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三百二話


「一応、迷宮種の力の源の使い道は無くはないんだ」

「なんだよ。雪一、お前も知ってるのかよ」

「神殿の文字の解析が終わった引用でな。健人も少し話せばすぐに察することが出来るぞ」


 こう、納得は出来るはずだ。


「ただなー……この情報が変な所で広まると俺としては困るし、ムーイやエミールの命に関わるから……人には絶対に話すなよ?」

「なんでしないんだな?」

「なんでだー?」


 広まると冗談抜きでムーイたちの命が危ない。

 ただ、この世界の人たちは大丈夫だとは思うけどさ。

 割と信心深いし、欲張りは少ないって健人は言ってたからさ。

 俺は周囲でヴァイリオの治療をしている人たちに距離をとるように視線で命じる。

 ヴァイリオも同様の指示を出すので俺たちの話を盗み聞きはさせないようにして貰った。


「じゃあ他の連中には聞こえないように魔法で音の遮断を施してから……」


 ゲイザーに変化して魔法で音の障壁を何重にも張ってからムーイとエミールを含めた健人たちに話すことにする。


「健人、オウセラの玉が見つかった所は分かるな?」

「ああ」

「オウセラの玉が元々は迷宮種の力の源なんだろうって事もわかるよな?」

「そうだな」

「じゃあ……トランセンドシードは元々なんだと思う?」

「ダンジョン、迷宮で見つかる超レアアイテムでLv限界を引き上げる代物だろ何言って――ってまさか!?」


 俺は健人の言葉に素直にうなずく。

 そう、迷宮種の力の源を加工する事でトランセンドシードに変化するんだ。


「迷宮種の力の源ってのはどうやら何らかの条件でトランセンドシードへと変化するって事らしい。だから各々の神殿で玉とトランセンドシードが見つかるんだ。おそらくは元々一つだったのが玉とトランセンドシードに分かれたって事なんじゃないか?」


 オウセラが死して埋葬かなんかされた後に死体から力の源が魂というか意思の部分が玉になり残りがトランセンドシードになったって感じで。


「けどよ。トランセンドシードってのはダンジョンでごくごく稀に見つかるレアアイテムだぜ? 偶然じゃねえの?」

「ダンジョンで死んだ迷宮種の力の源が変質して環境変化の際にどこかへ転がって行った後に見つかった……って事が無いと言い切れるか?」

「う……」

「何より、ヴァイリオが肯定してるんだ。トランセンドシードってのは……迷宮種の力の源で作られている代物なんだろ」


 少なくとも現状の情報ではそう判断するほかない。


「下手すりゃマジックシードすら同じ理由で出来上がる代物かもしれないぞ」


 そう思うと……怖くもある。

 迷宮種によって人類は強さを得ている可能性はあり得るのだ。


「そもそも迷宮種ってのは何なんだよ」


 健人がヴァイリオをにらみつけて問い詰める。


「それに答える権利を私は持っていない」


 全く……ヴァイリオの方も厄介な立場にいるようで可哀想に感じてしまう。

 知りたきゃ神に会えって事だ。

 薄々……俺も分かってきたような気はするけど確証はない。寄生する事で手にした世界の断片って奴から。


「この世界の認識だと災害に匹敵する脅威の化け物ってみんな思ってるー」


 ……ムーイの口から言われると辛いな。


「ムーイやエミールが大人しいだけだ」


 そう、これまで戦った迷宮種たちは言葉こそ通じたが揃って凶暴性を所持していた。

 さらに変わった能力を所持していて、本来はその力を使って襲い掛かってくる……強力な魔物という認識が良いだろう。

 出会った当初のエミールだって奥の手を使えば相当厄介な化け物だし、ムーイは言うまでもない。

 ムーイの強さはシャレにならないぞ? 見た目人間より少し大柄だとしてもこのサイズで竜騎兵や魔導兵並みの攻撃力を持っている。

 しかも成長性は間違いなく高い。力の源を遠慮なくその身に入れたらその分強くなるだろう。

 さらに力を遠慮なく使えば構造変化で終わりだ。

 俺に好意を持ち懐いてくれたからこそ非常に助かってるし、色々とあって仲良くなったんだしね。

 迷宮種は力の源を摂取する事で強化と変化が起こり、食性に合うものを食べ続ける事でも強化される。

 限界が分からないほどの災害、あっちの異世界で魔王とか呼ばれてるかもしれない。

 もちろん、神獣の欠片だったり別の何かを魔王と認識もされているだろう。


「オデたちは……どんな存在なのか、わからないんだな……」

「何があってもムーイはムーイだぞ。エミールは迷宮種以外に生まれ変わりたいのかー?」

「え?」


 ムーイの質問にエミールは考えるように黙ってしまった。

 さらになぜか俺をじっと見てる。

 なんだよ?


「確かにこれはあっちの世界で知られたらシャレにならねえ話だな」

「だろ?」


 トランセンドシードはLv限界を引き上げるという性質上、冒険者は元より権力者が欲する宝物だ。

 それがあるだけで人の限界を超えられるんだから。

 異世界の戦士はそのあたりの限界が高めと言っても限度がある。

 その制限に迷宮種以外でかかって無い生き物なんて……俺くらいなものかもしれない。

 随分と身勝手な立場に来てしまったもんだ。

 俺は何処へ行くんだろう。

 神獣の力という奴でさ……貰い物の力で強くなって何になる。

 精々この力は、みんなの為に使うのが良い人への近道だろう。

 俺はブルやフィリン、ムーイやエミールみたいな何かあった際に思わず体が動くような良い人になりたい。

 今でもわかる。いざって時に俺は保身で動けない。

 後悔しそうになってからわがままを押し通すだけなんだ。


「ムーイ、お前は俺が行く先に何処までも来るんだろ? この情報は何が何でも話しちゃダメだからな」


 元の異世界に戻った際に知られたらムーイの命に係わる。

 どこぞの邪悪な連中に知られてムーイが騙されて殺されたらと思うとシャレにならない。


「わかったぞー」

「オデは?」

「エミールは神様に会って平和に過ごす場所を作って貰うんだろ?」


 それがエミールの当初の夢だったじゃないか。

 もちろん神って奴にちゃんとエミールが平和に穏やかに過ごせるようにして貰うがな。

 少なくとも他の迷宮種に命が狙われるような所には居させないぞ。

 しっかりと寿命を全うする……オウセラやこの世界の人種の先祖となった迷宮種みたいになって貰いたい。


「……そう、なんだな」


 ん? なんかエミールが元気が無いような気がするけど気のせいか?

 ……フレーディンと願った夢だもんな。思い出を噛みしめているのだろう。


「ま、そんな将来の夢は大事だけど今は襲撃者に備えなきゃいけない。負けようものなら大変な被害が出るんだから」


 ヴァイリオがやられて神への道が強引に開きようものならすべてが消滅する的な物騒な状況なんだ。


「きゅ?」


 ラウは……何処まで俺たちについて来ようとするだろうか。

 どこかでリイやカトレアさん達の所で平和に生きていく道を託すことになると思っているんだけど……どうなることやら。

 もしかしたらムーイと相性の良い潔癖の力の源を手に入れて分身が世話をしていくとかになるのかも。

 最終手段は……ムーイに無理を承知で頼むって所かな。


「何はともあれここを乗り越えないと話にならない。脱線したが、オウセラの話だと俺はヴァイリオの記憶から敵を知るべきだと助言を受けている。戦いも近いみたいだし、多少は無茶しても治療を促進しよう」


 決戦の際に満足に治療できておらずに敗北なんてされたらシャレにならない。

 俺が疲れて戦力にならなかったとしてもヴァイリオやムーイ、エミールが戦えた方が良いだろう。

 最悪、俺はエネルギー供給だけでも役には立てる。

 少しくらい無茶したって良いさ。


「そうか……確かに概要だけではなく私の記憶から情報分析を行うのが良いだろう」


 だって神殿に記された文字の解析をヴァイリオの記憶経由で出来た。

 ならばその手を使うのが良いだろう。


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