三百十六話
「ヴァイリオ……」
治療されて体は動けないが意識が完全に戻ったローティガにボロボロでどうにか立っている状態のヴァイリオが声を掛ける。
「ローティガ……」
何やら念話を幾重にもヴァイリオとローティガが行っているように感じた。
これもヴァイリオとローティガに寄生しているお陰かね。
一体どんな話をしているのか、なんかローティガが俺を信じていない所為かよく聞き取れない。
とにかく今は機能停止したマシンミュータント・対邪神の使徒・魔獣寄生型NO,2から奪われたエネルギーを取り返して二匹の聖獣へと戻さないと――。
「ギギギ」
ブウン……とマシンミュータント・対邪神の使徒・魔獣寄生型NO,2が浮かび上がる。
「なんか嫌な予感がするぞ!」
ラルオンと戦っている方のムーイがマシンミュータント・対邪神の使徒・魔獣寄生型NO,2に向かって突撃しようと試みる。
「おっとさせないZE! 隙を見せちゃだめだYO!」
それとラルオンに阻止され、叩きつけられてしまう。
「うぐ! まだまだー!」
負けじと突撃をしようとするのだけどラルオンの妨害が強く、ムーイは到達できない。
「なんだな!」
で、遥か後方で街を守っているエミールが植物に指示を出してマシンミュータント・対邪神の使徒・魔獣寄生型NO,2に絡みつきをしようとするのだけどその場で焼き焦がされてしまい効果が無い。
ムーイもエミールも無理……健人や他の連中が介在出来る状況じゃない。
直後にマシンミュータント・対邪神の使徒・魔獣寄生型NO,2に向かって竜巻が発生する。
これは……どこかからオウセラの援護攻撃って事で良さそうだけど竜巻の中でもマシンミュータント・対邪神の使徒・魔獣寄生型NO,2は光っていて健在なのをアピールしているぞ。
とはいえ、動き出そうとするのを妨害しているように見える。
「おい。いい加減にしろよ……」
俺はマシンミュータント・対邪神の使徒・魔獣寄生型NO,2に止めを刺そうとローティガから出ようと試みる。
が――ローティガが力が残されていないにも関わらず心臓部に力を入れて外へ出るのを邪魔してくる。
「ローティガ! 開けてくれ! ヴァイリオから聞いただろ」
動ける俺が奴に突撃をしないといけないだろ。
『悪いがまだ出ていかれると困る』
『そうだ』
ローティガとヴァイリオが両方とも俺へと念話を飛ばしてきた。
『おい。どういうつもりだ?』
邪魔をするな。早くアイツを仕留めないといけないだろ。
『そうも……言っていられないのだ』
ドサリとヴァイリオがローティガにもたれ掛る。
僅かに淡い光を放っている。
『……ヴァイリオ?』
「この体がよく、持った方だ……これもすべて、トツカユキカズ。君のお陰だよ」
ヴァイリオの異常を遠目で察したのか周囲に植物が生え、ヴァイリオに向けて傷薬が散布される。
が、ヴァイリオの体からあふれる淡い光が消える気配がない。
それはローティガも同じで同様に光が零れ落ちて行く。
「はは、どうにかローティガだけでも私の代わりに君の手足として戦えて貰えたらと思ったんだが……甘くは、無かった。君の因子を、神獣様の力まで使ってこんな所で力尽きるなんて……」
ああ、悔しいとヴァイリオは涙目で、俺に向けて呟くように零した。
思えばヴァイリオは命を燃やすように俺の因子でナンバースキルを発動させ、俺に強引に力を流し込み、操られたローティガに必死にしがみついていた。
すでに限界を迎えていたのは至極当然の……結果だったんだ。
カッと……ローティガからもナンバースキルがここで放たれる。
それは俺への手土産とでもいうかのように。
「僅かしかもう力は残されていないが、受け取ってくれ……どうか、この力で……あいつを」
「ああ、すまない。まだ最後の聖獣が残っているのに、ここで倒れるなんて……どうか、出来る限りこの世界を守って……」
「ふざけるな! 俺に謝って死ぬなんて本気で怒るぞ!」
俺は謝られながら死なれるのが心の底から嫌なんだ。
ムーイやエミールを思い出すし、クラスメイト達の末路が脳裏に焼き付いて離れない。
「おい! お前が守ろうとした世界だろ! そんなんで良いのか!」
「よくはない。けど……ありがとう。君のお陰だ。あのまま操られたままよりも遥かに……」
「私たちに死はない……さ。座に、戻るだけ……」
「三匹でどうにか最後の聖獣、あいつから発せられる道を開く意思を抑えられないか、やってみる……」
ずる……っと、ヴァイリオとローティガが光と化し、闇へ……聖獣の座という場所へと向かっていくのを寄生している今だからこそ感じられる。
ヴァイリオとローティガが体を構築する残された力を授けているからこそ、わかる。
だけど俺へ力を変質して与えた分だけ弱る。完全な消滅は免れるだろうがその分、再生に時間がかかり……挙句記憶や魂に多大なダメージが入るのが分かる。
その空間は聖獣以外居ない。復活するまで外界を認識することのできない闇の中だ。
そんな闇の中に二人ともこれから落ちて、残された聖獣からの思念に抗う。けれどもう無事な聖獣がいない。
俺に希望としてすべてを託すってか? 冗談じゃない。
聖獣の力、残された力であっても俺にとっては膨大で、こうして結合が崩壊することでさらに大きく膨らんで俺の中へと流し込まれて行く。
「せめてもの置き土産だ。どうか……私たちの無念を晴らしてくれ……」
考えろ、ヴァイリオとローティガが座に戻ってしまうのは、もう避けられない。
どちらか一人だけでも残せないかと与えられたエネルギー総量をLDBBGのスキルが測定してくれている。
……足りない。一人でも足りない。それほどまでに力をアイツに奪われてしまった。消耗してしまった。
ヴァイリオとローティガが使う俺を経由した神獣の因子で発生させたエネルギーで膨れ上がっていくのを感じるけれど、この力は受け入れられない。
ああ……どうにかする手段はないのか?
こんな理不尽を受け入れろと言うのか? 何のために頑張ったんだよ。
ローティガの瞳から空を見上げると……フクロウ、オウセラが旋回しながらこちらを見ている。
戦いに参加はラウの為にせずに、伝達の為に遠くに居たんだろう。
やや悲し気な目で見ているようだった。
ヴァイリオとローティガは死んでもいずれ復活するから犠牲にしろと? 道は開かれるけれどどうにかここを乗り越えてラルオンを助けて最後の聖獣を止めるために行けと?
何処までおぜん立てしているんだよ。
これが最小限の犠牲で世界を救う手立てだとでもいう気かオウセラ!
確かにこれがお前の能力による最適解なのかもしれない。だけどな……俺は嫌なんだよ。
だからいくらだって俺は抗う。
そのために俺はどれだけの苦痛だって受け止めてやるよ。
ああ、そうだ。こんな結末受け入れられる訳ないだろ。
「それ以上の俺の力を使うのを拒絶する」
バチ! っとローティガとヴァイリオが使う俺の因子に干渉して聖獣の力と混ざるのを拒否する。
そして闇に落ちて行く……二匹を繋がった思念で握りしめる。
崖から落ちようとする二人を腕で掴んでいるような……そんな状態が近いだろう。
『ユキカズ! やめるんだ。私たちの力を直接つかむと君が無事ではすまないぞ』
『そうだ!』
どくん……と、直接ヴァイリオたちの力と意志が俺の中へと流れ込んでいく。
座になんてまだ戻すか!
「させねえよ……俺は最後の神獣に選ばれた戦士だぞ? 最後の神獣がどんな能力を持って兄弟たちを支えているか知らないはずはないだろ?」
唯一生き残っている神獣で、兄弟である神獣たちを支えているらしいじゃないか。
そいつに選ばれた俺が座に戻ろうとしている聖獣たちの目となり娯楽を提供できないはずがない。
「座でもどこでも良いからよ。お前らが、守ろうとした世界がどうなるかを……見届けさせてやる!」
すーっと俺は……光となって消えたヴァイリオたちの意志をその身に宿した。





