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三百話


「チッ……もしかしなくても試練を乗り越えた奴全員が神によって新しく種族を作らされるって事じゃねえだろうな」

「それは俺も困るが……健人、俺とお前の場合は神獣の加護を受けてるって事で別じゃね?」


 俺は最後の神獣の因子、健人は第一神獣の因子持ち。

 そういえば狼男はこの世界に存在するようで、その始祖は神獣のようだから……そういう事なんだろう。

 試練を乗り越えたからって新たに種族を創造する意味は薄いだろう。


「そうだと良いけどよ」


 どっちなんだ? 俺の視線で見聞きしてんだろ?

 って尋ねるけど声は答えない。

 ネタバレ回避ってか?

 いずれ聞けばいいけどさ。


「ユキカズ」


 ムーイがなぜかここで挙手する。


「なんだ? ムーイ」

「ムーイは神様に会ってもムーイの種族はいらないぞ?」

「そうか」


 まあ、ムーイの場合は同種がいるのかよくわからないんだけどさ。種族を創造されてもそこに骨……ないけど力の源を埋めないって事を言いたいんだろう。

 何より分裂出来るし。


「ムーイは自分自身でユキカズと子供を作るから要らないんだぞ」

「……」


 愛の剛速球を投げつけてこないでいただきたい。

 顔は若干赤くしてるけどさ……これも惚気なのかなー。

 いずれね。そう……いずれね。

 まだそういったことは考えないようにしたいので。


「ははは! 将来が約束されていいじゃねえか神獣の申し子様よぉ。子供がいるってのは良いぜ?」


 健人、笑うな!

 お前の場合は各地で子供を作りすぎなんだ!


「願いは人それぞれだろうって事だよ。ムーイは違うって事だし、何か叶えたい願いがあるなら今のうちに考えておけばいいさ」


 生憎とあの神って奴が思い通りに願いを叶えてくれるのかって話ではあるけどさ。

 かなり捻くれてるのは間違いない。

 俺が会った際は「自我の喪失から助けてあげたでしょ? それ以上の何が要るのかい?」とか抜かしそうだ。


「……」


 エミールがラウやリイを静かに見つめている。

 自身の将来、平和な場所を得た後の気持ちって事を考えているのだろう。

 その願いは大事にしてくれよ?


「つまり纏めるとよ。アイツはオウルエンスの始祖でその玉を媒介にして蘇ることが出来るって事か」

「信仰を誓った神の最も寵愛する宝の力ってのが何なのかは分からないから断言はできないが、少なくとも俺たちの味方をしてくれる迷宮種って事になる」


 オウルエンスたちの始祖として子孫は玉を媒介に何か出来る。 


「つまりよ。オウセラを呼び出す場合、リイでも同じことが出来るのか?」

「どうだろうな」


 オウルエンスがカギならリイでも同じことが出来る可能性はある。

 ラウはまだ赤ん坊だ。いくらLvによる成長があるとしても赤ん坊を戦わせるのは健人も看過できないんだろう。

 この辺りはしっかりしてるよな。健人。

 これも親だからなのかもしれない。


「っきゅー! やだー!」


 ラウがオウセラの力の源である玉を抱えて拒否する。


「ボクもみんなのお手伝いするー!」

「気持ちはわかるけど無茶はしてほしくないんだよ」

「きゅー!」


 ラウが大声で駄々を捏ねる。


「ラウ、みんなラウが大事だから確認してるんだぞー?」


 抱きかかえているムーイがラウを宥める。


「うー……」

「ラウが気づいたお陰で、みんな大変なことにならずに済んだ。偉かったなー」

「きゅー……」


 ムーイにあやされたラウは俺と健人へと顔を向ける。


「甘やかされ続けるのが良くないっきゅ。ボクもみんなのために力になりたい。じゃないとダメになる気がするっきゅ」

「その気持ちわかるんだな……オデも守ってもらうだけじゃダメだと思って頑張りたいんだな。ユキカズの兄貴、ケントの兄貴……」


 エミールも同意かー……だからって歩けるようになってもラウはまだ赤ん坊な訳で、これを許すと兵士として兵役を受けて人々を守る立場が無くなってしまう。


「ま……偉大なるご先祖様が許可するってなら良いんじゃねえの? そのあたりの分別もつかねえ先祖様ってなら容赦はしねえけど」


 あ、健人が投げやがった。

 俺だけ悪者路線かよ。


「無茶は絶対にダメだからな? 本当に非常時か俺たちと一緒にいる時にしろよ?」


 少なくともオウセラは俺が呼び出した方が安定すると言っていた。

 ラウが呼び出し方を知っているとも。


「ラウ、オウセラは呼び方をお前は知っていると言ってたぞ」

「うん。ボクとムーイがいれば、この玉を触媒に呼び出せる」


 ラウとムーイが揃えば呼び出しが出来るねー。


「原理的には力の源をムーイが取り込んで動かしてるって感じなのかな?」


 そう思えば不思議ではないかもしれない。

 ムーイって姿を自由に変えられる特徴を持っているスライム系の迷宮種って感じだし。

 そこを歴戦の始祖迷宮種であるオウセラがムーイの意識を乗っ取って体を操作してるとかでさ。


「近いと思うぞ。でもあの時、ムーイもぼんやりしてた。次は意識できると思う。それとラウたちをより真似ることが出来るようになった気がする」


 ムーイの見た目を似せる変身の再現も精度が上がったって事ね。

 カギはオウセラの玉なのかムーイなのか……確かにムーイの能力の高さは破格だ。


「とはいえ実験は大事だ。場合によってはリイに任せる時もあるかもしれねえ」

「ラウ、少しの間だけ貸してください」


 リイがラウにオウセラの力の源……面倒なのでオウセラの玉を求めて手を差し出す。


「……きゅー」


 渋々ラウはリイへと玉を手渡した。


「見つけた時とは異なり何となく温かいものは感じますね。ですが……すぐに使える代物ではないようです。おそらくラウはまだ赤ん坊故に相性が良かったのではないかと」


 リイもいずれ使えるかもしれないけれどラウのようには使える気はしないって事ね。


「単純にムーイ本体とラウが力を合わせて呼び出せば強くはなりそうだな。ただ、ムーイの長所は近接の戦闘センスもあるから……状況次第か」


 ラウも戦力として入れることが出来るようにはなったのだけどあくまで選択肢が増えただけであんまり切ってよい代物ではないか。

 リイはラウに玉を返した。


「きゅー」

「……ムーイたちはラウの事が大切だから、あんまり無茶はしないでほしいと思うんだぞ。ユキカズみたいに無茶されるとムーイ、心配で困る」


 元気なラウをムーイはとてもやさしく抱えて撫でているのが印象的だった。

 なんていうか、ムーイはどんどん女の子っぽくなっていってる。


「何にしてもよ。これで襲撃はある程度対処できたけどよ。次の襲撃に備えておかねえとな」

「そうだな……正直、Lv上げとか出来ればいいけど相手はそう悠長に構えさせてくれないってのが辛い所だ」


 ゲームとかだったらどこかで経験値を稼いでボスに備えるとか出来る。だってストーリーを進めないと戦いは起こらないもんな。

 けど現実は何時敵が来るかわかったもんじゃない。

 まあ、ムーイやエミールが強いから対処は出来るけどさ。

 次の襲撃が後どれくらいで来るか一目でわかればいいのに索敵外から襲撃されるから厳しい。

 安易に街の人たちを偵察に出すわけにもいかない。


「ヴァイリオの索敵を潜り抜けてこられるのが厄介だ……この場合、偵察向けなのは俺なんだが」


 空を素早く移動できるし見ることで索敵範囲も広い、更にカーラルジュのステルス能力で安全に敵地から抜け出すことも出来る。

 偵察兵として十分な自身はあるぞ。


「私としてはユキカズ、君に出られるのは良くないと判断する」


 問題はヴァイリオの治療促進やオウセラからの助言もあってここを離れるのは推奨されていない所か。


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