三百八話
「じゃあ……やるぞ」
「なんだ。この程度で出来るのか、仰々しいとはこの事だ。存分に成長するが良い」
ヴァイリオはあくび交じりに答えた。
と、俺はヴァイリオに寄生して生き血を啜るかの如く、体内で進化を選択する。
本当……自分の選んだ道に反吐が出る。
ノミとか蚊、ダニみたいで本当に嫌だ。
こんな事をしなくちゃいけない運命を神が定めたんなら本当、心の底から殴りつけたくなるもんだ。
返事は無いけど、お膳立てしてるんだったら殴るから覚えておけよな。
そうしてプラズマゴーストを経由して二回ほど俺は進化した。
ヴァイリオという実績と魔素の塊があるからこそできる強引な方法だ。
こんな状況じゃなきゃズルとかチートとかで裁かれるだろうな……。
ムーイにナンバースキルを使わせて聖獣を全員倒して試練を突破した事にはならないって奴と同じ。
だが……俺はこの不正を間違っているなんて思わない。
元々ナンバースキル自体が不正な力で格上の相手を倒すチート能力みたいなもんなんだし。
今更だって開き直ってやるよ。けど根には持つぞ、俺の好みじゃない過程なんだからな!
ともかく、こうして進化させて貰った代償とばかりに俺は出来る限りヴァイリオの治療に専念することにした。
「ふむ……最初の段階でこうして強化した方がよかったか。昨日よりも随分と具合が良くなっているよ、ユキカズ」
ヴァイリオの軽口を聞き流しつつ、これからの作戦を思案する。
得られる情報は限られているけれど、出来る限りの対処をしなければ……。
おそらくヴァイリオの記憶よりも相手の兵力は増しているだろう。
ドラゴンの被害も出ているとなると操られたドラゴンも組み込まれているだろう。
本音で言えばドラゴン系の寄生も習得したいがその辺りを取得するのは余計な事だ。
……得られた進化を再確認だ。この先の進化も存在するのだけどヴァイリオの実績では達成できなかった。
複数のマシン系の魔物を俺自身が解析する必要がある。
討伐実績では進めない。
それでもラルオンをどうにか出来る手立てが出来ただけでも十分だ。
ただ、気になることが幾つかある。
「……ヴァイリオ」
「なんだ?」
「俺の進化って世界のどこかにある魔物をなぞるのが大半何だと思うんだが、ここまで機械操作が出来る魔物がいるならそいつをどこかでテイミングなり家来にして弱らせたローティガにぶつけるとかすればよくないか?」
俺のセリフにヴァイリオが苦笑いとばかりに渇いた笑いをする。
「その意見には激しく同意したい所だが生憎と私は見たことが無い。君の進化は何処から来ているのか神様が定めた事でしかないのでわかりかねる所であるのだよ」
まー……無いものねだりをするより変身できる俺に任せるのが良いって事か。
ともかく、これが俺の出来る限界か……どうか、上手くいくことを祈るしかない。
そうしてヴァイリオの中で進化をしていた所で日が大分傾いてきて健人やムーイたちが集まってきた。
「偵察してきたぜ。正直やべえな。あっちの聖獣様ってのが嫌って位気配を出して来てやがるぜ。いい加減、迎撃態勢に入ったほうが良いくらいには近くまで来てるぜ」
罠をいくつか仕掛けられれば苦労しねえんだけどよ。と、健人が言った。
「大型魔物を仕留める罠とか教わっちゃいるがー……実際に作ったことは無いなぁ」
ああ、懐かしい。フィリンに昔、大型魔物に始まり竜騎兵用や魔導兵用の魔導地雷とかの話を聞いた。
仕組みとかを丁寧に教えてくれたんだけど……専門的過ぎてまるで理解できなかった。
見た目を真似るだけじゃ難しいだろうなぁ。
何よりその程度の代物で仕留められる相手でもない。
ヴァイリオに寄生して進化を多少したとしても、とても追いつける次元じゃないからだ。
「どんどん迷宮種たちがやってきてるぞ。ムーイ、絶対にみんなを守りたい」
「が、頑張るんだな」
「みんな頑張るけど、避難もさせるか考えるっきゅ?」
ムーイたちがやる気を見せている中でラウが避難を提案している。
これはオウセラの影響もあるのだろうか?
「でよーオウセラと雪一がヴァイリオの記憶から敵を分析するって話だったけど、どうなんだ?」
「……そうだな」
俺は健人やムーイ、エミールを含めたみんなに敵の中に死んだはずのラルオンが混じっていて、竜騎兵に乗ってローティガと一緒に襲い掛かってくると説明した。
「あっちの世界の人間がなんかヤベー感じに改造されてくるってか。んじゃ仕留めるしかねえか? いや……うまい事倒して竜騎兵を奪うのが良いんじゃねえか?」
赤の他人である健人からするとそう判断するしかないよなー。
「竜騎兵は上手く行けばな。できればラルオンを救いたいしヴァイリオの仲間であるローティガも解放させなきゃいけなくなった。目的が同じだからヴァイリオの力で俺もその辺りの進化をしておいた」
「そりゃあ何よりで、うまく行けるか考えている最中って事だな。無駄にハードル上げてやがるな。その知ってるやつってのは……また男か?」
男か女かを聞いてくる所が実に健人らしいといえばらしいのかね。
女だったら全力で助けてくれたんだろうか?
「男」
「雪一おめーさー、悉く野郎ばかり命を賭して助けようって。自覚しろよ? よくやろうと思うって感心するぜ」
同性愛者なの? って挑発してくるんじゃねえ!
ムーイだってエミールだって助けたじゃないか。
結果的にムーイは女の子になっちゃったけどさ。
「うるせえ! お前が当事者だったらどうなんだよ。あっちの世界の仲間の野郎とかだったら」
俺の問いに健人は不敵に鼻で笑いやがる。
「ハッ! そんなもん、俺を知る奴が助け船を出すはずねえって分かり切ってるよ」
「……とは言っても周囲の、特に気に入った女性の評価を気にしてどうにかしようと考えるでしょう?」
「ちょ――」
そこでため息を漏らすのはリイと、様子を見に来てくれたルセトさんだ。
うんうんとルセトさんは口下手で真面目だからこそ何度も頷いている。
同意って事なのかねー。
「神獣の申し子様相手に本音だけで答えても実際の行動が違うのですから意味は無いですよ」
これはリイなりの擁護なのか。
「そうそう、ケントはこういう時は頑張ってくれますよ」
治療で周囲にいるカトレアさんも同意見なのね。
「お前らどっちの味方なんだよ! 俺は甘える野郎を助けるようなお人よしじゃねえぜ?」
「優先順位があるのは分かってますよ。少なくとも神獣の申し子様の立場ではって判断です。現に私は神獣の申し子様の成したい事に関して、一定の理解はしてますから」
まあ……リイたちこの世界の人々にとって聖獣を捕まえて操る一派の者の処遇なんて断罪しか考えられないだろう。
そんな所で助けたいなんて俺が言ったら思う所はあるはず。
それでも理解してくれるのは素直に感謝しないとね。
健人の選りすぐりの良い女って事なんだろうか。
「ったく、ヴァイリオとローティガ、それにどこぞの野郎か。どいつもこいつも」
「私に性別は無いが……」
ヴァイリオに性別なしか……そういえば確認してなかった。
なんで雄扱いだったんだ?
「無いって言っても立派なたてがみを靡かせてたら野郎だよ」
なるほど、たてがみのあるライオンみたいな魔物だから雄って思っちゃうのか。
「そういうものか。では今度剃っても良いかもしれないな。雌っぽい感じに」
ヴァイリオがたてがみを前足で弄ってる。そこからちょっと乙女な瞳をしてるような?
魔眼だな。キラキラ乙女ビームを放ってるんだ。
聖獣故にそういった攻撃も所持してるとはね。
ちょっとかわいく見える目つきが意識して出来る。
「やめろ、その巨体と体躯でなんかかわいいなと見えるようなしぐさをするんじゃねえ」
なんか健人に少しダメージ入ったぞ。
「ははは、冗談はこれくらいにするとしよう」
軽いジョークで場を和ませるって事だったんだろうか。
まあ、健人も俺の方針に文句は言えど反対まではしてなかったけどさ。
心の底から呆れてるだけでね。
しょうがないだろ。ここで冷酷にラルオンを切り捨てるなんて俺の理想であるブルみたいな良い人はしないと思うんだから。





