三百三十六話
「ちゃんと休むんだよー」
「ええ、神獣様もお休みくださいね」
と言う訳で、酔っぱらった健人がルセトさんを守るように送っていくのを俺は一定の距離を取りながらついて行く事にした。
意識すれば気配で町の様子はある程度分かるんだけどさ。あ、ラルオンもさすがに一緒に帰るぞ。
健人とかルセトさんには意識的にマーカーつける感じにすれば脳内でマップが出て何をしているか把握できる感じで。
ゲーム風だなぁとこの辺りは思う。
そんな感じで千鳥足の酔っ払い二人とルセトさんを孤児院までの道中。
「ウイー……」
「どんだけ飲んだんだこの狼男は」
「……それだけMEの活躍が大きかったんDAZE。平和がベスト、楽しまなきゃ損だYO」
ラルオン、酔っぱらってハイなのが実は演技でしたみたいにキリっと締めるのは良いんだけどさ……ちょっとタイミング間違えて
る気がする。
「トツカはこの後、どうするネ?」
「神獣様こそお休みになる必要があるのでは?」
「一応ムーイとラウと一緒に少し休んでたからさ、もう少し楽し気な街並みを見て回る予定」
じゃないと落ち着かない。
「OH! トツカは兵士として立派になったNE! 立派な軍人だYO」
「レラリアの兵士の夜勤は慣れたもんだったからなー」
「トツカの配属先、真っ黒だったってライラに聞いたYO。そこ基準ダメダメだから」
「あはは……懐かしいな」
トーラビッヒの居たエミロヴィアでのブラック労働な。
「働き者だって珍しくライラ褒めてたよ。でも休める時に休むのも兵士だから忘れちゃダメだNE」
「わかってるって」
正直、不眠不休でどれだけ動けるのかわかんない生き物に進化してしまっているような気はする。
とはいえ、人間だって思うためにもどこかで休まないといけないのもね。
等と健人たちを送っていると……。
「あ、ケントと神獣様ー」
クコクコさんを含めたグフロエンスの方々や……屈強な感じの人たちが集まって談笑しているらしき現場に鉢合わせしてしまった。
「ケントは神獣様に見つかって家に送迎って所? さっきまではしゃいでたわよ」
この辺りで飲んだくれていたのかね。
「どちらかと言えばルセトさんを送迎しようとして健人たちと遭遇って感じ、しかもルセトさんに俺が寄生しないか謎の警戒までしやがるの」
「ありゃま」
「この酔っ払いをさっさと寝かしつけないとな。このままルセトさん辺りに襲い掛かったら堪ったもんじゃない」
「ふふ、まーここでエミールさんにけん制しながらグビグビ飲んでたのよねー」
エミール相手にも張り合ったのかこの狼男は。
どんだけ女に色目をつける事しか考えてないんだ。
「他の人たちは?」
「神獣様や健人からすると冒険者って事になるのかしら、危険な物資の調達とか魔物退治を生業にしている人たちよ」
おー……こっちの異世界にもいるんだね。そういう人たち。
なんか今回の戦いでは裏方や避難誘導をしてもらった人の覚えがある。
聖獣クラスの戦いに安易に出すわけにはいかないよね。
「神獣様はケントの楽しい事に関して嫌そうね」
「節度は必要だと思うけど?」
どんだけ女を泣かせるような真似をしてるのかと呆れるのは間違いない。
いや……被害者の女性は特に困って無さそうなんだけどさ。
「まーケントからしたら逆に休まらないかもねー神獣様の活躍がすごくて誰に声をかけても取られちゃいそうじゃない?」
真面目なルセトさんですらもその辺り受け入れても良さそうな気配があったもんなぁ。
「ちょっとドキドキして期待しちゃうのは間違いないわよ? それくらいすごい活躍をしたんだもの」
その自覚を持ってねとクコクコさんが暗に俺に伝えてくる。
うーん……俺がすごいんじゃなくてムーイやヴァイリオ達がすごかっただけなんだけどなぁ。
もしくは神獣と凝縮された聖獣の力がこの世界の人々には眩しく映るのかもしれない。
「そういやここにエミールも居たみたいだけど今は?」
祝いの席が始まった時は居たのだけどみんなの手当てをしていて疲れているようで早めに休んでいたはずなんだ。
休んで回復したからクコクコさんたちと話をしていたのだろう。
先ほどからの会話、町のエミロヴィアでの出来事を思い出しているうちにエミールの様子が気になってきた。
今回の戦いでいろいろと助けてくれたのは元より、かなり大きな傷を負わせてしまったからなぁ。
「なんだな?」
なんて話をした所でエミールが……背中と言うか尻辺りに大きめの箱を引っ付けてのそのそと歩いている。
箱を見るとゴミ箱のようで中にはたくさんのゴミが入っているようだ。
ああ……前にデリルインの力の源を摂取した際に出来るようになった引っ付く尻尾を出す奴か。
その姿はなんだろう。ヤドカリとかカタツムリみたいに背中にゴミ箱を背負ったカエルだった。
「ゴミ掃除か?」
「そうなんだな。ちょっと集めてたんだな」
ドスンとゴミ箱を降ろしたエミールが頷く。
賑やかな祭りが開かれているから自然とゴミが出るのはしょうがない事だ。
自主的に掃除をするなんてやっぱりエミールはいい子だよなぁ。
「ユキカズの兄貴こそどうしたんだな? ムーイの姉貴とラウの坊ちゃんと一緒だったはずなんだな」
「ああ、ちょっと出かけて帰った。ムーイとラウは部屋で寝てるよ」
「そうなんだな。ケントの兄貴たちを見送るんだな?」
「まあ、そうなる」
「神獣様はエミールさんと話がありそうね。じゃあケントたちは私たちが送っときましょうか」
これだけの人が居たら送り狼なんてできないだろう。
ルセトさんも休むし、孤児院は目の前まで来ている。
「それじゃあお願いしようかな。しっかりと、健人を部屋のベッドに寝転がしてくれ、くれぐれも狼にさせないように」
「手厳しいNE!」
「ラルオンも大事を取って休んでくれよ。妙な感覚があったら俺やムーイ、みんなに声をかけてくれ」
実は洗脳が解けてないとかは無いと思いたいけど念入りにしないといけない。
「もちろんだヨ! これでも捕虜のつもりDAZE?」
どこら辺が捕虜なんだろうというツッコミはしない事にしよう。
「ウイー……なんだお前ら! こんな集まって4次会に入ろうってか? 良いぜー! パーッとなぁ! ワハハハ」
と言う訳で健人はルセトさんとクコクコさん、更にラルオンによって護送される事に相成った。
残ったのは俺とエミール、他……まだ祭りを楽しんでいる人々だ。
夜も更けつつある中でもみんな祭りをまだ楽しんでいる。
時刻は大分夜更けであるのだけどさ。
懐かしいな……こういった喧噪は。
あっちの世界で兵役をしている時はこのような賑わいの場は町によってはあった。
そんな賑わいの中でも静けさがある空気の中、道の隅でエミールがそんな街並みを見つめている。
グフロエンスの人たちと親し気な交流が出来ているようでよかった。
特にエミールが助けたグフロエンスの人とは仲良く話しているようだった。
ふと……エミールの方に視線を向ける。
エミールが背中に手を回して傷跡のある場所を軽く撫でている。
ファルレアを内部から操ろうとした際、ファルレアを助ける為にルバラムが放ったナンバースキルで負ってしまった傷。
負った際に急いで縫合して無理やり回復魔法で治したので痕になってしまったのだ。
まだ残っている傷跡が俺としては非常に気になる。
あの後、気にしている余裕は無かったけれど今なら跡形もなく治せるだろう。
「なんだな?」
俺の視線に気づいたエミールがサッと傷跡から手を放して俺と対峙するように何故か構えた。
「ユキカズの兄貴、オデの傷跡を消したいって思ってるんだな」
「まあ……そうだな。よくわかったな」
なんだかんだ一緒に居る時間も増えたからエミールも俺が思っていることをムーイみたいに察する事が出来るようになってきたようだ。
そんな傷跡があるのはエミールからしても好ましくないだろう。
と思っていたのだけど傷跡に手を当てるようにしてエミールは首を横に振る。
「消さなくて良いんだな。この痕はオデの誇りなんだな。オデ、このままだとこの痕が徐々に消えるのを敢えて残してるんだな」





