三百三十三話
「きゅー……きゅー……」
いろいろとあったからなぁ。なんて思いながらラウの寝顔を二人で見つめている。
ムーイもあくびを何度もかみ殺していた。
大分眠くなってきているようだ。
「今夜はここで寝るか? ムーイがしたければそれでも良いぞ」
「んー……それも良いと思うけど、どうしたら良いかなー」
ムーイが迷う様に俺とラウを見ている。
「……今回は町に帰った方が良いと思うぞ」
おや? せっかくだから寝るとか言うと思ったがしないようだ。
「ここで寝るというかと思った」
「それも良いとは思ったんだけどなー……」
ショボショボと眠い目を擦ってムーイは俺を見つめる。
「あのなユキカズ。ムーイな……ここで生活している頃、ユキカズさえ居れば他に何もいらないって思ってたんだぞ」
「……」
あの頃のムーイは俺と交流していろいろと学んでいる最中だった。
俺も強くなりたいからムーイに手伝ってもらって、直に旅立つ予定ではあったけれどどれくらい強く成れば良いのかとか不明瞭だったっけ。
目的があるようで無かったと今にして思う。
「いつかユキカズが何処か行っちゃう。それが嫌で、どうしたら良いだろう? ってあの時、怖かった。だからどこにでもついて行くって言ってついてったの」
「ああ……」
ムーイは俺が何処へ行ってもついてきてたっけ。飛べるから留守番もしてもらっていたけどね。
小回りと機動性は俺が上だったから調査として出かけていたっけ。
もちろん、大きく移動する時はムーイを連れて行くと決めてはいた。
「どこかに出かけて、他の人とユキカズが出会ったらムーイの事なんて知らないって思われちゃうかも、だから誰かと出会うって嫌だなとも思ってた事あるんだぞ」
「ムーイ?」
「ユキカズが居なくなるなら……ムーイとずっと一緒に居られるように、寄生してもらわなくても体の中に閉じ込める考えもあの時は……」
眠そうな顔のままムーイは思い出に浸るように俺に言い続ける。
なんか恐ろしい事を喋ってないか?
あのままムーイと生活してたらムーイが病んで俺を体の中に監禁とかするかもしれなかったのか?
「でも、今はそう思わないんだぞ。ラウやケント、みんなと出会えて、とっても楽しい。だから町に帰る」
ああ……なるほど、ここは俺とムーイの二人っきりで生活していた場所、世界だ。
だけどここから出て新しい出会いを経験したから思い出に来るのは良いけれど、今回は町に帰りたいと言いたいんだ。
そうだな。俺とムーイだけの世界がこの場所だったけれど、今の俺たちからすると少し窮屈だ。
なし崩し的にこの拠点から出て行かざるを得なかったけれど結果的に良かったと今なら思える。
あの時は、いつムーイが死んでしまうか、いや……死んでいるのを俺が受け要られずにいたのかと悩んでいた。
それが今やこんなにも二人そろって成長したんだ。
人生何が起こるかわからないもんだ。
ムーイも、変な成長をせずに済んだのは何よりだと思うと同時に、監禁は考えすぎだろう。
「あんまりあの頃の事を考えて悩むは程ほどにな? ムーイの事だからそんな真似は閃いてもしないさ」
だってあの頃のムーイは俺と一緒に居るのを心の底から楽しんでいて、俺に嫌われるのが嫌だったんだろ?
監禁なんて真似したら嫌われるのがわかっているんだからするはずもない。
……死にかけた時に謝られるのは本当に勘弁してほしいもんだ。
「じゃ、帰るか」
「うん。もっとムーイは世界を見なきゃいけないんだぞー」
ムーイが決意を胸に、そう言い切った。
「ま、何かあったらここを別荘って事で遊びに来ればいいさ」
「おー」
「きゅー……」
と言う訳で俺たちは寝ているラウを起こさないようにしながら町へと戻る事にしていた訳だが……。
『カーラルジュと言う奴に襲われなければ間違いなく、ずっとここで生活していただろう』
『そうだな。間違いない』
『行動が遅いタイプのようだから何か試練が無ければ変化は無いだろう』
『もしかしたらその辺りを予見してあの方が派遣した可能性があるぞ』
……と、俺の行動力とかいろいろと考察を聖獣共が五月蠅くしていたのは無視することにした。
その所為でムーイの新たな決意とかに意識が集中できなかっただろ。
まったく……脳内と言うか他の人に聞こえない聖獣たちの声が俺の視界を通して実況が延々と聞こえるのは面倒なもんだ。
必要以外は聞こえないようにしておいた方が良いのかな……その判断に悩む。
そんな頭の中での声を聞き流しながら俺はムーイ達を連れてターミナルジャンプをして町へと戻った。
町は夜も更けつつあるけれど賑わいは残っているようだった。
まだまだ戦勝ムードは解ける気配はないって事なんだろう。
とは思いつつ眠そうなムーイ達を孤児院の部屋へと案内し、ムーイとラウが寝入るまで添い寝をする。
「むにゃむにゃ」
「きゅー……」
幸せそうに眠るムーイとラウの寝顔を見ているとほっこりした気持ちになるね。
ちなみにムーイの一部は俺の尻尾に引っ付いて無意識モードで待機している。
……まあ、今の俺は力が満ち溢れている状態なので眠気がね。
もはや習慣化してしまっているような気がする。
ムーイを巻き込んだ進化をしたのにこの辺りは相変わらずって事か。
と自嘲しつつ夜もまだ更け切っていないのを理由に見回りを行う事にした。
こういう時こそ敵がどこかに潜んでいるかもしれないからさ。
そんな訳で周辺の気配察知を展開……。
進化の際にヴァイリオ達やムーイの影響を多大に受けたので察知できる範囲が大幅に広がっている。
とはいえ……ヴァイリオ程の広範囲高性能はしていない。
さすがにそこまで上がっていたらヴァイリオを召喚変身しなくてもよくなってしまう。
やろうと思えばできるのかもしれないけれど、相当疲れるだろうなぁ。
俺が進化の際に選んだ選択は良い人の力になりたい。だからか万能の強者ではないのだろう。
まあ、その気になったらヴァイリオを呼び出せば出来る事だしね。
なんて思いながら窓を開けてひょいっと耳で羽ばたく。
羽を出しても飛べるけどこういった飛び方も出来るようになった。
孤児院の庭でリイが手を振っている。
行ってらっしゃいって見送っているようだ。
ふと孤児院の窓の方を覗くとカトレアさんが寝ている子供たちの様子を見ている。
うん……ここは平和だね。
さて……何か異変が起こってないかと夜景が煌めく町の空で周辺の気配を把握する。
ついでに夜目で視認だ。
なんだかんだ目が良いのが俺の特徴なんだし。
そうして夜の町を空から確認していると……とある人物を発見した。
なのでその人の元へと舞い降りる。
いったい何をしてるんだろう? と。
その人物とはアナグマっぽい人種のルセトさんだ。
町の近くをうろうろとしながら周囲を見渡している。
一見すると非常に怪しく見えるけれど……一応、難民キャンプの人たちの様子を巡回しているようではあった。
「……」
「ルセトさん」
「あ、神獣の申し子……いえ、神獣様と呼ぶべきですか」
「あー……まあ、ね」
幻神獣カーバンクルってのに進化してしまった訳だし、神獣ってのは間違いないのかもしれない。
あの神様っぽい声も認めるとかなんか言ってたし。
「私に何か御用でしょうか?」
「用って訳じゃなく空から町を見てたらこんな所で何をしてるのかなーって気になったから声をかけた感じかな」
ルセトさんは健人との間に子供もいる訳で、こんな賑やかな祭りが行われている中で一人何をしているのか気になる。
子供は? とかね。
「こういう時こそ警戒は怠ってはいけないですし、何か困っている方が居ないかと見回りをしていたんです」
わー……真面目だなぁ。
兵役経験から仕事の同僚的な感覚を持ってしまう。
これで自発的にやってるって事らしいんだよね。





