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三百六話


「そう……か。利用されている人間だとは思ったが、死者の体に鞭を打つような真似をしたという事か」

「あくまで……推測でしかないけどさ」


 少なくとも藤平がラルオンを殺したというのは事実なのだろう。

 頭の半分が機械化しているのは死体を利用ないし、何らかの改造手術を受けているのは間違いない。

 それはローティガも同様だから……敵がとんでもない事をしているのは否定のしようが無い。

 く……どうにかしてラルオンを助ける手立てはないのか?

 本当に敵に利用されているだけなのか? 実はって可能性だってゼロではない。

 正直に言えばラルオンって苦手なタイプではあるんだ。

 だけど……そんなラルオンだけど藤平の面倒を俺は押し付けてしまった。

 藤平はどうしようもない奴で、本当はどこか早いうちに軟禁なり拘束して牢屋にでも入れておいた方がよかったのかもしれない。

 だけどその判断を俺はラルオン達に任せてしまった。

 その結果が……これなのか?

 真実はまだわからない。

 けれど……いや、迷宮種デリルインから得られた情報からすると……改造されて操られていると考えるのが自然だ。

 なんていうか……オウセラは的確に助言してくれたもんだと感心する。

 もしも知らずに遭遇したら冷静に対処できたかまるで自信がない。


「どうしたものか……」

「ユキカズ。君はどうしたいというのだ?」


 ヴァイリオが俺に……願いを聞くかのような雰囲気を匂わせて意識だけで尋ねる。

 ラルオンをあんなにした奴への殺意が湧き出してくるけれどそれは一端置いておき、どうしたいかを考える。

 どうにかしてラルオンがこれ以上の罪を犯さないように止める?

 いや、そうじゃない。

 脳内で考える。

 今までの戦闘経験からラルオンに接敵して勝つだけなら頑張れば出来る気はする。

 ムーイのお陰で戦えるようになってきてるし迷宮種には神獣の力が宿っていても勝てた。

 ただ、ラルオンはライラ教官のように技術もある。ヴァイリオの記憶から確認してわかるのは腕は鈍っているようには見えない。

 ああいった改造手術を受けた味方とかは戦闘マシーン化とかしてて技術とか程遠いのが物語の鉄板なんだろうけどさ。

 少なくともヴァイリオを瀕死にさせた際の攻撃の鋭さは記憶の中のラルオンがキラーヒュージブロブを仕留めた時と同じ鋭さだった。

 戦闘技術に衰えは無い。

 けれど、それでもみんなで力を合わせて戦えば倒す事は……出来るかもしれない。

 だけど……俺の望むのは違う。


「理想はラルオンと話がしたい。もしも敵に操られているなら助けたい、死んでいたとしても今はああして動いている。つまり生きているんだ。何者かに操られているならこそ……」


 少なくともラルオンが見知らぬ世界を滅ぼすためにこんな真似をするような人物ではなかったはず。

 ……ああ、俺の知るあの世界がこの世界に侵略に来たとは思いたくない。

 もしもだ……もしもその最悪の可能性が事実だったとしたら俺は……敵としてブルやフィリンが出てきた時、しっかりと事情を話す。

 ブルやフィリンがこんな事を受け入れるはずがない。だから……絶対に違うと信じる。

 そうじゃなかったら……みんなを守るために俺は戦う。絶対に止めて見せる。

 だけどこれはあくまで最悪の可能性であり、目の前のラルオンをどうするか。

 ラルオンは何者かに操られているのだろうと思う。

 じゃあどう行動したらラルオンを助けられる?

 単純に勝つんじゃだめなんだ。

 追い詰めて不意を突き、俺がラルオンの機械部分に取り付いて動きを封じつつハッキングを仕掛ければあの機械部分は今までの迷宮種たちと同じように自爆と異世界の戦士の力を逃走させようとするだろう。

 そうなったらラルオンは……。

 間違いなく今度こそ体が弾けて肉片と化す。

 それは一種の救いではあるけれど俺の望んだ結末にはならない。

 そうじゃないんだ。俺が望むのは。

 ラルオンを生かして捕らえたい。ラルオンが実はスパイ? いや、さすがに無いだろ。操られてるのはベリルインの時から推測できる。

 ただ……救うには俺の能力が足りない。


「そうだな。私も同じ願いだ。ローティガを……どうにかしてやりたいのだ。これはケントたちの知る人間共の言葉で言う所の「渡りに船」「大同団結」か」


 ああ……操られたローティガをどうにかして倒す前に解放したいというヴァイリオとは目的が同じであるのは間違いない。


「そうだが、俺には力が足りない」


 ローティガへの寄生は俺が弱くて上手く入り込んだとしても内部で圧殺される。

 仮に上手く寄生して操っている所にたどり着いたとしても書き換えることが出来るほどのスキルが無い。

 同様にラルオンなら竜騎兵をどうにかして倒すなり隙をついて寄生してコアまで到達して引きずりおろして白兵戦にしたとしてラルオンの機械部分にアクセスした際に自爆されかねない。

 何にしても俺の力が足りなさすぎる。


「……奴らが来るまで悠長にLvアップなんてさせてはくれないだろ」


 どこかで魔物を倒して魔素を集め、聖獣に負けない、暴れる聖獣に無理やり寄生するほどの力を得る事も出来ない。


「私が出来る限り時間を稼ぐために逃げる。その間に力をつけろと言ってユキカズ、君は出来るか?」

「そのような真似をすればこの町は元より、様々な場所で無数の犠牲者が出るだろ」

「わかってる。そんな真似は出来ない。結界だってもたない」


 ここまで人々が逃避行するだけでも相当な犠牲が出てしまっている。

 街の結界だって突破されるのは時間の問題な訳で、時間を稼いでいる間に俺たちがLvアップをするぜなんて出来るはずもない。

 むしろ悠長すぎるだろ。俺たちには時間が無いんだ。


「もう先発隊が来てるという事は何時ローティガと君の知る者が追い付いてきてもおかしくない」


 それほどまでに残された時間は無い。

 ……もう手段が残されてない。

 一か八かで力を合わせてローティガとラルオンを倒すしかない。

 どこかで自分を誤魔化して……殺すしかなかったって思うしか……。

 ああ……どうして俺はいつも何か足りないのか。

 もっと真面目にLv上げと進化に力を入れて行けばよかった。

 どう無茶をしろって言うんだ? ムーイにお願いして異世界の戦士としての力を振りかぶればいけるか?

 単純にムーイの能力が上がるだろうけど、それで俺の望んだことは出来ない。

 俺が望むのは操られた聖獣とラルオンを救う事なんだ。倒す事じゃない。

 そんな考えをぬぐう様に会話を切り上げて俺はヴァイリオの手当てへと意識を向ける。

 うん。考えるよりもまずは体を動かしておきたい。

 先延ばしにするような思考だけど何もせずに迷い続けるよりははるかに……マシなはず。


「……やるしか、ないのか。諦めて殺すしか……」


 知恵を絞ってラルオンを安らかに眠らせる。

 これ以上悪さをする前に、取り返しがつかない結果になる前に。

 この世界の者たちの為に、俺はラルオンに手を掛けなきゃ……理想論では世界は回っていない。

 何らかの犠牲を払う事はある。

 ここで俺の知るブルやフィリンはどんな選択をする?

 絶対にあきらめないだろう。何が何でもラルオンを助けるために動く。

 あの二人はその決断が出来る。

 たとえ結果が実らなくても。

 だけど……俺はその理想へと至る手立てが思い浮かばない。

 頑張って……失敗するのが分かっているからこそ、動けない。

 神獣の力でもどうにもならないし、俺の力でも無理、ムーイに相談してどうにかなる事か?

 出来る事と出来ない事の区別は出来ているつもりだ。

 この決断を二人にさせるのはよくない。

 ナジュヘドの力の源をうまく使えば行ける……とは思えない。

 だってアイツも奴らの勢力に操られているようなものだった。

 が、可能性は無くは無い……か?


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