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三百十三話


『おうおう、体力が有り余ってるって感じで羨ましい事だ』


 ヴァイリオは重傷を負った所為でどうにか戦えてるって状態なのによ。

 あんな怪我したら馬脚を現してしまう。


『はぁ……はぁ……』


 無茶してるからか思念会話でもヴァイリオの呼吸、バイタルが怪しくなってきた。

 出来る限り酸素……と魔素とか周囲の因子を吸引して心肺の負荷を軽減させる。


『すまない』

『謝らなくて良い。こうでもしないと戦える状況じゃないだろ』

『ああ、想像以上に善戦出来ている。これまでの戦いを思うと実に力任せに戦っていたと痛感するものだ』


 そういうもんじゃないか? とは思う。

 ヴァイリオは本来、試練として挑戦者に立ちはだかるのが役目だ。もちろん治安維持のためにも戦っているだろうがそれは常に強者としての戦いで相手は基本的に格下で知恵と勇気で挑んでくる。

 乗り越えられるのを望んで戦う訳で必要以上の先読みや小細工はしないのが常……いや、されたら挑戦者が勝てなくなる。

 前回の戦いを見て、十分すぎるほどの実力があるのは分かるし、戦いにおいては化け物だ。


『お前と戦ったら俺は能力差で対応しきれずすぐにやられていただろうな。下手な小細工が無駄に感じる』

『そうでもない。付け焼刃でここまでは出来ないさ。何より小細工はダメだというのかね? 戦闘に工夫というのは重要だと私は思うよ。お陰で少ない体力で最大限の戦果を出している。誇りなさい』


 神獣も俺に誇れとか誉め言葉を使っていたな……そんな褒められるようなことは絶対にしてない。

 上手く俺の力を使いこなしているヴァイリオが優秀なんだ。

 俺がしているのはサポートでしかない。

 うん……ヴァイリオの一部、スキルとして力を貸しているのが近い。

 竜騎兵のオートパイロット操作任せで戦い、任意のタイミングでスキルを使っている。


「ガォオオオオオオオオオ!」


 煩わしいとばかりにローティガが雄叫びを上げると周囲に無数の落雷と火柱が巻き起こる。

 やー……そんだけ雷を放っていたら改造で付与された機械部分に大ダメージとか入ってそうだけど問題ないのかな。

 バチバチバチ! っと誘導する雷と炎がヴァイリオ目掛けて放たれる。


「ふん! 安易に追尾攻撃をしていいのか?」


 ぴょんとヴァイリオはわき目も振らずに、いや……あえて嫌がらせとばかりにラルオンの乗る竜騎兵側へと高速で回り込みそのまま後方の迷宮種共が控えている方へと駆け出す。


「OH! 中々知恵が回るNE! けどこっちに来たら――」

「ふん!」


 怪しげな気配を思いきり纏ったムーイが俺たちを攻撃しようとするラルオンの振りかぶる剣を叩き上げる。

 ガイーン! っといい音が響いたぞ。


「チッ! 中々やるNE! どうも君はラビリンスでも超strongのようだZE!」


 この余裕のある態度はラルオンらしいのかね。

 バリバリバリ! っとムーイがラルオンの攻撃を阻止した隙間を潜り抜け、走り抜けた俺たちを雷が追尾してくる。

 ギュン! っとローティガが速度を増加させる異世界の戦士のナンバースキルであるチャージ系で素早く回り込んで罠にかけたとばかりに飛び掛かってくる。

 炎を前足に宿らせ、後ろ足は雷か……神々しい姿をしてるぜ。と感心する。

 狙いは俺の部分であるヴァイリオの額のようだ。

 ……50%、確率は半々か、これ以上は視界での分析は不可能。


『ユキカズ、わかっているだろう?』

『もちろん。呼吸を合わせてくれ、俺よりもヴァイリオの方がこれは使えるはず!』

「まだまだ行くぞ!」


 フッと、失った攻撃チャンスを逃さないとばかりに俺が主体でカーラルジュの能力、透明化を発動させる。

 更に闇に紛れ、ヴァイリオの光の光学迷彩も組み合わせることでローティガを含めた敵連中は俺とヴァイリオの姿が忽然と消えたように見えるだろう。


『シャドーダイブとでも命名すべき攻撃だろう』

「ガ!?」


 ムーイと戦いつつこっちに攻撃する機会を伺っていたラルオンが搭乗する竜騎兵が周囲を見渡す隙が出来た。

 ま、姿が見えない相手への攻撃なんて安易に出来ないよな?


『これも小細工、奴らが本気になればすぐに見つけてくるぞ』


 サッとヴァイリオが大きく回り込むように跳躍して、ローティガに飛び掛かった。


「ガ――ガアアア!」


 ピクっと即座にこっちの居場所を探知したローティガが振り返り、ヴァイリオの額、俺の部分を炎を付与したツメで消し飛ばす。


「そんなバカなッ――」


 これで俺がやられたとか……思うはずだよな?

 ニヤッとローティガが笑ったように見える。

 だがな? 違うんだよ。そこに居たのはな?

 ブチュ! っと音を立てて細切れに千切れた俺の部分はさ。


「ガアアア!」


 ガブ! っとヴァイリオが力の限りローティガの喉笛に噛みつく。

 ブシュ! っと血しぶきが立つが噛み千切るには全く足りない。

 それほどまでにローティガの増幅された力は強く、ヴァイリオと俺の力は足りない。

 けどな……目的はそれじゃない。

 ガリ……っと、噛みついたヴァイリオがさらに光弾を放ってローティガの首の皮を大きく削り、血管をむき出しにしてすぐに塞がるだろうけれど大きく傷をつけた。

 この時、この瞬間の為にこの戦いはあった!


『いけ! 頼んだぞトツカユキカズ!』

『ああ!』


 そう、俺がヴァイリオに本当に寄生していた場所は違う。

 額なんかには最初からいなかったよ。

 もちろん神経を伝ってそこにある程度、腕は伸ばしていたけれどさ。

 そこはダミーでムーイの分体に化けて貰っていたんだ。


「騙されたなー」


 細切れになった肉片が集まり、ムーイとなって本体の方へと移動していく。


「ガ――!?」


 な、なに!? と喉笛を噛みつかれたローティガが驚愕の表情を浮かべる。

 そう、俺はヴァイリオの口を介して……ローティガの体内に潜むために機会を伺っていたんだよ!

 本当は胃袋の方に潜んでいたってな。

 大きな血管の走る首筋ならば簡単には圧殺出来ない。

 で、大事なのはローティガの何処に操っている改造が施されているかだ。

 安易に頭かと思ったけれどどうも解析の結果だと脊髄か心臓周辺のどちらに装置の大本があるようだった。

 頭部に行っても操られているローティガの自我の解放は出来ない。

 迷宮種共は頭への改造ばかりだったけどとんだミスリードだったって所か。

 グニュウウ……っと、血管を通って一か八か五分五分の賭けをしようじゃないか。

 もちろん、俺の尻尾にまとわりついていたムーイも一緒だ。


「ローティガ……今すぐ――」

「ガアアアアア!」


 放せ! とばかりにローティガがブンブンと全身を使ってヴァイリオを振り払おうともがく。

 もちろん雷を全身から放ったり、火を吐いたり炎を巻き上げて火だるまにしてきたり……ナンバースキルをゼロ距離でヴァイリオに向かって放つが、決してヴァイリオはその突き立てた牙を放すことは無い。


「うぐぐ……力比べだ……」

「ガァアアアア!」


 体内の方では雷が全身を通って行くがこれは幸いか。

 さて、俺が寄生用に習得した魔物をここに見せようじゃないか。


 ムーンライトプラズマゴースト Lv43

 固有能力 上級機械操縦  マシンクラック エレクトロダイブ エネルギー吸収 上級雷撃 雷属性無効 精神波耐性(大)真空生存 機械理解5 クラッキング 上級マシンコントロール マシンナリー 念力 マシンパラサイト 高密度電磁パルス

 Lv65になった時 機械理解6


 月光の名を冠するプラズマゴーストの特殊個体への進化まで出来た。


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