三十三話
「しかし……帰路のオイルタイマーでないなぁ」
「これだけ宝箱があるのに見つからないのは歯がゆいですね。階層的には無造作に宝箱に入っていても良いと思いますけど」
「その言い方だと……」
「はい。何でも浅い階層だとアーティファクト枠で発見される物だそうです。かなり仰々しい所に鎮座してある宝箱に入っているとか」
浅い所ではレアでも深い所では二束三文ってのはゲームではあるよね。
そんな法則がダンジョンにはあるって事なんだろう。
「どっちにしても、早く見つかってくれ! 帰りたい」
「ブー」
「そうですね」
なんて様子で俺達は進んでいく。
空を見上げると、出口と言うか入り口なのか? の柱が大分近づいてる。登るのかどうかは分からない。
やがて大きな道を避け、迂回を繰り返しつつ進んだ結果。地下24階へと続くと思わしき光の柱の根元近くに辿り着いた。
わけなのだけど……俺達は絶句してる。
30メートルくらい上に……足場が続いていて、下の方は倒壊していた。しかも魔物による破壊の痕跡あり。
これじゃあ登れないだろ。
その先に光の柱があって、あの先に道があるのだと推測される。
フックで引っかけるにしても届かない。
ブルに投げてもらっても無理だ。
そりゃあ垂直に30メートルもあればな。
どこの超人だって次元に該当するだろ。
「……どうしましょうか?」
「固い草を編んで足場にして登っていく? 土を固めてでも良いけど」
「できますか?」
ちなみに光の柱の根元は大きな道に面していて、時々大型の魔物が我が物顔で通っていく。
無理だろうなーちぎっては投げてを繰り返して足場にするにしても厳しい。
無駄に広いのが原因だ。あそこだけ道じゃなくてフロアとなっているから大きな道が更に大きいわけだし。
Lチャージで強引に跳躍して届いたら……良いなとは思うけど、なんとなく無理な気がする。
俺達、詰んでないか? とも思うけど……。
「地下30階を目指す?」
「うーん……」
「ブー」
だよねー。
それをするくらいなら辺りを探索して帰路のオイルタイマーを探せって感じだ。
「ブラウンフライアイボールをどうにかして誘導して足場にして行くとか?」
「モンスターテイミングで使役するって奴ですか?」
一応、この世界には魔物のテイミングという要素があるのは訓練校で知っている。
食用の魔物とかはそうやって飼育されているわけだしね。
間違っても食用オークを狩猟して食っている文化は無い。
どちらにしても……ターミナルとか無いと無理だ。
まあ、訓練校で習った話だと冒険者カードの材料はダンジョンで見つかるそうだし、上手く使えばスキルを覚える事はできるかもしれない。
「さっきブルさんとで気付いた脇道に何かありそうな影がありましたよね」
「ああ、チラッと見えた白い角みたいな奴ね」
やや大きめな道に面して居そうな場所に見えたあそこね。
「どうせこのままでは手立てが無いんです。そっちへ調査に行くのはどうでしょうか?」
「そうだね。どっちにしてもあそこに行く手立てを見つけなきゃね」
跳躍力を何十倍にする靴とか、空を飛べる羽のアーティファクトとか実在するか分からないけど見つかる可能性はゼロじゃないんだ。
そんな都合の良い物が見つかるのか知らないけど。
「ブー」
そんなわけで俺達は24階への入り口から離れ、途中で見つけた何かの方へと足を進めた。
まあ、その何かに行くまでに多少魔物と遭遇したりやり過ごしたりしたわけだけど。
半日くらい掛けてやっと、その白い何か……なんか建造物っぽい物の近くまで来る事ができた。
ダンジョンでは時に様々な建物や遺跡、残骸が見つかる。
何故こんな場所にそんな物があるのかはよく分かっていない。
ただ、何かしらの文明の痕跡が、ダンジョン内で存在しているそうだ。
研究の結果、ダンジョンが形を変える際に、巻き込まれたとしか思えない……壁と自然物の境みたいな物があるとか。
バラバラに分かれた世界の欠片を滅茶苦茶に接合したら……なんて考えもあるくらいだそうだ。
そんな理由で不自然な所に建造物があるわけで。
「なんだろ?」
「白いですよね……なんでしょう? 大型ダンジョンの法則で当てはめると、宗教関連の廃墟か、遺跡だと思いますけど……要塞等のパターンもあるそうです」
迂回して少しずつ近づいていくのだけど、いったい何なのかちょっと分からない。
建物の形状は窓っぽい物の位置から察するに、3階建てくらいなのかな? その割に一階毎の差が大きいみたいだけど。
所々破損しているのか穴がある。これは魔物の攻撃を受けた所為かな?
で、その道中。
「待ってください」
「ん? どうしたの?」
フィリンが道の端で少しだけ盛り上がっている地面を軽くロッドで穿る。
そこから……なんか板っぽい何かが顔を覗かせる。
なんだこれ?
「ユキカズさん! 運が良いですよ!」
「ブ!」
ブルも気付いたのかフィリンが見つけた何かを掘りだす手伝いを始めた。
出てきたのは……黒い板?
「機能停止したターミナルです!」
「だ、大丈夫なの?」
そりゃあ、かなり便利な代物が見つかりはしたんだろうけどさ。
「何の知識も無ければそうでしょうけど、私は整備兵志望ですからね」
フィリンは土を払いのけながらターミナルの下半分の一部を取り外す。
え? そんな仕組みなのか?
「全部解析できているわけじゃないですけど、程度は良さそうです。随分前に設置された物みたいですし、見たところエネルギー切れで機能停止したんじゃないかと……」
そう言いながら何かをスライドさせて開ける。
「魔石を頂きますね」
道中で倒した魔物から入手した魔石を嵌めこみ、何かスイッチを押す。
するとターミナルは燃料を得てエンジンを掛けたかのように淡い光を放って浮かび上がった。
「良かった。機能してますね。地面にも固定されていますし、これで少しはゆっくりできますよ」
「そうなの?」
「はい。ターミナルには結界と迷彩効果があって魔物の接近を抑える効果があります。持ち運んで設置とかをする場合はその機能を使用するのが大変ですけど、ここにあるのは問題なく起動してます」
「おー……」
そんな効果まであるのかー。俺が最初に抱いたセーブポイントみたいなというのはあながち間違っていないのか。
ターミナルはダンジョンからも出土すると聞いていたけど、こんな所で見つけられるとはね。
「守護に使った場合、燃料となる魔石をその分、消耗しますけどね」
やっぱり話はそうそう甘くはないか。
とはいえ、今の俺達には心強い設備を使用できるというのはありがたい。
「とりあえずステータスを確認しましょう」
「そうだね」
「ブー」
というわけで順番にそれぞれステータスを確認する事にした。
兎束 雪一 Lv58 侵食率 24.59%
所持スキル 異世界言語理解1 異世界文字理解1 No:Lチャージ HP回復力向上1 スタミナ回復力向上4 投擲修練5 マルチアイ5 採取補正4 ファイアマスタリー5 回避向上4 調合補助3 アーマーマスタリー5 ライディング3 初級料理技能3
※ステータス補正スキル 腕力アップ3 敏捷アップ4 体力アップ2 スタミナアップ1 命中アップ2
スキルポイント99
41も上がってるのかよ!
そりゃあ急成長だな!
58って新兵が達成できるLvなのか?
それに合わせて侵食率も果てしない事になってる!
精々4%くらいだったのにいきなり20%も増えてるぞ。
むやみやたら使いたくないと思っていたのにコレか。
不吉な感じがして嫌だな。
武器が原因か、それともLチャージの所為かは分からない。
おそらく両方なんじゃないかとは思うんだけどさ。
「ブー!」
ブルはーLvは32から55まで上がったんだと。
手話ってわけじゃないけど手を叩く回数が十の位で足が一の位と話したから分かる。
「47です……いきなりここまで上がるだなんて。如何にここが過酷なのか分かりますね」
「適正じゃないからね。下手すりゃ経験値汚染で死んでたよ」
多分これだけのLvがあっても俺達だけじゃ地下17階くらいが適正なんじゃないだろうか?
ただ……フィリンはともかく、俺の倍ほどあったブルのLvを追い抜いたのは納得できない。
手に入る経験値にバラツキがあるのか?
異世界人補正とやらは経験値にも影響があるのだろうか?





