三百二十一話
力の源を所持した状態のムーイに寄生した俺、今の俺は……ヴァイリオたちの力やムーイから得られるエネルギーに満ち溢れている。
その出力をそのままムーイに流すことが出来ている訳で……うん。これまでに無いほどの力が出せる確信があるぞ。
それでだ。どうもムーイに寄生した際に起こった変化というか特徴というべきか、輝石回路の影響かムーイの額に宝石兼目が生成されてそこが俺にとって一番見やすい眼の位置となっている。
「よっと!」
ビュン! っと一歩踏み出すごとに跳躍に近いほどの歩幅で移動できるぞ。
こりゃあ凄いな。今までの戦いがまるで遊びというか、どれほど俺が弱くヴァイリオたちが強かったのかを今でも感じられるほどだ。
そしてムーイがそれを内包できるほどの力を宿しているのかという恐ろしさも。
……エミールも同様の出力が出せるのかな? 少し気になる。
もう少しで戦場に戻れるな。
「あ、ユキカズ。ムーイな、ユキカズに謝らないといけないことがまだあった」
「なんだよ?」
「ユキカズ、ムーイやエミールと仲良くなって相手の迷宮種たちとも仲良くできるかもって思ってるよね?」
「まあ……できればな」
今までムーイやエミール以外の迷宮種で話をした際はどいつもやばそうな思考だったり食の好みだったりで和解できずに遠慮なく倒せたけど、場合によっては仲良くできるんじゃないかというのはある。
「そうだと思ったんだけどな……ごめんな」
「ん? それってどういう……」
と、戦場が見えてきた所で俺は目を凝らした。
ラルオンの搭乗する竜騎兵がまだ戦場に居て、戦場に残ったムーイの分身が戦っている光景はそのままだ。
あれから遅くても15分くらいで戻って来れたんだが……気のせいか? 後方にいた迷宮種たちの数が減っている。
追撃として町の方へ来ているとかか?
「OH……こりゃあとんでもないモンスターを相手にしちゃってるZE! 早く止めを刺しに行かないといけないのに、古き神はとんでもないモンスターを遣わせていたもんだ。全く気付かなかったYO!」
ラルオンが……操られているのに震えているような声をしているような気がする。
いったいどういう事だ?
って思いながら戦場に駆けつける。
「来たぞー」
「おー! 遠くてもユキカズに変化があったのがユキカズの欠片から分かったぞ。もう大丈夫なのかー?」
「うん。お疲れ様、戻って。ユキカズはもう耐えれる」
「そっかー! わかったー!」
ムーイ同士がそう話し合いラルオンの足止めをしていたムーイがグネグネと造形が粘土状になって戻ってきた。
スーッと同化したムーイから大量の……力の源が補充される。
うお……耐えれるけど更にエネルギー量が増えたぞ。
どうなってんだ?
「厄介な状態になってきたNE。早く応援が来ないと持たないYO」
「逃がさないぞー」
一体どうなっているんだ?
と、思った所でムーイが俺に語り掛けてくる。
「後ろでうっとおしく攻撃してくる迷宮種がいただろー? ムーイ、オウセラに預けていた力の源だけじゃ力が足りないから奪って倒した」
「奪ったって……」
そんな簡単に出来ないだろ。
「ユキカズ、記憶見る事出来るだろー? ムーイのも見て良いぞー」
ああ、ヴァイリオの記憶を見ることが出来たアレをムーイにしろと?
しょうがないので脳内会話の要領でムーイが思い浮かべている記憶を閲覧する。
すると……俺たちを見送った後のムーイの記憶が見えてきた。
速度を増したラルオンと竜騎兵のナンバースキルと聖獣のエネルギーによる猛攻にムーイは押されていた。
模擬戦闘で知識を知っていても対応できる限界はある。
「HEY! 少し邪魔だぜ! 先に進むためのKEYを壊さなきゃいけないからどいてくれYO!」
「くっ……」
俺の因子でナンバースキルを発動させて対処していたがそれも限界が近く……ここでバキン! っと剣が折れてしまった。
即座に腕を剣に変えて抜き出して持ち変える。
……器用だなムーイはやっぱり。
ただ、それでもこのままでは俺の方へラルオンが追撃に行ってしまう。
それだけは何が何でも阻止しないといけない。
だからムーイは……オウセラに注意されていた作戦を実行せざるを得なかった。
自身の体から生成した剣を思いっきり振りかぶって……時々接近して攻撃してくる後方の迷宮種たちに、力の限り振りかぶった。
すると剣から無数のしずくの如く、ムーイの体の一部が飛んでいく。
ナンバースキルで発生したエネルギーを込めた体の一部だ。
「ギギ――ガガ!?」
「うぐ!?」
「何!?」
「ぐあああ!?」
それが硬質化して、まるで散弾のように飛び散って飛んでいき迷宮種達の一部に突き刺さる。
俺の因子で発動させたナンバースキルのエネルギーで込めて振りかぶったからこそ、異世界の戦士の力を宿した強靭な装甲をぶち抜いて刺さったのだろう。
そのままヌルっと……ムーイの一部は迷宮種たちの体を能力でお菓子に変えて即座に食い、エネルギーへと変換しながら体内に潜り込んでいく。
「ぐぎゃああ! ギ――は、離れろ!」
「ガアアア!? ギィイイ!?」
「な、なんだ! ギギ――うわああああ!?」
後方で隙を窺っていた攻撃を受けた迷宮種達は操られていてもパニックに陥った。
もちろん冷静に取りつかれた迷宮種を切り捨てるべく攻撃する者たちもいるのだけどムーイの作戦はその程度で止まらない。
ブチっと迷宮種の力の源までたどり着くとそのまま力の源を包み込んで自身のエネルギーとして潤滑、増えた自身の分で俺の因子と反応させてエネルギーを加速化させつつ迷宮種を内側から食らい尽くす。
「ギギギ!」
敗北を察した機械部分が自爆をして四散するのだけどその頃にはムーイの目的は完遂しているので爆発から力の源を守るように飛び散って戦場に居るムーイの元へと戻る。
いや、その場で一つになってムーイはラルオンに突撃していったのだ。
「ワーオ!」
「絶対に行かせないぞ!」
増えたムーイが前線に戻って合体し、パワーアップしてラルオンに向かって剣にした体で叩きつけていたって事のようだ。
「ごめんなユキカズ。この作戦、ユキカズが嫌がるって言うからしたくなかったけどそうも言ってられなかった」
いや……いやぁ。
なんだろ、どういえばいいんだ?
ちょっとムーイ強すぎないか?
感情とか無視したらムーイだけでみんな解決……出来てしまうんじゃないかとすら思えてしまう。
進化した万能感が台無しだぞ。
『実は……察していた』
『なんとまあ……新たな神獣はとてつもない相手と仲が良いのだな』
ヴァイリオたちが各々感想を述べる。
分かっていたのかよ。こんな手立てがあるのを!
『まあ、これが出来るからと言ってローティガを救うのは難しかっただろう? それともローティガをあのようにするのが最善だったとでも?』
『うう……うすら寒い事を言わないでくれ』
ヴァイリオとローティガの感想がな……脳内で聞こえてくるのはかなり賑やかすぎるぞ。
『なんだなんだ? おお、こんな場所が出来上がったのか?』
で、三匹目の新しい声、ペリングリだったか?
見てる、絶対に俺を介して聖獣たちが見てる。
座と近いから見えるのか?
『そうだ。まだ始まったばかりだぞ』
『おお、お前たちを通じてしか外の様子が分からず拒否していた所だったぞ。ヴァイリオ、この前の念話はなんだ? 肝が冷えたぞ』
『すまないな。だが結果的にこのようになってよかっただろ?』
『まあ、悪くは無いがこの視線は……』
『ああ、神様に招待された神獣の加護を受けしトツカユキカズが私たちの為にこのような粋なことをしてくれたのだ』
『ほう、それは実に素晴らしい。お陰で思念に対抗出来ているぞ。ローティガも無事、とは言い難いが治療されて座に戻れたようで良かった』
『ああ、感謝するよ。本当助かった』
……聖獣たちの気の抜けた世間話は無視しよう。





