三百十二話
「……」
無慈悲に動きが鈍くなった迷宮種の力の源らしき所にムーイが鋭く手を伸ばしむしり取ろうとする。
「させないZE!」
もちろんラルオンが阻止をするのだけど動きを読んでいたとばかりにムーイは掴んでいた迷宮種を力の限り投げつけた。
「グ――」
「OH!? こりゃ厄介だNE!」
ブチ! っと力の限り振りかぶられた一撃を受けて迷宮種が引きつぶれた。
と、同時に異世界の戦士の力が具現化してサッと後方へと逃げていく。
「ガアアア!」
ナンバースキルらしき動きをするムーイへ注意する暇がない。
意識をヴァイリオの方に戻すと、ローティガの連続攻撃が放たれる。
その一撃を時に弾き、時にそのまま受け、皮膚が軽く裂けても気にせず攻防を続ける。
「喰らえ!」
と、周囲に機雷のように浮かべていた光の玉をヴァイリオは旋回させてローティガに命中させる。
「ガ、ガァア!?」
若干のけ反ったこの隙を逃さないとばかりに飛び掛かろうとしたその時――。
遠距離からナンバースキル、クレセントアッパーという攻撃が飛んできて咄嗟に回避運動に入る。
くっそ……攻撃チャンスを潰しに来る最高にうっとおしい援護射撃を後方の迷宮種共が放ってきやがるな。
「邪魔だ!」
……5%
ヴァイリオが俺に寄生された影響で強化された魔眼を援護射撃をする迷宮種共に向かって放つ。
なんかヴァイリオの後方にエネルギーで構築された目が出現したぞ。
その目に睨まれた影響で後方にいる連中の中に状態異常になった奴がいるようだ。
異世界の戦士の力も常時発動している訳じゃないし、幻影系の魔眼は結構効果があった。
トーラビッヒとかが如実だ。
意志が弱い連中には効果が高い……のだけど状態異常に掛かった奴は目に見えて機械的な動きというのかフラフラしながら体を強引に動かして援護射撃をしようとしている。
機械に操作されている奴の特徴って事かね。
にしても俺に負荷をかけずにここまでのスキルが使えるヴァイリオの力は賞賛に値する。
『ユキカズ、君がいるお陰で随分と戦いやすくなっている』
『それは何より、なんていうか……装備品とかアクセサリー枠って感じかね』
『そこまで自身を卑下しなくて良い。確かに君が私の中にいるだけで君というより君を選んだ神獣様に由来する能力が強化されるのは事実だがね。前よりも早く動くローティガを目で追える分、戦いやすい』
負傷して低下している戦闘力を目が追いつくだけで補えるかは疑問ではあるが、実際に対処できているのだから事実なんだろう。
戦いでは僅かな差で結果が大きく変わるという話がある。
『ローティガに雷が改造で追加付与されているが君のお陰で対処出来ている』
ピピ……と、ヴァイリオの視界を介して解析が行われる。もちろん、ヴァイリオの体内から分からない範囲で体を伸ばして目を出し、ローティガへ体中から目を見せているぞ。
ヴァイリオの視界には無数の情報が表示されていて、簡易レーダーも展開している。
妙な流れ弾が来たら警戒して避けるようにな。
もちろん本命は別にあるんだけどさ。
「邪魔をしおって……ならばこれだ!」
と、ローティガへの追撃が叶わなかったから魔眼で後方の連中に状態異常をばらまき、失った攻撃チャンスで更なる布石をヴァイリオは周囲に展開させる。
ヴァイリオが力を放つと浮かんでいたエネルギー上の目から闇の力があふれ出し周囲に結界とは異なるフィールドを発生させた。
それは俺がゲイザーに体を一部変化させている事で発動している魔法資質による代物らしい。
光と闇を使う聖獣って感じかねー……なんかカッコイイかな? 中学生の時に魅力を感じた覚えがある。
『今のヴァイリオって表向きは堕ちた聖獣って感じであっちサイドが主役だったら決戦って雰囲気だろうなー』
『実際は堕ちているのはローティガだが……』
『しょうがないだろ。今の俺とヴァイリオってやばい感じのネームドボスっぽいんだから』
乗っ取られた四天王とかそんな感じじゃないか。
……20%
ローティガのとある部分の分析が進んでいく。
『……ふふ、神獣の力を持つ君が寄生しているとなるとこの世界では君の方が正しいのだがね』
これが正しいなんて到底思えない。
『あまり俺の自嘲を否定しないでほしい。調子に乗りたくない』
『君はそれくらいが君らしいのかもしれないね。それだけ君は特別であるのだよ』
ヴァイリオって俺に甘い気がするんだよなー……。
俺はそんな善人でも選ばれた存在でもない。
「ガァアア! ガアア!」
のけ反りから立ち直ったローティガが頭をブンブン振りかぶってから、カッと力を増幅させて素早く動き始める。
いや、この速度は……ナンバースキルか! Lチャージに該当する速度を含めた能力上昇だ。
俊足でこちらに猛撃を繰り出すローティガにヴァイリオは防戦をせざるを得ない。
ボッと炎の宿った爪や牙で食らいつこうとしてくるし、尻尾が炎となって殴りつけてくるぞ。
全身凶器とはこの事か。
ローティガの得意属性は炎だけだが今は雷も追加ってか?
「ガァアアアア!」
で、灼熱の炎を吐き出して闇を照らす。
光とは別に闇を消す厄介な攻撃をしてやがる。
「ふん! そんな力で俺に勝てるとでも?」
紙一重で避けたヴァイリオが挑発気味に鬣を靡かせてカウンターのツメをローティガの顔面にたたきつけた。
目が良くなったからって上手く決まったもんだと感心する。
『すげー……』
『良く見える、それだけだと君は思うだろうが、戦闘力に差があってもこの差を埋めるのは容易い事ではない。何より君の未来を見る目のお陰で充分すぎるほど予測可能だ』
力の限りたたきつけた所為でローティガの顔が大きくのけ反ったが、ヴァイリオのツメも砕けてしまった。
ブシュっと手から大きく出血する。
『頑丈なものだ』
即座に回復魔法を俺が唱え、ヴァイリオの負傷を感知したエミールが遠隔から植物を伸ばして地面から薬草畑が生える。
そこに向かってぐりぐりと負傷した手をこすりつけて傷の手当を行った。
く……ヴァイリオの少ない体力がこれで消耗してしまったぞ。
「ガアアアア!」
怒り猛るローティガが咆哮と共に地面を叩きつける。
するとパワーウォールクラッシュに似た攻撃が放たれた。
全範囲攻撃をここで放つとは厄介な。
しかも通った後が燃えて地面が焼きこげている。
『あっちも神獣様由来の力を切ってきた。さっきよりも攻撃が厳しくなったぞ』
『わかっている!』
至近距離からパワーウォールクラッシュなんてぶちかましやがって、出来る限り後方に飛びながら……ゲイザーの能力である空間跳躍を強引に発動させ一瞬でローティガの目の前に飛ぶ。
もちろんヴァイリオには視界にそこに飛ぶと予告して放ったから息はぴったりだ。
発動させた代償として俺の体内の何かがブチブチっと音を立てて激痛が走るがこの程度で済むなら安い代物だ。
「ふん!」
「ガア!?」
瞬間移動した直後にヴァイリオはローティガへ牙に光の力を付与して思いきり噛みつき、ブレスを放つ。
ザシュ! っとローティガの首めがけて噛みつこうとしたけれど即座に反応したローティガは腕で防御した。
そのまま腕に向けてブレスが着弾し爆発が起こる。
煙から抜けてヴァイリオが大きく横に飛ぶ。
「まだまだ行くぞ!」
流れるままに周囲に展開させていた闇のフィールドから俺とヴァイリオの影が分身となってローティガへと襲い掛かる。
……45%
追撃系の一部実体のある幻影だ。
ヴァイリオの力がこもっているお陰で捨て身の幻影がローティガへダメージを与えた。
雷と炎を纏っていたローティガの衣というべきそれが剥がれ、所々から出血が確認できる。
けれど攻撃が浅く、即座に傷が塞がってしまう。





