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三十二話

「ん……」

「あ、起きた」


 フィリンが起き上がるのを確認して声を掛ける。


「は、はい。交代の時間ですね」

「とは言ってもそこそこ仮眠してるけどね」

「ブー!」


 俺とブルの方を見たフィリンが首を傾げる。


「何やっているんですか?」

「ああ、ブルが折角回復した体力を無駄に消費しようとしているから抑えさせていただけだよ」

「ブヒャアア!」


 仮眠を終えたブルが穴から出て腕立て伏せと腹筋をしようとしたので止めさせた。

 にも関わらずやろうとしたので捕まえて俺が胡坐をかいてそこにブルを乗せて抑え込む。

 妙な声を出して「やめてぇえええ!」って感じで暴れてる。

 さすがに腕立ても腹筋もできない姿勢にさせられて嫌がってるって感じだろう。


「えーっとやはり仲が良いんですね」

「友達になりたいからね」


 性格良いのは知ってるもん。

 当面の目標はブルの友達になる事だ。


「友達じゃないんですか?」

「遠慮してるうちはね」


 気を使われるのはね。この遠慮が無くなって、何かあったら相談してくれる段階に来て初めて友達って気がする。

 現に俺の悪ふざけにブルは本気で嫌がる素ぶりを見せないし。進展はしてると思いたい。


「きっともう充分友達だと思いますよ」


 なんかフィリンに微笑ましいって顔をされてしまったぞ?


「ブル、生きてここから出られたら一緒に風呂でも入って汗を流そうな」

「ブ?」


 オークだからって事で大きな風呂には入った事ないもんな。

 ここ最近は色々と忙しくて行水だし。

 一緒に汗を流すのも良いと思う。


「ところでブルさんは年齢幾つなんでしょうか?」

「さあ?」


 言葉分からないし、経歴もそこまで知らない。


「ブー」


 本人もその辺りは何にも語らないしね。


「これで30過ぎとかだと驚きだけど、ブルなら気にならないかも」


 こう……年齢を感じさせない見た目をしてるのは良いね。

 同族だと分かるのかもしれないけど。


「そういやブルってなんで兵役就いてるんだっけ? 言葉が分からないから聞いてないけど」

「ブー、ブー、ブー」


 ブルは上を指差して手を交差させていて、片方の手がなんか独り歩きとかの動作をした後、それをもう片方の手で追う動作をした。

 で、何個も地面に指で穴を開けて棒を突き刺す。

 それから自身を指差して、独り歩きする方の手を叩いた。


「うん。わからん」

「何か理由があるみたいですけど、わかりませんね」

「ブー……」


 で、ブルはせめてもの理解とばかりに背中を向け、鎧をずらし、尻尾を目立たせてから振る。


「そういえばブルさんはオークなのに尻尾がふさふさですね」

「珍しいの?」

「はい。オークは混血であってもオークとして生まれる人種なので、ここまで別種の特徴が出るのは珍しいんじゃないかと」

「へー」


 ブルの尻尾ってどっちかの親の特徴って事だよな。

 ……なんとなくだけど父親がオークで母親がこの尻尾に該当する種族なんだろうなーとか思う。

 こう、あっちの方向を想像してしまうな。

 その結果生まれたのがブルか……壮絶な人生が想像される。


 今までのブルを見る限りだと性的な事は興味が無いみたいなんだよな。

 ……実は成熟してない、は無いと思うけどね。

 ホモでもないと思いたい。そうだったら俺もさすがに逃げる。

 俺がブルにホモっぽい事をしかけたのは自覚しているが。


「ブ!」

「まあいいや。じゃあ今度は俺達が少し仮眠を取るから。おやすみ」

「はい。何かあったら起こしますからゆっくりしてください」

「ブー」

「さてブル、筋トレをしないように添い寝をするぞ」

「ブ!?」


 じゃなきゃ横で突然腕立てを始めたり、地面に掘った穴の拡張とかしていそうだからな。

 疲れた時にふっと考えた抱き枕にして寝てみるとしよう。

 実は少し夢だったんだよな。動物と一緒に寝るって奴。

 ブルは動物じゃなくてオークだけど。

 抱き枕にすると最初は抵抗していたブルだったが、やがて諦めたのか俺より先に寝息を立てる。

 そんなわけで少し仮眠をした後、野営を終えて俺達は出発したのだった。




「ブルが装備できるような物も結構落ちてるのな」

「ブー」


 野営を終えて移動をしている最中、宝箱を見つけて強引に中を開けた時に出てきた武具でそういった感想が出てしまう。

 今、ブルに付けたのはミスリル銀の胸当てだ。


 正直に言えばブルの体形って相当変わっていて、一般的な人用の鎧は付けられない。

 そのため、胸当てに汎用的な腕バンドや肩当てなどで繋ぐ防具になってしまう。

 全身鎧とかは特注になるのではないだろうか。

 少なくともダンジョンでは入手が難しいと思っていた。


 そう思っていたら良い感じのサイズの胸当てが出たのでブルに付けさせる。

 兜は鍋の蓋みたいな奴を紐で縛って付けてる。


「盾とか出てきたら背中に括ろうな」

「ブ!」

「ふふ……」


 何かそんなやり取りをしているとフィリンが俺達を見て笑みを浮かべている。

 フィリンだってそこそこ装備が変わってきてるぞ。

 兵士の鎧じゃ魔物の攻撃を耐えきれないからなぁ。

 ブラウンフライアイボールの放つ熱線を一度受けて一部が溶けてしまった。


 丁度よく積もったゴミの中に金属質の物があったので、それを破損した箇所を修復するように当てて草を紐にして付けている。

 俺は鉄の鎧が宝箱から出たのでみんなの意見を尊重して譲り受けた。

 兵士の鎧はそこそこ軽いけど、それに合わせた薄い鉄板の鎧なのでしっかりとした鉄の鎧には劣る。

 しかもこの鎧……何か付与がかかっているのか、普通の鉄の鎧とは異なるのが分かるぞ。


 あ、ちなみに宝箱の解析や罠の解除とかは大分できるようになってきた。

 フィリンが魔法を覚えてくれたお陰で、魔法系の罠がありそうな気配が分かるようになった。

 で、それ以外の鍵が掛っているだけとかの場合はブルに破壊してもらって、罠がある場合はフックとフィリンの電撃魔法で破壊する事でどうにかなっている。


 さて……とりあえずそこそこ攻略できているかな?

 魔物に関してだけどブラウンフライアイボール相手なら正面でも戦えるようになった。

 似たような相手としてデスプラントマイコニドという危険な状態異常を引き起こすキノコ型の魔物がいるのだけど、ブルが接近される前に気付くのは元より、ピッケルをハンマー代わりに使って速攻で仕留められる。

 対処法さえ分かれば割と簡単な分類の魔物だ。


 スレードグレイエレキスネークもかな?

 この辺りは俺達でもどうにか倒せる魔物だ。


 ここよりも上、テラコッタファイアビーとクラレッドディフェンスビートルは俺達の力量では対処に困る虫型の魔物だ。

 ファイアビーは炎を吐いて獲物を狩るそうで、俺達が勝てる魔物相手に戦っている姿を見ている。こっちは巣が近くにあるみたいで、そこさえ注意すればやり過ごせる。

 クラレッドディフェンスビートルはブルでもたたき壊せないほど固い甲殻を持つ大きなカブトムシだ。

 モンスターをハンティングするゲームで似たのを見た覚えがある。


 幸運な事に罠付きの宝箱の罠……溶解液噴出の罠を強引に当てることで仕留められたけど正面から戦うのは難しい。

 甲殻も溶けてしまって散々だった。

 フィリンの魔法でも手も足も出なかったしね。

 突撃してきた方角に合わせて壁とも言えるくらい伸びた草の中に突撃させてどうにか逃げる事で対処してる。


 ビリジアンエンペラーパンサーは論外。

 アレは普通に戦える相手じゃない。

 速過ぎて俺達じゃ対処できない。

 Lチャージ&謎の武器を振りかざして一回だけ仕留めた。


 あんまり頼りたくないな。

 幸いなのはオルトロスの血の匂いを察して逃げる個体がいるところか。

 同種の死体の皮を広げていると脅えて更に逃げてくれる数が増えた。

 リスクを避ける肉食獣と同じ動きだね。

 倒した後、みんな揃って経験値酔いをするくらいには強い。


 細道を迂回しながらでコレ。

 大通りとなると……また別の大型魔物が我が物顔で歩いてる。

 あっちは沢山宝箱が転がって見えるんだけど……取りに行ったら死ねそう。

 無茶して何個か確保してくるのも手だけど、できれば避けたい。


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