三百二十九話
『君がどのような能力を持ち、私に力を貸してそしてどう進化し、みんなを救ったのかを知れば悪いとは思わんよ』
『そうだな。ところで次は私を呼んでほしいのだが』
『うう……私が呼び出される隙間は無いだろうか?』
聖獣共が状況に口を突っ込んでくる……ああ、見せつけてやるとは思ったけど、よくしゃべってくるなぁ。
ローティガ、君はヴァイリオの演技で仕留めて取り込んでやる的な話に全力で反抗してたというのに……実質、俺に取り込まれてるのに近いんだよ? まあ、座にいつでも行き来出来るんだけどね。
人間だった頃も時々神獣の声が聞こえてたけどここまで常時聞こえるのは中々プライバシーとかが無くて辛いかもしれない。
何にしてもみんなの治療をして、まだ捕らえられている最後の聖獣を含めた敵勢力がいつ来ても良いように備えないといけない。
と、まあ……その日からしばらく人々の治療に追われることになった。
犠牲は最小限に抑えられ、直近の脅威は退くことが出来たのは、ムーイをはじめとしたみんなのお陰だと俺は思っている。
「神獣、ユキカズ様と聖獣様の勝利を祝ってー!」
「かんぱーい!」
と、町では戦勝ムードに支配され、恐怖から解放されつつある。
そんな賑やかな町の喧騒を耳にしながら俺はラルオンとバルトを前にして色々と聞くことにしたのだった。
もちろん現場には健人やムーイ、エミール、町長もいる。ラウはムーイに引っ付いて同行してるぞ。
最近、大分成長して来た。俺も随分といきなり成長しちゃったけど、ラウも負けじと育ってくれているね。
まあ、取り調べって程ではない軽めの詰問する場って感じの部屋で話をするところだ。
「みんなの手当てはある程度目途が立った訳だけど、ラルオン。色々と聞いて良いか?」
「なんでも聞いてくれYONA! じゃないとこっちもウズウズしてたTOころだZE?」
はあ……これが素なのかな、ラルオンの。
もう少し出来る冒険者な雰囲気だった気がするんだけどなー。
「冗談はこれくらいに、ユキカズ。YOUは何を知りたいんだい?」
やっとスイッチが入ったのかラルオンが真面目な様子でサングラスを外して尋ねた。
「そうだな……藤平に殺されたという話は聞いた。アイツもラルオンの免許証を所持していたし……」
「その話は事実だNE。ある日、ヒデキがME達が依頼でダンジョンに居る時、異世界の戦士の力を使って不意打ちで皆殺しにしたYO……MEもあっという間にやられちゃったNE」
ああ……やっぱりそうだったのか。
ラルオンの体には藤平にやられたであろう酷い傷跡が残っている。
「次に気づいた時は、謎の研究所みたいなところの培養槽で体を修復されつつ改造されていたNE。蘇生処置を受けたのは想像に容易いYO」
そういえばあっちの異世界の話なんだけど、ダンジョンで死んだとしても死体が新鮮なうちは蘇生処置が出来るって話だったような気がする。
ラスティの知り合いにその手の専門家がいるとかなんとか。
大遠征とかだと蘇生班って部署があるしダンジョン内でも蘇生にかかわるアイテムが見つかるとか……リザレクト……なんとかとかそんな名前の見つかると凄い金額で取引される品だ。
「で、ヒデキの仲間らしきローブを羽織った奴がME達を仲間に渡していたようだったYO。薄っすらと覚えてるヨ」
ああ……俺が臨界を迎える時に戦ったあの神を僭称する奴な。
結局アイツは……何者だったのかまでまるで分っていなかったけれど……今回の勢力に所属した奴だったのだろうというのは異世界の戦士の力を戦った改造迷宮種たちが持っていた所で薄っすらと分かっていた。
「その後は改造されて洗脳されていたような状態だったYO。思い通りに体が動かず命令されて動いてたNE」
「その件で何か知っていることは?」
「……冒険者をしてると、失われた古代文明に関する記述とか詳しくなるYO」
ラルオンが今まで以上にシリアスな顔で答える。
「遥か過去に人類が築いた魔導文明、その文明の機械がME達……いや、ユキカズ、YOU達を元の世界からME達の世界に招いたんじゃないかとMEは思うNE」
「その根拠は?」
「奴らの技術をこの目で見てきたNE」
俺はバルトの方を見る。
するとバルトは肯定だと頷いていた。
……俺が所持したスキルにも機械仕掛けの神を討つ者というのがある。
露骨にそいつらを仕留めろとこの世界の神が付与したっぽいもんな。
何よりあの基盤なんかから得られる情報からしてそれっぽい。
「ま、ラルオンは卓越した操縦技術を買われて、この世界の侵略をするために派遣されたって所か」
「そうだYO! 奴らが開けた穴を通って来たNE。つまりYOUと同じ異世界の戦士って事だNE!」
チェキラ! ってその陽気に指鳴らさないでくれよ。
「おい雪一。お前本当にこいつ助けたかったのか? マジ面倒くさくね?」
「ワッツ? MEは面倒じゃないYO?」
「いや、その喋り方はマジで面倒なんだが」
「OH! そう言わないで、YOUは確かケント言ったNE! 助けられたからにはMEも仲間だYO! YOUの操縦、中々よかったYO! けど負けないNE!」
健人がブンブンと握手を求めるラルオンに心の底から面倒臭いって顔してる。
「雪一、しっかりと面倒見ろよ! 俺に近寄らせるなこの変なラッパー!」
「ラッパーじゃないYO! 冒険者NE!」
「ま、年齢は近いだろうし仲良くしてやれば? ラルオンなら酒も付き合ってくれるはずだしー」
「お酒は楽しいNE! ケントもこれで仲間だYO!」
「割とマジでこういう奴苦手なんだが……俺の良い女に手を出したら承知しねえぞ!」
いやぁ……さすがにラルオンもこの世界の人種は管轄外じゃない?
「良い女いいね! MEも楽しませて貰いたいYO! いえーい! 確かにみんないい人だったNE。恋に燃えちゃうかもYO!」
……ラルオンってそういえば異世界人。人間じゃなく獣人とかもあっちの異世界では居たっけ。
アサモルトなんてアザラシ獣人になれたし、その辺りの感覚……日本人より受け入れやすいのか。
「まあ……ラルオン、健人と仲良くしてくれ」
「OK! ケント、君はマイフレンド! これからどうかよろしくだZE!」
チェキラ! ってラルオンは相変わらずの様子で健人に絡んでくれた。
「本気で勘弁してくれよ。つーか、ムーイとカエル! 何ぼさっとしてんだよ。会話に混ざれよ」
「少し前に挨拶はしたぞ?」
「な、なんだな……でもオデ、何言ってるかよくわからないんだな……」
まあ、ラルオンはね……ムーイはともかくエミールは人見知りするから話しづらいかな?
コミュ能力高いからもう少ししたら打ち解けそうだけど。
もともとエミールって弟分体質だからリーダーシップがあるラルオンとは話せば仲良くなれると思う。
問題はムーイは少し話が出来るけどエミールはレラリア語をまだ覚えてない。
「今度エミールにラルオンの話している言葉を教えてやるよ」
「ユキカズの兄貴、ありがとうなんだな。オデも知りたいと思ってた所だったんだな」
問題は言葉を知ってもエミールは使う機会があるかだけどさ。
むしろラルオンに教えた方が早いか?
「ラルオン」
「ワッツ?」
「言語を俺が頭弄って無理やりインストールするのと自分で覚えるのだったらどっちが良い?」
「OH、YOUは便利な力を持ってるね。けどさすがに勘弁してほしいYO」
「冗談だよ。後で教える……まあ、ターミナルポイントにアクセスすれば日常会話くらいは覚えれるか」
こういう時は便利だよなー……ラルオンがスキルポイントをちゃんとプールしてるかだけど。





