三百三十四話
「子供も居るんだし、今日くらいは楽しく祭りを楽しんでも良いんじゃない?」
「堪能しました。あの子が寝入ってから来ています」
来ていますって……普段寝てる?
人の事言えないけどさ。
「何よりあの子もこの町の子供たちと夢中になって遊んでいましたからね。今日は寝るのが早かったくらいです」
「そ、そうなんだ。とはいえ、俺としてはルセトさんもゆっくり休むべきだと思うよ?」
誰よりも遅く避難して、それからの出来事でみんなの手伝いを率先している姿を把握している。
やっと一区切りついた所でまだ休まず見回りしているなんて相当だ。
「これが私なりの精神安定の方法なので……もう少し見てからにしようと思います」
とか言いつつ朝方になっても休まなそうな雰囲気を持ってるなぁ。
うーん……何だろう。働き者で真面目な良い人なんだというのは少し会話するだけでもわかっている、俺も好感触な人だ。
みんなを守るために最後まで残るとか勇気もあるしね。健人が気に入る良い女な人な訳で……。
だからこそ心配だなぁ。
「じゃあ俺もルセトさんと一緒に行くかね」
「神獣様の手を煩わせるわけにはいきません」
はっきりと言い切るなぁ。
誤解が多い人だとも聞いていたけど、こういう所が原因か。
この不器用感は……なんだろ、ブルやドーティスさんを思い出してしまう。
あの二人も働き者で率先してこういう事をしている人だった。
ああ……そういう意味でルセトさんって放っておけない人だね。
「これも俺の性分なんだよ。だから一緒にいくよ。健人から聞いてない?」
「……」
「何より、無茶されて倒れられると君の子供に申し訳ないでしょ」
……体調を目でしっかりと確認。うーん……やや疲れ気味のようだ。
本人が満足する範囲で見回りをさせたら休ませないとね。
「あまり無理をするようなら無理やりにでも休ませるよ」
「神獣様……あなたもケントのように私を気になさるのですね」
「みんなが楽しんでいる席で気を抜けずにいる人が居るからね。そういうのは俺がやる事さ」
ルセトさんたちも戦う事は出来るのだろうけれどここは兵士をしていた俺が一番にしないといけない案件だ。
「……わかりました。こういう時、遠慮をしてもケントは引きませんでしたので神獣様も引いて下さらないでしょう。よろしくお願いします」
ケントから学習したって所が気になるけれどルセトさんも妥協をしてくれるようでよかった。
「そんじゃルセトさん。歩き回るのは疲れるだろうから俺の背に乗って行こうか」
「は、はい」
そんな訳で俺の背中に乗るように指示して町の見回りを行う事にした。
で、低空飛行をしながら町の外側にいる避難民たちの様子を見て回る。
みんな勝利ムードを楽しみ、各々夜も更けて野宿に近い形で就寝している人たちだ。
一応町の建物は解放されている
他にエミールやムーイが仮設で家を作ってくれてはいたけれど、外で寝ている感じだ。
いや……平和であると実感したくて外で寝ているのだろうか。
起きている人たちは俺を見て楽し気に手を振っている。
「神獣様が見回る事でみんな安心して休むことが出来ているようです」
「そうだね」
中には地面に仰向けに倒れている人が居たりするのでそうなったら降りてルセトさんと一緒に確認を行う。
ほとんどが酔いつぶれて居たり地面にそのまま寝ているってだけだったりするんだけどね。
それでも気になるって事でルセトさんが毛布とかを掛けて寝かしつけていた。
働き者だなぁ……やっぱり。
俺としては本当、良い人って思う。
ああ、ブルが懐かしいな。
健人と仲が良いカトレアさん達の中ではルセトさんの不器用感は、実にブルとドーティスさん感があってあの二人でしか補充できない感覚をルセトさんから感じさせる。
あの二人と会話出来たらルセトさんみたいなのかなー。
エミールも健気な所は良いよね。気が弱い所がブルとの大きな違いかな。
その点で言うならルセトさんの方が二人に似てる。
「神獣様? どうしました?」
「いいや、特に何も。ルセトさんは良い人だなと思ってね」
「私は良い人ではないです。ただ、こういう時こそ困る事もあるかと思うだけです」
うん。ブルもそんな感じの返事をしてる時があったと思う。
兵役時代に町の祭りとかあって休み時間を貰ったのにブルは見回りしてたなぁ。
「どうだろうね。俺としては良い人だって思うだけかな」
「神獣様が仰るほどではないです。良い人と言うのはそれこそ人々を救い、聖獣様さえも解放して下さった神獣様の事を言うのだと思いますが」
「俺? うーん……」
俺が良い人ねー……いや、それは無いな。
だって俺はヴァイリオ達が頑張ったのを支えていただけで、その頑張りが無意味となった挙句、敵の利益にしかならない……ヴァイリオ達が無念で座に帰るのが受け要られなかっただけなのだ。
だから無茶をして……ムーイやみんながフォローをしなくちゃいけなくなった。
その結果が今で、俺がここにいるのはみんなのお陰なのだ。
こんだけ迷惑をかけて良い人ってのはちょっと俺の理想とは違う気がする。
だから自惚れたくない。
何より俺は……我が身可愛さに異世界の戦士となるのを断わり、一緒に召喚されたみんなを見殺しにしてしまったような奴なんだ。
後悔したくないのが原動力な奴が良い人な訳ない。
もっとさ、ブルみたいに体が勝手に動いて人助けが出来る、どう転んでも誰かの力になるのが良い人なんじゃないかな。
『理想が高すぎる』
『気難しいにも程がある』
『結果が良ければ良いではないか』
『完璧主義もここまでくれば病気だ。それで死んでは身が持たない』
『ムーイ……ムーフリスの気苦労は尽きないな』
ああもう頭の中で聖獣たちの指摘が五月蠅い。
わかってるよ。難儀な性分なのは!
「俺は手伝っただけ、結局はヴァイリオやムーイ、みんなが頑張ったから今回は上手くいっただけ……さ」
ルセトさんも俺に気を使うなんてしなくて良いのにね。
「……」
ルセトさんが俺を見つめ、なぜか深々とため息を吐く。
「……謙遜ではなく本当に、神獣様は思っていらっしゃるのですね」
何その諦めたみたいな態度、ちょっと気になるんだけど?
事実でしょ。俺の手柄だなんて自惚れも大概でしょ。
みんな頑張っただけで俺の考える良い人とは違うよこれは。
「さて、見回りも程々にさ、そろそろ休んで欲しいとは思うかな。ルセトさんに倒れられたりしたら俺は元よりみんなが困るから」
「……承知しました。神獣様が望むのでしたらキリも良いですし私も休みましょうか」
休むことを了承してくれてよかった。
「……それで念のために聞きますが、本当に休むので良いのですよね?」
「え? 何か別の意味があるの?」
「……ケントだったらこの後、私との時間を楽しむ、デートや食事……そのままベッドに来るので」
あのハーレム思考の狼男! まさか俺がルセトさんにそういったお誘いをしていると思われていたのか?
激しく心外だ。実に不愉快で心外だぞ。ええ、真に心外だ。
「神獣様の遠回しのお尋ねの可能性もあったので、念のために確認したところです」
「本当、そういう意味で近づいたんじゃないから! 確かに真面目に頑張ってるから良いなと思ったけれどさ」
俺も何を言ってるんだ?
ルセトさんの人柄は羨ましいとは思うけど欲しいとかそういうのじゃないから!
俺にはムーイやエミール、ラウが居るから良いの!
何よりブルやフィリンだっているもん!
ってムーイはともかく他の連中も体目当てじゃないっての!
どんどん混乱している自覚がある。この考えは危険だ。





