三百三十二話
「何をするんだー?」
「きゅー?」
「ああ、ちょっとな。まあ、驚かそうとしてるんだから待っててくれって」
そんな訳で俺はターミナルポイントにアクセスし、ヴァイリオ達の力を持って進化したことを証明するように習得したスキル、ターミナルジャンプを行う。
ピコっとターミナルに使用すると表示されるステータス項目が切り替わり地図が表示される。
その地図内にはこの世界の地図、俺が今まで経由したターミナルが映し出される。
もちろん現在地は大きな丸が表示されており、そのカーソルを……とある地点に設定。
うん……いけそうだ。まだ使い慣れていないから慣れないがもしかしたら行ったことない場所も指定できるかもしれない。
えーっと……ヴァイリオが施したプロテクトがある。ここからまだ捕らえられている聖獣が来ないようにしてあるのは当然か。
とはいえヴァイリオが施したプロテクトを俺は通過することが可能となっているので行ける。
俺だけ飛べるって可能性もあったけれどどうやらムーイ達も一緒に連れていけそう。
「よーし、行くぞ」
決定を指示することでカッと光が視界を埋め尽くし、ターミナルジャンプが発動、光のトンネル内へと瞬間移動して移動していく。
周辺の景色が高速で移動しているのが目が良いからわかるなぁ。
……これも一種のダンジョンか。
ジャンプに失敗するとここを攻略してどこかに出なきゃいけない事になりそうではある。
とはいえ今の俺ならそんな失敗は一応しない。
カッとすぐに目的地に到着できた。トンネル内から出て俺たちはターミナルの周囲に瞬間移動をする。
「わ」
「きゅう?」
目が眩んでいたムーイとラウが瞬きをしながら周囲を見渡す。
「ここは……きゅ?」
ラウが周囲をきょろきょろと見渡している。
まあ、明かりがないとよくわからないだろう。
なので俺は光の魔法で周囲を照らし、更に魔眼も展開して見えるようにする。
「おー!」
ムーイはすぐにここが何処かわかったようで驚きの声を上げる。
「ユキカズ、ここ! ムーイ達が最初に生活してた所ー!」
「ああ、俺とムーイが一緒に生活していた地域だな」
そう、ターミナルジャンプで俺たちは最初に活動していた拠点近くに跳躍してきたのだ。
多少魔力は消費したけれど、どうやら実験は成功したようでよかった。
帰る時も同じ方法で町へと帰還できる。
ゲームとかだとあるお約束の便利魔法だね。
ダンジョン脱出は帰路のオイルタイマーとか懐中時計があるけれど拠点帰還や拠点移動は無かったから非常に便利な能力だ。
「わー……」
と、ムーイが楽し気に周囲を見渡している。
「あ、ユキカズ! ここ、結構危ないぞ。魔物が良く居た」
「今は問題は無いな」
俺を狙ってビリジアンワイルドタイガーがよくここで見張っていたっけな。
周囲へ気配を飛ばすと縄張りとしている魔物の気配が近づいてくる。
なのでそっちの方向をギロッと圧を掛ける。
すると近づいてくる魔物はすぐに息を殺すように大人しくなり徐々に遠ざかって行った。
今の俺からすると格下の魔物だ。交戦しても簡単に倒せる。
何よりムーイが居れば余裕で勝てる奴らだから、心配は無用だ。
「ユキカズ、こんな事が出来るようになったんだなー」
「おう」
ムーイがラウを抱えてそわそわとしている。
俺たちの巣穴がある所へと顔が向いてるぞ。
「せっかくだし、拠点にしていた巣穴に行ってみるか?」
「良いのか?」
「ああ」
「きゅー?」
「あのなームーイとユキカズが出会った場所がこの先にあるんだぞ」
「きゅー! お義父さんとお義母さんが会った所っきゅー!」
ラウも興味津々と言った様子で目を輝かせる。
「映像で見たーあの場所っきゅー」
そういえばラウや孤児院の子供たちなんかには映像魔眼でムーイとの生活を再現して見せていたっけ。
一種の娯楽感覚でみんな楽しんでくれていたなぁ。
「今はどうなってるかわからないけどな」
あの時はここでの生活は終わり、ムーイの力の源を奪ったカーラルジュを追いかけようと拠点を放棄して旅立ったんだ。
その拠点に戻ってこれるなんて微塵も思わなかった。
「行ってみたいっきゅー!」
「おー! あ、でも孤児院の子供たちも来たがると思うぞ?」
連れて行く? ってムーイがターミナルポイントの方を心配そうに見て俺に尋ねる。
ムーイは本当、思いやりがあるなと感じてしまう。
楽しそうな事を独り占めしたいとは思わないんだろう。
「まあ、機会があったらな? さすがにあの大人数をこんな所に連れて来ても良い事ないし、何より下見が大事だろ?」
今は何があるかわからないんだし、俺の能力確認と散歩感覚で来たのだからそこまでしなくても良いと思う。
「わかったぞ。じゃあラウ、ムーイとユキカズの思い出の家に行くぞー」
「きゅー!」
と言う訳で俺たちは最初に拠点にしていた巣穴を目指して足を進めた。
崖に作られた拠点に到着した俺は先に中を確認する。
うん……場所が場所故に大型の魔物が巣食ってはいないようだった。
ただ、フローデスアイボール等が入り込んで巣にしているようだ。
俺と目線が合うなり圧倒的格上のオーラを感じたのか一目散に拠点からぞろぞろと列を成して出て行ってしまった。
「おー……」
そんな列を成して飛んでいくフローデスアイボールを見送ったムーイとラウ、俺は再度拠点内に魔物が居ないかを確認してから拠点から顔を出す。
「もう大丈夫だぞー」
「わかったーけど、あいつらに悪い事しちゃったなー」
まあ、捨てた拠点に戻ってきた俺たちが悪いのはわかる。
だけど思い出の場所だし、俺の作った所なんだからと言うのもある。
……もう帰ってこないと思ったけどね。
「まあ、あんまり気にしない方向で良いだろ。ちょっと中を見るだけでさ」
「うん……」
そんな訳でムーイがラウを背に乗せサクサクと崖を軽く跳躍して拠点に入る。
拠点内はー……まあ、あれからそこそこの時間が過ぎてしまい、魔物たちの隠れ家となってしまっている影響か、俺たちが居た頃とは大分異なる野性的な形相となってしまっていた。
かまどの名残や寝床なんかはあるのだけど、いろいろと苔むし、魔物の老廃物なんかが各所に点在している。
一種の廃墟探索をしているような、そんな気持ちになってしまう。
「ここがお義父さん達の生活していた場所っきゅ」
「そうだぞー」
「大分汚れてるけどね」
ちょっと掃除とばかりに魔眼で汚れを浮かせて集める。
ムーイも自発的に掃除を手伝い、ごみを土等に変えて踏み固める。
これだけでも結構、小奇麗になるもんだ。
「なんかこう、ユキカズ。リフォームって奴をやりたくなるなー石壁とか木の壁とかに壁を変えてみたくなるぞ」
ムーイの能力を使えばそんなことも簡単に出来るだろう。
思えばなんでしなかったんだろうな。
「そうだな……」
「あ、でも今は座れるようにするくらいでいいか」
と、ムーイはテーブルとイスを補修して能力で再度固めるだけに止めているようだ。
なんて感じに掃除を軽く終えると俺たちが出て行った時とほとんど同じくらいには拠点は蘇った。
「……」
「懐かしいぞー」
「きゅー」
椅子に腰かけムーイがラウと一緒に俺に微笑む。
俺も合わせて竈の前に立つとあの頃に戻ったような錯覚さえ覚えた。
そんな訳で俺とムーイ、ラウは懐かしき拠点で少しばかり思い出話をしていた。
が、ラウは大分疲れていたのかそうこうしているうちにムーイに抱きかかえられるままに寝息を立て始めた。





