
ラルオンも必至だなぁ……健人の方が印象は良いかもしれないのは事実かな?
「ドラゴン達の中にケントの気に入る良い女がいるかもしれないYO! だからMEにこの子を譲ってくれYO!」
「抜かしやがれ! 確かにいるかもしれねえとは思うけど雪一くらいしか相手してねー!」
この世界のドラゴン達って気難しい性質らしいからなぁ。
聖獣に近い立場故にプライドも高い。
状況が状況だから協力はしてくれるけど背中に乗せて戦えってのは嫌がる可能性は高い。
「むしろあいつら、雪一に寄生されたいって態度だったじゃねえか!」
町の守護をお願いしてあるので門番のように町の前に立っているドラゴン達を健人が指さすと盗み聞きしていたのか顔を反らされた。
助ける時に俺の活躍を目にしたから肯定的な対応をしているんだよね……宿る事で力を授ける神獣と思われてしまっている。
「背中に乗せて貰うってだけならそこにいるfrogな彼が巨大化した姿でも良いよ! ケント、YOUにおすすめYO」
ここでラルオンがエミールを指さした。
まー……一応、戦闘にはサポートしてくれていたしいざって時は体当たりで時間を稼いでくれたもんな。
しかも巨大化能力を持っているので大きさは十分だ。





