三百二十四話
「ギギギ!?」
ビクン! っとドラゴン・ミュータントパラサイトが目を見開いて声を上げる。
コックピット内の搭乗者及び異物を強制脱出及び強制休止モード。
直後パカっとコックピットが開いて強引に押し出される。
「うお!」
「な――」
「ギギ!?」
デビルドラゴンの中に入っていたエネルギーをすべて使った動作だったようで最後まで抗っていたドラゴン・ミュータントパラサイトの触手がしつこく引っ付いている。
そのままデビルドラゴンが前のめりに腕を地面に付けた状態で待機モードに入った。
で、ドラゴン・ミュータントパラサイトは何やら赤くコックピットが点灯していて承認が下りず寄生が上手くできなくなっているようだ。
再度寄生を実行しようとしている。
今のうちだな。
「どうなってるんだ?」
「降ろされたけど、まだまだ戦えるZE!」
ラルオンが受け身を取って着地した俺に向かって飛び掛かり、フルムーンスラッシュを放ってくる。
「おっと」
スッと、カーラルジュの能力で姿を消してブリンクでムーイに飛びつく。
「ユキカズおかえり」
俺が引っ付くのを確認すると同時にムーイの肩に乗ったまま戦闘継続だ。
土煙は巻き起こり、結界に大きくダメージが入る。
いつぶっ壊れてもおかしくない。
「ムーイ、ラルオンをあまり追い詰めすぎないようにして戦ってくれ」
自爆されたらたまったもんじゃない。
「わかったぞ。動きを抑え込めばいいんだな?」
「ああ……あんまり褒められたもんじゃないが、ナンバースキルで少しでも時間を止めるだけで良い」
「うん!」
「ギギギギ!」
で、竜騎兵にしぶとく引っ付いていたドラゴン・ミュータントパラサイトが触手を伸ばしてこっちにのこぎりを出して飛び掛かってくる。
多勢に無勢、しかも揃ってナンバースキルでパワーアップと大盤振る舞いだなぁ。
竜騎兵から降りてその分速度が増している。
火力は落ちても手数でとなると対処が難しい。
しかもドラゴン・ミュータントパラサイトは幾重にも触手を持っているタイプだ。
……あまり調子に乗るなよ? 寄生に関しちゃ俺も色々とものをいう位には経験済みなんだからな?
って俺自身が調子に乗っちゃ話にならないか。
引っ付いてきたら逆に寄生してやる。
己惚れないように、俺が望む未来を掴むために障害の排除を優先しなくちゃいけない。
出来る限り魔力をチャージして……魔眼を発動させる。
今回はラルオンとドラゴン・ミュータントパラサイトの動きを止めるのが最優先だ。
「喰らえ!」
カッと健人を洗脳した時のような高出力で幻影の魔眼を放つ。
「まだまだ!」
ラルオンが大きく異世界の戦士の武器を振りかぶって……そのモーションには見覚えがある。
そしてドラゴン・ミュータントパラサイトも目を見開いて、高出力の拡散熱線を俺たちに当てようとしている。
「ハンドレッドダガーだYO!」
「ムーイ!」
「うん!」
ラルオンとドラゴン・ミュータントパラサイトの必殺の網の目攻撃、下手に命中しようものなら相当痛いだろう。
まあ、痛いって所で今の強さが分かる。それほどまでに進化してしまったという事だ。
けれど当たり所が悪かったら死ぬ。これは揺るがない。
なにより幻影魔眼で色々とラルオン達の狙いが大きくそれている。
ムーイは突進に近い跳躍をしてラルオンの背後に回り込んで力の限り抑え込む。
「うお! こりゃあ凄いNE! さすがは邪神の僕だYO!」
「これはついでだ!」
「ギギィイイ!?」
ムーンライトプラズマゴーストの電撃をドラゴン・ミュータントパラサイトにぶちかましてのけ反っている間にラルオンに飛び乗り耳と尻尾で頭部の機械部分にハッキングを行う。
そっと……ラルオンの体を確認するとぞっとするようなおぞましい傷跡が残っているのが確認できた。
藤平に切り刻まれた痕なんだろう。
早くハッキングだ。このためにどれだけの苦労をしたものか……悪意に込められた機械、プログラム部分にダイブを行い……内部回路の自爆部分を強引に解除。
異世界の戦士の力、神獣の力が込められた部分が逃亡しようとしているのでそれを受け取る。
第九神獣の力……。
俺の中に溶け込んでいく神獣の力なんだけど、これ……すべてじゃなく一部なんだ。それもわかるようになった。少なくとも一人分じゃないな。
一人分? なんの? 俺自身がよくわからないがそうじゃない。
「うお! 放せYO! ギギ――ベタベタするのは好きだけどYOUは勘弁だYO!」
本当、口調はラルオンなんだけど……この敵意ある所が悲しい。
俺はラルオンの付けられた機械のプログラムの書き換えを高速で行う。
イメージトレーニングはずっとしていた……。
「あがが――OH、MEの事……好き? ガガ――エネルギー足りない、ファイアー! 不死身の戦士だYO!」
ああ、ここを弄っていくのが怖い。失敗するのは元より、本物のラルオンじゃなく俺にとって都合の良いラルオンに組み替えているんじゃないかって言う怖さが無数に湧き出してくる。
「ユキカズ」
大丈夫だってムーイが緊張する俺に微笑む。
死んだはずのムーイを俺はパラサイトになって生かした。その生かしたムーイが本当にムーイなのか、俺の考えたムーイなのかという問いかけにムーイは行動と言葉で示した。
「ラルオン、どうか、元に戻ってくれ」
「アガガガ、YOU? ワッツ?」
「ああ、俺が誰か、こんな姿じゃわからないよな? どうかさ、ラルオン、俺たちの為に頑張ってくれたあんたがこんな理不尽な最期で終わってほしくないんだ。善人だって思うから……さ」
「YOU? もしやトツ、カ? BOY? ホワッツ? なぜそう思った? ホワい?」
「ラルオン……」
もしもこれがラルオンをこんなにした奴の仕組んだ代物だったのならば、どこまで悪意が込められているんだと、怒りより悲しみが沸いたかもしれない。
ジジジ……と俺は、ラルオンの頭に付けられた機械の構造を完全に書き換える。
「う……」
ぱちくりとラルオンが瞬きしながら頭に触れる。
まあ、そこは機械がまだ引っ付いているんだけどさ。
頭蓋骨を開けてくっつけているとんでもない所だぞ。
「ちょっと頭がすっきりしてきたNE」
「ラルオン、大丈夫か?」
「OH、あんまりよくはないね。頭シェイクされてるみたいでくらくらだYO!」
「そりゃあ悪いね……」
悪いなー……とは思うのだけど上手く操られているのは解除出来たんだと思いたい。
念のために何度もラルオンの頭部に引っ付いている機械部分を確認する。
悪意ある部分は消せたはず。魂も今は見ることが出来るようになって、ラルオンだとは思うのだけど無事だった頃のラルオンの魂を見てないから分からない。
ただ、鑑定能力では魂はラルオンだった。
「出来る限り大丈夫なようにした、記憶までの改竄まではしてないはず……もしも無意識にしてたらごめん。もしかしたら俺にとって都合が良いようにラルオンを組み替えただけかもしれない。それは……嫌なんだ」
悪いとは思う。俺のエゴだってのは。
だけど、ラルオンに二度目の死をさせたくなかったんだ。
そう俯く俺の頭をラルオンは微笑んで撫でる。
「問題ないYO、あの時はなんも疑問に思わなかったけど、何か心が思い通りに動けなかった気はしてたNDA。今は凄く晴れやかだNE!」
と、ラルオンは前にも見た笑みを浮かべている。
だけど……なんか不安になるなぁ。
やっぱ俺にはこの手の洗脳解除で頭を弄るのは向いてない。
不安がぬぐいきれないんだ。





