三百四話
「この場をうまく乗り越えたとしても大変そうだな」
「ああ」
「そんで、ヴァイリオ、何か考えがあるんじゃないか?」
「ユキカズ、君がこうして寄生する事を好ましく思っていないのは知っている。それを承知で……ローティガと戦う際に奴に入り込んで操っている個所を破壊することは可能か?」
なるほど……ローティガが敵に操られているのならばその部分を俺がヴァイリオと力を合わせて外すことが出来ないかという考えか。
「それはヴァイリオ、寄生されているお前が一番知っているだろ?」
俺がどの程度の力を持っているのかは寄生されているヴァイリオからすれば把握することは容易い。
少なくとも抵抗の意思を見せれば俺を圧殺することが出来る程に実力差が開いている。
そんな差があるにも関わらず同格に位置するローティガに寄生して操っている個所をどうにかしろとか無茶な話だ。
「やはり難しいか……」
無茶言うなって次元だ。
そりゃあ残された自我が抵抗して俺を導いてくれればありえなくは無いが、それに賭けるのは難しいだろう。
「すまない。出来ればで良い話だ」
「むしろ外側から破壊する方が無難だと思う。難しいなら俺が場所を特定してそこを攻撃とか」
寄生してどうにかするより物理的の方がまだ可能性が高い。
もちろん、手札は多いに越したことはない。
……何か、妙な予感めいた感覚が俺に通り過ぎていく。
ムーイに寄生した箇所の影響かそのあたりの感覚が鋭敏になっていると思う。
この嫌な予感が当たらなければ良い事を祈るしかない。
「とりあえず私がローティガをどうにかするのは予定通りとして、ユキカズたちに戦って貰いたい相手を私の記憶から見て貰うのが良いだろう。そのあとにどうするかを決めてもいいだろう?」
「そうだな。教えて貰えば対処のしようがある」
兵役を受けていた手前、座学で戦争なんかの知識も教わっている。
情報は力だ。
魔物化してから偵察役を俺がするのは機動力の高さによる情報収集が出来る点に他ならない。
まあ……これまでの戦いで情報収集がうまく行っていたかというと怪しいのだけどさ。
ムーイと出会った時だって拠点に入り込まれてしまったし、飛び回っているのをカーラルジュに目を付けられて不意打ちされる。
エミールと出会った頃の調査が精々それか? 単純にエミールの人柄を知っただけでフレーディンは見つけられないという。
……なんか俺の役立たず感に泣けてきた。
もっとみんなの力にならなきゃいけない。
頑張るぞー! じゃないと偉そうに指示だけ出してる無能指揮官になってしまう!
フレーディンのエミール頼りみたいに強い人の後ろで甘い汁を吸うだけの奴にはなりたくないんだ。
……ブルと一緒の頃もそんな感じだった気がする。
違う。違うんだ。俺はそんな下種じゃない。
もっと、もっとブルやムーイ、エミールの待遇を良くしたい。その為に俺は頑張りたい。
その為になら自己保身だって絶対に捨てて見せる!
『ブヒャ!?』
『またブルトクレスが鳥肌を立ててる……ふと思うんだが……』
『ヒノさん。どうしました?』
『兎束ってさブルトクレスに随分と熱を上げてたけど本人の自己評価、随分と低かった気がするんだけど気のせいかな?』
『ブー』
『ブルさんも同意するんですか? ヒノさん。それはなぜですか?』
『ああ、クラスのみんなの末路を見た後のアイツがさ。生き残った事を悪のような言い回しだったなと思ってさ……気持ちはわかるけれど、その所為であんな暴走してさ』
『ユキカズさんの良くない所ですよね。勝手に行動して、残された方の身になってほしいですよ』
『ブーブー!』
『あれで本人はブルトクレスに甘えて美味しい思いをしてるんだぜ? って顔してそうだなー』
『ヒノさん。ユキカズさんの事をよく知ってますね。そこは間違いないでしょうね。あれだけ気を利かせていたらそんな酷い人じゃないでしょうに』
『ブー』
『はは、周囲との認識に差があるのがアイツの良い所だな。周囲は苦労しそう』
『恩だけ与えて勝手にどこか行っちゃうんですよ。全く……困った人です』
ヴァイリオから情報を引き出してより次への対処を出来るようにしなきゃね。
「じゃあヴァイリオ、敗走した時の記憶を思い浮かべてくれ。見させてもらうからさ」
「わかった」
あんまり脳とか記憶関連に寄生の力でアクセスするのは好ましいとは思えないんだけどね。
本人の同意の上で見させて貰うならと妥協して確認をする。
俺の指示でヴァイリオは神殿にある文字を読ませるように、俺に過去の戦いを回想として見せてくれることになった……。
ぼんやりとカメラのピントが合うように、今は封鎖されている街を背にして仲間の聖獣と共に操られたローティガを睨んでいる。
背後にはドラゴン……じゃない、竜騎兵や魔導兵を含めた機械っぽい部分が混じった魔物がいる。いや……さらにその後ろには迷宮種たちまで揃っていた。
どんな状況だ……先鋒がローティガ、次鋒が竜騎兵と魔導兵、更によくわからない魔物でその後ろに迷宮種共って。
軍団と呼べる次元じゃないか。
あんなのを相手にしろってのか。
これは厳しいなんてもんじゃない。
町の連中も戦いに参加……をするには実力差が開きすぎている。
味方が居ない訳ではない。聖獣の配下なのかわからないけれど大型の魔物や人々も戦いに参加している。
ドラゴンも交じっていたのだけれど迷宮種や機械が混ざった魔物相手に一方的にやられていた。
で……ヴァイリオが白いライオンのような聖獣とするならローティガは赤い虎のような聖獣みたいだ。
尻尾の先に炎を宿し、其処からマグマも操る。
チラリとヴァイリオは町の方を見る。
気配で街から人々が逃げていくのをしっかりと把握していた。
結果的に時間稼ぎも兼ねた戦いになる。
「ガァアアアアアア!」
「ローティガ! なぜそんな奴らに与する!」
ゴリラを彷彿とさせる仲間の聖獣が操られたローティガへと疑問を投げかけるが、ローティガは雄たけびで答えるのみ。
いや……。
『た……すけ……うう……』
カッとローティガから異世界の戦士の力が噴出し、ナンバースキルによって能力が増幅され、目にも止まらぬ速度で襲い掛かって来ていた。
「ローティガ!」
それをヴァイリオともう一匹の聖獣は避けて反撃を仕掛ける。
名前は……ベリングリって言うのか。
が、同時にローティガ側の竜騎兵が間に入り、盾で攻撃を受け止め剣を振りかぶって遮る。
「おのれ! ローティガにこのような事を仕出かした邪悪な侵略者め!」
カッと竜騎兵が極太ビームのようなブレスをぶちかまして薙ぎ払ってくるのを避ける。
けれど、竜騎兵はその動きを予測しているとばかりにヴァイリオの至近距離に姿勢を低くして近づき剣で力強く突く。
「ぐううう……まだまだぁあああ!」
突かれたヴァイリオだが強靭な皮膚に遮られ深手にはならず、反撃とばかりに光を放ち、突進と爪による斬撃を放つ。周囲に光の玉が無数に生成されて追撃さえも放つ。
しかも何処からか雷も纏っている。
おー……なんとも凄まじい。
それを竜騎兵らしき相手は盾で弾きつつ横なぎで……ナンバースキル、トルネードエアで返してヴァイリオを切り刻む。
「この程度でやられると思うか! 愚か者が!」
もちろんその程度の攻撃でやられることなく竜騎兵ののど元に食らいついて喉笛をかみ切らんとするヴァイリオにローティガが突進して阻む。
「うぐ……おのれ!」
そこに後方からの援護射撃とばかりにハンドレッドダガーを含めた遠距離攻撃が降り注いだ。
「ぐあああああ!?」
ゴリラの聖獣、ベリングリも別で戦っていた所に攻撃を受けて負傷する。
すぐに傷が塞がっては行くけれど、聖獣たちは息を切らし始めていた。





