三十話
「それはともかくー……宝箱の中身はなんだろうね」
一度発動した宝箱ならどうにかなる。
箱の隙間から中身を覗きこむ。
もちろんこんな強引な方法で開けたら中身が壊れている可能性は否定できない。
ポーションとか薬類だったら一発で壊れて使い物にならないだろう。
というか……電撃を誘電って、中身が帰還のオイルタイマーだったら壊れてるぞ。
……なんか弾けた部品みたいな物があるのは無視する。
若干冷や汗を流しつつ、拝見。
なんだ?
中に光が浮かんだ宝石っぽい何か?
「なんだろ? これ」
「マジックシードです」
「ブ」
「はい?」
「ですからそれがマジックシードです。見覚えがあります」
……へー、これがマジックシードですかー。
貴族でさえも欲しがる魔法が使用できるようになるレアアイテムの。
マジで?
なんとなく手が震えてしまう。
「なんで突然震えているんですか!?」
「だってマジックシードでしょ! レアアイテムで凄く大金になる魔法が使用できるようになる代物なんでしょ!」
この世界の人達が喉から手が出るほど欲する代物なんでしょ!
「ユキカズさんはどこの人間自治区に居たんですか! 人間以外の亜人や獣人なら魔法を生まれつき使える人もいますから、そこまで焦らないでください」
「そうらしいけど! 人間で魔法が使えるようになるっていうのがどれだけ凄いか分かってるの?」
「分かってます!」
フィリンは俺が慌てていると逆に冷静になるのか淡々と答える。
「レアアイテムではありますけど、疑似的な効果が出る代物は研究されているんですよ? 古い過去の時代では誰しもが魔法を使えたなんて話もありますし」
「なんで使えなくなっちゃったの?」
「ある時、魔法の法則が切り替わったとか言われたりもしますし、資質開花の鉱石が枯渇したんだとする話もあります。ターミナルでの習得に制限を設けられたなんて話もありますね」
真実は分かってないの?
伝承って時に妙な謎を残しますねー!
錬金術とかだと魔力無しで使えるんだったっけ?
「とりあえずどうしよう!」
「マジックシードに内包されている魔法にもよりますが、どちらにしても魔法資質が開花して魔法が使えるようになりますね」
「うん……じゃあ。この場でマジックシードをどう扱うのが良いのかな?」
「……」
「ブー?」
高額な代物なのは元より、手元に一個しか無いのが問題……って宝箱の中身はこれだけか?
再度宝箱の中身を確認。
「えーっとマジックシード以外に壊れたアクセサリーっぽい物、電撃で破損したのかな?」
とは言え不用意に装備して呪いとか掛っていたら嫌だな。
……なんとなくだけど大丈夫な気はする。
「後は……矢かな?」
なんか矢の先がキラキラしてる謎の矢が入った矢筒がある。それと謎の板の切れはし。ゴミかな? 板の切れ端は焦げてる。
罠の方は……発動と同時に自壊する仕組みだったのかな?
中身を全部出したら宝箱が突如消失した。
「なんだ?」
「箱が役目を終えると自壊する仕組みの物がダンジョンにはあるそうですよ」
「へー……ともかく、今は緊急事態なわけで、手に入れた物資でここをどうにか乗り越えなくてはね」
「そうですね」
「で……このマジックシードなんだが」
俺はブルとフィリンに見せるようにマジックシードを掲げる。
「ブルは魔法覚えたいか?」
「ブ? ブー」
首を横に振られる。
まあ、ブルの戦闘スタイルから考えて、今直ぐに魔法を覚えたいだなんてのは無いだろう。
オークという種族的な意味もあるだろうし。
オークメイジとかオークビショップとかいないのかな? とは思うけどさ。
「ユキカズさんが使うとは言わないんですね」
「こんな所で一人占めしても良い事ないだろうし、出世とか強くなりたい欲求を優先したら生き残れる可能性が減るでしょ」
こう……日本人的な発想なのかもしれないけど、自己主張して何もかも欲する考えというのに美徳を感じない。
何がここで一番正しい選択なのかに考えが向くのは、きっと間違いじゃない。
「これまでの戦いを参考にするに、フィリンが良いんじゃないかな?」
「私ですか?」
「そう、言っては失礼かもしれないと思っていたけど……」
「それは分かってます。私ができているのは採取と解析、魔物の知識提供くらいですものね」
フィリンはこの状況で自身の立場を理解していたのね。上からの目線というわけじゃないけど……確かに、ただいるだけであるのは確かなんだ。
「だからこそ、私はここで辞退をしたいと思います。何もしてないから、一個しかないマジックシードを受け取る事なんてできません」
俺はブルに視線を向ける。
正直に言えば、この中で一番戦闘に貢献しているのはブルだろう。
俺は……扱いで言えばよくわからないところだろうし。
ブルは俺が決めろとばかりに両手を上げてる。
それで良いのか?
「ブルは辞退するし、フィリンも辞退する。となると自然と俺になるわけだけどここに一つ落とし穴がある」
「なんですか?」
「さっきも提案した通り、俺はフィリンに使ってもらいたい」
「は?」
フィリンが唖然とした表情を浮かべる。
「ですが……」
「うん。戦闘に貢献できていないというのは確かだろうね。正直、敵が強すぎてブルクラスじゃないと近距離は無理、俺も手助けする程度だったし、申し訳無いけどフィリンを全く頼りにしなかったね」
だけど……この手には魔法が使えるマジックシードがある。
「俺は投擲スキルで援護ができる。同様にフィリンには魔法で援護を頼みたいんだ」
どんな魔法が使えるようになるのか分からないけど、無いよりはマシだ。
攻撃魔法なのか、援護魔法なのか、回復魔法なのか、それとも状態異常を付与するものなのかと色々とあるけどね。
どれが出たとしても、戦闘前に助言するくらいしかできていない状態を心苦しい思いをされるよりも良いと思う。
できれば自信を持って期待に応えてもらいたい。
「ですが……高い物なんですよ?」
「高くて結構! ダンジョンを出たらフィリンは新兵から出世して一躍希少な人間の魔法兵だ」
開き直ってやる。
「それならユキカズさんだって」
「俺には投擲があるし奥の手もある。次が出たら貰うけどね。それで良いんじゃないの? な、ブル?」
「ブ」
ブルも承知したとばかりに親指を立ててウィンクした。
キュートな反応だな。
「……わかりました。お二人の期待に応えられるように頑張りますし、生き残れたら、絶対に働いてお金を稼いでマジックシードの分の金銭を絶対に払います。いいですね? しっかりと後で取り立ててくださいよ」
妙に義理堅いなー。
と言うか……気が弱い割に頑固って……ライラ上級騎士も愚痴ってたな。
なんて思いつつ、俺はフィリンにマジックシードを渡す。
「わかったよ。期待してるからお願い」
フィリンはマジックシードを受け取り、額に当ててから卵を割るみたいにマジックシードを二つにして自身に掛ける……へぇそうやって使うんだ?
キラキラとマジックシードの中に入っていた光の泡みたいな物がフィリンに掛って解けていった。
「あ……どうやら、さっきの電撃の所為でマジックシードの中にあった魔法が電撃魔法に塗り替えられてしまっているみたいです」
「そっかー……とはいえ、魔法がこれで使えるようになったんだよね?」
「はい。意識をすればマジックシードに内包された魔法が使用できます」
「それは何より」
「後は……その、訓練校に来るまでに読んでた書物で簡単な回復魔法は暗記していたので使えると思います」
「おお」
まあ今の俺達って怪我と呼べるような負傷はしてないんだけどね。
だけど、回復ができると考えると心なしが気持ちが楽になるな。
安心感が凄い。





