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三百十九話


 ああ、そういえばムーイはヴァイリオが生成したエネルギーを俺に届けることをやってのけていた。

 膨れたエネルギーの分だけ力を増す……限界の無い体をしているのは間違いない。

 それは俺がエネルギーであふれて焼かれ始めた直後からムーイの分身が溢れるエネルギーを一部受け取っていたから間違いない。

 爪とかを出す際にも俺の衝撃を逃がすように纏わりついていた。お陰で動くだけで弾けそうなのがここまで耐えきれていたんだろう。

 嫌な予感がする。

 思えばムーイは寄生に関して教えてからずっと言い続けていたような気がする。


「だからユキカズ、ムーイに寄生して進化して! そうすればきっとユキカズ、ヴァイリオたちの力を抱えられる」


 うう……嫌な予感ってのは当たるもんだ。


「それが正解っきゅ……オウセラも、きっとそれで耐えられるようになるって伝えているっきゅ」

「くうう……俺は、そんなことをするために……ムーイと一緒にいる訳じゃ」

「わかってる!」

「それにここにいるのはムーイ本体じゃないか」


 ムーイに寄生してクリサリスに進化からの羽化はとてもじゃないが出来ない。

 しかもここにいるのはムーイの力の源がある状態だぞ。


「ムーイの心は力の源だけじゃないぞ。すべてがムーイでユキカズの事を愛してる。そしてムーイの力の源があるこの体じゃないと、ユキカズの変化をサポート出来ない。そんな気がするんだぞ」


 選択を与えないとばかりにムーイは自らの腹部を開いて俺をそのまま抱きかかえる。


「だが……そんなことをしたら」

「大丈夫、ムーイはユキカズの羽化に絶対に耐えきれる」


 ブチっと体の回路がエネルギーではじけて痛みが走る。


「うぐ……」

「早く! ユキカズ、ムーイを使って進化! じゃないとヴァイリオたちもみんなも悲しくなる! ムーイが、嫌だから……じゃないと、ムーイが自分でユキカズを強引に進化させる」


 と、ムーイの手から俺に何か干渉する力が流れ込んでくる。


「町のみんな! もうわかってると思うけどムーイは迷宮種ムーフリス。神獣の申し子トツカ・ユキカズの贄になりたい。良い?」

「神獣の申し子様……どうか我らを救い、聖獣様の仇を打ってください」

「この世界の為に決断を」


 くうう……みんなして祈ってきやがって、俺はこういうのは好ましくない。

 けど、この世界の人たちはみんな優しく受け入れてくれた。

 ムーイやエミールに臆せず接してくれていたし、この事態でも二人に辛い言葉とかを言ったりする人はいなかった。

 健人がこの世界も悪くないって言う意味は分かる。

 ズプン……とムーイが逃がさないとばかりに体内に俺を収めて閉じ込める。

 早く寄生して進化しろってか?

 どすんとムーイが座り込んだのが分かる。


「ユキカズ! 早くムーイで進化する!」


 ううう……体が弾けそうだ。だけどヴァイリオたちを諦めたくないしムーイを苗床にしたくない。

 だけどこのままじゃ死ぬ。

 ああ……ローティガから逃げようとした魔獣寄生型NO,2を捕まえられたらこんな結末にはならなかったのだろうか。

 後悔ばかりだ。


「ユキカズ! ムーイを……信じて……」


 ああ、なんだろうな。この感覚、新兵の時に風俗店に案内されそうになった時の感覚が近いような気がする。

 妙な興奮に近いって嫌だな……でも、我慢が限界でムーイが俺を絶対に死なせないと、このままだと無理やり俺を変化させようとしてくる。

 ならば……やるしかないのか……ムーイにやられる前に、やるか……。

 あまりにも体をむしばむエネルギーは魔素を含み、パラサイトへと進化した直後に経験値が入り込む。

 うぐ……っと急速なLvアップで痛みが走るが感覚は間違いない。

 個人的には嫌だ。

 ムーイに……ムーイを苗床にして消費しきらないようにムーイでも変換出来る力へとできる限り変えて流し込む。


「それで良いよユキカズ、大丈夫……ああ、うん。ムーイ、ユキカズの力で満たされていく……ああ、ユキカズの優しさを感じる――」


 そこから俺は……カーラルジュの時と同じく、進化にムーイを……巻き込んだのだった――。




「ここは……?」


 気づくと俺は闇の中にいた。

 ガンガン五月蠅かったヴァイリオ達の抗議の声は聞こえず、全身を走る痛みもない。

 一体何処だ? 全く心当たりが無い。

 ムーイの体の中? いや、ムーイの体は寄生したから知っている。

 こんな暗くて何処までも広がる闇じゃない。

 何より、俺以外の声や音すら聞こえない。

 痛みもなく闇の中を手探りで歩くと……フッと、明かりが灯り、声と影が見える。

 それは俺自身の声だった。


「兎束雪一、お前はどんな進化を望む?」

「進化?」

「そうだ。今のお前の前には無数の進化先が存在する」


 一人だけかと思ったけれどこれは幾重にも聞こえてきた。


「最後の神獣の血族としての進化を望むか?」

「それとも魔物としての進化を望むか?」

「それとも……迷宮種にすら進化出来るだろう」


 迷宮種へと進化出来ると言った自分の影にはカーラルジュやフレーディンの恨み節が宿って居るように感じる。


「更に迷宮種共の天敵、迷宮を喰らう者にもなれるぞ。先ほどまでその幼体だったじゃないか」

「それともぉ? ヴァイリオ達を苦しめた連中の天敵へと進化するか?」

「もしくはヴァイリオ達のような聖獣、新たな聖獣にだってなれる」

「ふふふ……機械への進化をお望みか?」

「もちろん、既に近づきつつある神獣にだって至れる」

「いや……」


 ここでカッと、影だけど人間の俺が現われる。


「人間にだって戻れる。それどころか人間を越えた超人にだってなれるだろう」

「ブー」


 今、オークがいた! ブルに似たオーク姿に似たのが選択肢にある!


「「「「さあ……どれを選ぶ? 最強へと至ろう」」」」


 無数の影が俺へ手を差し伸べる。

 このどれかを選ぶ事で俺は進化出来るってか?

 随分と演出が凝っているなぁ。

 これも誰かのお膳立てなのか、それとも俺の内なる心の声なのか。

 俺の体を通じた俺自身の闇の部分か……今まで解析したその全てが俺の目の前に広がっていると言う事か。

 俺としては並べられた選択肢の中で気になるのはオークの声なんだが……うーん。

 どっちの選択だ? オーク……うーん……。

 脳内にフィリンが、「オークの選択肢で悩むんですねユキカズさん」って呆れるような声が聞こえた気がする。

 違うんだ。だってオークだよ? ブルと同族に進化って凄く気になるじゃん?

 人間に戻りたいかって言われると……今、それどころじゃ無いでしょ?

 そりゃあ戻りたいけどさ……どうにもしっくりと来ない。

 俺にとって魔物の姿とはそれほど辛かったかと言うと……ムーイ達のお陰で苦痛はそんなにない。

 この世界の人達が人間とは少し違う人々だったのも大きい。

 けどさー……そうじゃないんだ。

 俺が何を求め、どう進化していくのか。

 そう、オークへの進化だけは非常に気になったけどそうじゃないんだ。


「はは! お前等何も分かって無いな」

「何?」

「何がわかっていないと言うんだ?」

「そうだ。人に戻りたいだろう?」


 なんか人に戻りたい進化がやや強めに言ってくるような気がするけど進化の可能性の影は揃って俺の笑みに疑問を見せる。


「何を勘違いしているんだお前等? お前等は可能性の俺達なんだろう? 俺でありながら大事な事を忘れて居るぞ。選択肢なんて実に無意味だ。俺が望む事なんて一つだろ?」


 進化の可能性達は揃って黙り込む。


「そう、良い人、良い奴の力になること。俺が強くなって最強とか実にバカバカしい。理不尽なことから良い人を助けたいんだろ! 初心を忘れるな! 人間に戻りたいとは思ったがそれより良い人だよ!」


 俺は闇の中で拳を握って進化の可能性達に向かって言い切った。

 だってそうだろう? 俺がこれまで進んで来た道は全て良い人、ブルやフィリン、ムーイやエミール、ラウやヴァイリオ達と共にある。


「そうだった」

「そうだった!」

「良い人」

「良い奴」

「良い奴等が理不尽な目に遭わない為にある!」


 俺は拳を振り上げて進化の可能性達と声高々に叫び、ハイテンションで闇の中を駆ける。


「「「良い人! 良い人! ブルやみんなの為に! 理不尽に嘆く善行をした人の力になりたい!」」」


 進化の可能性達と意思統一して進む。なんか俺が増えても変わらないぜ!


『あっはっはっは! そうだった。それが君の選択だった!』


 おい。今更俺に声を掛けて来るなよ。

 神らしき奴の声が響いてくる。


『いやいや、ここに来てまであそこまで頑固に我を貫き、選ぶ選択が一貫しているのは実に清々しいと思って黙っては居られなくなったよ。これはある意味僕の負けだね』


 なんだ? また余計な干渉する気じゃ無いだろうな?


『そんな真似はしないよ。だって君の中にある可能性の話でしょ。さあ……君は既に可能性を選び取った。強欲とも言えるのか献身とも言えるのか面白い決断をね

……実に、君らしい。その選択に後悔は無いのなら進め。君を認めよう』


 すーっと闇が晴れて行くのを俺は感じ取り、視界の先が光で溢れて行ったのだった。


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イラストの説明
― 新着の感想 ―
[一言] 偶に思うけどユキカズって元康みたいなところあるよね
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