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三百三話


「ま、助言されてんならいいんじゃねえの? じゃ、俺たちは次の襲撃に備えておくぜ。とりあえず任せておけよ」

「頑張るぞー」

「……任せて欲しいんだな。みんなの手伝いをしていくんだな」

「ボクも頑張る。次にこの玉が使えるように何か出来ないかやってみるっきゅ」


 ラウはやる気なようだけど、リイに視線で無茶はさせないように指示を出しておく。

 もう視線で会話が出来るようになってきてしまったなー。


「なーにリイに視線で会話してんだよ。分かり合ってますってか?」


 健人が間に入って来やがる。

 お前ってさー……所かまわず女作ってナンパする癖に俺が話をするのに邪魔するのか?

 別にリイを取ったりしねえよ。


「ガキは遊ぶのが仕事で戦いじゃねえっての、戦いたい気持ちはわかるし戦えるとしてもハイソウデスカってやって良い事じゃねえ。ラウ、お前が前に多少出ても良いかもってのはな? ムーイとご先祖様が戦う形式だからって事を忘れるんじゃねえぞ?」

「きゅ……きゅー」


 こういう所はしっかりしてるのだけは評価したい所ではあるんだけどなー健人。

 本当、これで女性関係の多ささえなければさ。

 で、これ見よがしにリイの肩に手を置いて抱き寄せ俺にはやらないアピールまでしてくる。

 嫉妬するなら女は絞れ。

 視線でやりあう気か? やってやるぜ? 洗脳魔眼を放ってやろうか?


「ケント、大人げないですよ。神獣の申し子様がそのような方ではないでしょう」


 卒なくリイは健人の手を外して忠告する。

 うん。この真面目さは非常に好ましいね。


「だがよー」

「そう思うのでしたら神獣の申し子様のように真面目に事に取り組みましょう。無理のない範囲で偵察と周辺警護しましょうね」

「ったく、わかったよ。じゃあ雪一、ヴァイリオと乳繰り合ってろ」

「な!? 何が乳繰り合うだこら!」


 誤解を招くような発言は辞めろ! ムーイに妙に勘繰られたらシャレにならないだろ。

 なんて爆弾を落としつつ健人たちは各々事態解決に向けて出かけて行く。

 その後姿をムーイは見つめつつ俺の方に振り返った。


「んー?」


 あ、ムーイは気にしてないようだから大丈夫そう。

 いや、ムーイだから一つを知って十を知る可能性もあり得る。


「ユキカズ、ヴァイリオ好きなのかー? チューする?」


 ああもう、察してきやがった。


「ははは、そういうのとは異なるので安心するが良い」


 ナイスヴァイリオ! そうだな。

 俺はヴァイリオの人柄は気に入ってるけどそういうのじゃない。


「わかったぞ」

「とりあえず次の戦いに備えてゆっくり休んでくれ。飯は後で作るからさ」

「おー!」


 ってムーイにも解散を命じてみんな準備に出かける。

 俺はヴァイリオの方へと顔を向ける。


「……実はだな。ユキカズにはこうして相談したいと思っていたのだ」

「峠を抜けて自力で回復がどうにか出来るようになったってだけだから不安なんだろうとは思ってたけどな」


 多少塞がり始めた傷口をヴァイリオが入りやすいように広げるのでそこから入る。


「……いや、そうではない。私としてはユキカズ、君だからこそ頼めるんじゃないかと思う事がある。こうしてその力を見せて貰ったからこそ君に相談をしたかったのだ」

「相談? 昨夜話せない事とかあったのか?」

「あの時点では判断できなかった問題を不用意に話す訳にもいくまい」


 そりゃあヴァイリオからしたら神獣の加護が授かっていると言っても仲間とはちょっと違う間柄だしね。

 ドクンドクンと……朝よりも鼓動が強まっていて全体的に改善が見受けられるヴァイリオに寄生する。

 正直、ヴァイリオが拒めば俺なんて一瞬で圧殺されかねない程の力の差がある。

 まだ治療が終わっていない所に意識を向けてヴァイリオの免疫機能に刺激を与えて促進する。

 これだけでも回復速度は増すだろう。

 何よりエミールが用意してくれた薬も随時摂取している。

 瀕死だったのがウソのような回復は出来ている。

 後はじっくりと体力を整えれば良いとは思うのだが……そこが一番の問題か。

 それ以外だと……パラサイトとしてヴァイリオの肉体改造とかして強化してやるのが良いんだろうが、俺の能力でヴァイリオの強化とか身の程を知れって次元だ。

 ただ、ムーイの分身とくっついたままなので倒した迷宮種たちの力の源の分、昨日よりも出力はある。


「で……何から話した方が良いか」


 俺が尋ねるとヴァイリオが少し考えてから意思を伝えてくる。


「現状の正確な認識をしてから話を進めるのが良い。本来はオウセラもいると君が判断できる情報が多くなるだろうが生憎と安易に呼び出せるものではないのだろう」


 答えられる範囲で知ってそうだしな。

 そもそもの話としてヴァイリオともっと話をすべきだと提案したのはオウセラだ。

 ただ、本人もなぜかまでは分からない能力による直感のような代物のようだったが。


「それで? 何か懸念点でもあるのか?」

「……おそらくの話だが、仮に私たちが力を合わせてローティガを倒すことが出来たとしよう」


 当初の問題である敵に操られた聖獣を倒すって話だな。


「ああ、そこに何か問題があるのか?」

「ただ倒しただけでは……ローティガを救う事が出来ない可能性が高い」

「どういうことだ?」


 この手の操られた敵とは言え、倒せば良いって話じゃないのか?


「聖獣は試練を突破された際に座に戻り、復活の時を待つという話はしたな?」

「それは聞いた」

「……ローティガは敵に汚染された聖獣のまま座に……つまり、ローティガは殺してもいずれ蘇り、敵へ神の道を開こうと私たちに襲い掛かるのが分かった。こんなことは初めてだ。奴らは一体何をしたのか……既に一部が書き換えられている」


 うわ……それは操られた聖獣にしても地獄のような状況じゃないか。

 ヴァイリオに寄生した際に聞こえるうめき声から察するに本意じゃないだろ。

 敵もエグイ事をしやがる。

 こんな汚染状態を野放しには出来ない。それこそ初期化、書き換えが出来ればいいんだが……簡単に出来ないのがお約束だろ。


「阻止するには座に戻る前に奴らに操られている所をどうにかしなくてはいけない」

「そう簡単には……させちゃくれないだろうな」


 バックアップファイルはすでに汚染状態、現状動いているローティガを本来の状態に戻して座の部分を書き換えなおすのが理想。

 次点はササっと仕留めて他の勢力の連中を全滅させた後、復活した操られた状態のローティガを捕縛して解き放つとかが無難な作戦か。

 何時復活するかはわからないけどさ。

 ただ……この作戦にも穴がある。聖獣は4体居て、1体は死亡して座でヴァイリオに協力してるがその位置からでは力が弱い。ヴァイリオは峠は越えられて体力を回復中。ローティガは敵に操られた状態で座に干渉して神への道を開けようとしている。

 残りの1体は行方不明だけどおそらく敵の手に落ちている。

 芳しい状態じゃない。


「で、敵は聖獣だけじゃないんだろ?」


 話によれば聖獣だけが敵ではない。今回の襲撃は先発隊だとみて良いけどそれであの数だ。

 本隊がやってきたらどうなるか想像に難しくない。


「……先ほど地脈の流れにアクセスして情報収集を行った所なんだが、ドラゴンの集落の方に何らかの異変が感じ取れる。相当数、奴らの犠牲になった可能性が高いだろう」


 ……迷宮種以外にドラゴンも奴らの謎の改造を施されて戦力に組み込まれたってか?

 何処まで相手の強さが盛られて行くんだか……健人やムーイでも手に余る領域になって来てる気配がするぞ。


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