二百九十八話
「随分と凄いな」
発動までにずいぶんと力を消費するし時間が掛ったけれど、こりゃあ凄い。
「フレーディンの兄貴にお願いされたからオデ、迷宮種と戦った時には使って動きを止めて操って力の源を取りやすくしたんだな」
サッとエミールの記憶が流れ込んでくる。
フレーディンに命じられてザヴィンをこの奥の手で倒す光景やその前の迷宮種を倒す姿だ。
「おー……この花粉、ムーイでも危ないぞ。戦う時に使われなくてよかったぞ」
「なんだな? この植物さんの近くで寝ちゃったら起きられなくなっちゃうんだな」
「そのカエルの能力はいばらの魔女だったか?」
「ああ、エミールはそんな能力だったな」
「眠りの森とでもいう気か? シャレにならねえ隠し玉持ってるじゃねえか」
「実はお前、弱いって割に強いだろ」
こんなヤバい奥の手を持ってるって時点で相当だ。
よくよく考えたら弱いって割に勝ち残ってきたのだから何かしらあるのは当然だ。
「エミール、ぶっちゃけフレーディンって力の源が集まるまでお前任せじゃないか? それ」
「フレーディンの兄貴が作戦を立ててくれたんだな。じゃなきゃオデは勝てなかったんだな」
エミールを盾にして、エミールに魔力を貯めさせてエミールの必殺技で昏倒させて力の源を頂く。
……ほぼエミールの手柄だろ。どっちが強いとか偉いとか言ったらエミールじゃないか嘆かわしい。
「んじゃさっさと情報を引き出しに――」
って迷宮種ブラムに寄生しようとエミールから分離した俺が近づいた直後。
「あが……そんな、なんでぃいぎぃいいいいいい――ッ!」
バキャ! っと読み通り頭の機械の部分から迷宮種ブラムの全身がはじけ飛ぶ。
戦闘継続困難と判断したんだろう。
「シャ、シャアアア――!?」
「は、はああ……な、あああああああ!? オオカ……ワンワンを、もっと……た、たべた――」
ファルレアはともかくルバラムは我に返ったように健人へと助けなのか欲求なのか手を伸ばしながらはじけ飛んだ。
「やべ! 蛇は体がでけーから凄い事になってんぞ!」
ぶくうう……っとファルレアの体が膨れ上がって弾けるので距離を取る。
シュウウ……と音を立てて機械に宿っていた力が一か所に集まり、虎のような何かとなって逃げようと試みる。
逃がすかよ!
第二神獣の力
やはりというか逃げる何かに突進すると俺の方に力が流れ込んで機械のパーツが零れ落ちる。
何にしても迷宮種たちを仕留める事は出来たようだ。
「徹底してやがるなーおい」
「力の源も……弾けたか」
「あ、ユキカズ。一部だけどあるぞー」
「なんだな。まだどうにかくっつけられると思うんだな」
何やら力の源らしき破片をムーイとエミールは各々拾って見せてくれる。
気配でわかるっぽく、あっさりと見つけてくる。
別れても同じ力の源は集まって一つの形となっていくようだ。
結構破損はしているのだけどね。無駄にはならないようで何より……なのか?
「どうにか仕留める事は出来たけど終わりじゃねえぞ。さっさと――」
「ん……?」
「なん、だな?」
早く町の煙が上がっている所へと戻ろうとした所で空高くへ虎のような何からしき光が飛んで逃げていく姿が見えた。
距離があって追いかけるのは無理そうだが……。
「どうなってんだ?」
「見た感じ、こいつらに引っ付いていた神獣の力が逃げてくときのだよな? アレ」
「なんか迷宮種に似た気配が新たにし始めたぞ」
「オデもそう感じるんだな。だけど、なんか……不思議な気配なんだな」
そんな気配が?
「何にしても行くほかねえな。ムーイの分身が仕留めたんじゃねえのか? それともムーイ、お前の体があのアリクイに乗っ取られたとかか?」
「それはたぶん違うと思うぞ。でもちょっと自信ない」
「何にしても行くぞ。悪いが先に向かって良いよな?」
「うん! ユキカズ、ムーイたちも急いで行くから先に行って」
「ああ」
という訳で俺は羽ばたいて急遽現場へと向かったのだった。
風を切り空を飛び、煙が上がっていた所……孤児院の庭へと急いで舞い降りる。
周囲を見渡すと……リイとカトレアさん達が臨戦態勢を崩して子供たちを守るように立って居た。
子供たちは怯えているけれどリイたちを始めとした女性陣達に守られていて……軽い怪我だけで済んでいるように見える。
ルセトさんやクコクコさんも居て……勢ぞろいで子供を守る姿は非常にまぶしい。
で、みんなから離れた所で……一匹の迷宮種らしき魔物がそこに立っていた。
戦う素振りも敵意も感じさせない。
一見すると大きなフクロウに見える魔物……か?
迷―種・―祖オウセラ
そんな名前が俺の視界に移される。
魔物名がうまく出ない……? 相当高位の迷宮種か!?
ただ、襲撃してくる迷宮種のような頭の半分が機械にはなっていない。
それにこいつ、見覚えがある気がする。
オウルエンスの神殿にあった石像によく似てる。
「無事か!?」
「ええ……突然の襲撃で交戦になりましたが幸い死者は出てません。危険な状況になりかけましたが……」
ムーイの分け身が駆けつけているはずなんだが……何処だ?
ラウも居ない。どこか安全な所に居ると願いたい。
「リイ、ラウは何処? ムーイも分身をこっちに向かわせたはずなんだが」
俺はオウセラの方を向いて構える。
「……説明は過去の残滓であるワシがすべきか、それともこの子にさせるべきか。ふむ……どうせ残り時間も少ない」
オウセラが臨戦態勢に入る俺に向けて敵意は無いとばかりに口を開いた。
リイやラウのようなオウルエンスと似ている迷宮種。見比べると違うのが分かるが一体何を説明する気か。
「有能な子孫リイよ。説明をワシがして良いな?」
「は、はぁ……」
子孫……俺の脳裏にいくつかの可能性が浮かんでくるがオウセラが何を話すのかを聞いてからでも良いだろう。
「さて、新たな神獣になるかもしれん可能性の獣トツカユキカズ、君はワシが何者か既に答えがあるとワシの能力が告げているがまずは状況説明をしよう。町の結界を能力ですり抜けた迷宮種は駆けつけたムーフリスの分体及びワシ……が倒したと認識してほしい」
確かに周囲には何かの肉片が転がっている。
金属片も転がっているので侵入した迷宮種は仕留められたという事で良いのだろう。
「能力……君が知るものであるなら侵入した迷宮種のスキルは、フレーディンの本来持っていた代物と同系統の結界の認識偽装からの侵入能力だ」
「よくわかるものだな」
そんな内情暴露をしているような説明をよく出来ると思う。
「ワシのメイン能力が森の賢者……様々な知識を即座に何処からともなく引き出せる力であるからかのう。引き出せる知識は力の源次第ではあるがの」
そんな能力を持っているのかこいつは。
「襲撃してきた迷宮種はイーレデルン、君の居た異世界で言う所のペンケミストル辺境に存在する迷宮と同じ名の迷宮の申し子が哀れにも利用された」
「!?」
あっちの異世界の事まで知ってる?
とんでもない博識な能力をしてるぞ。
「主食は……ああ、君も知っている子供食いでヴァイリオと孤児たちを狙った厄介者。何が何でも倒さねばならないから彼女たちは守るために立ちはだかり逃がそうとした」
オウセラは襲撃があった時の事を語った。
リイやみんなが迷宮種の襲撃に対して孤児院で震えて待機していると、突如孤児たちに向かって件の迷宮種が潜伏して避難民に偽装して攫おうとしてきた。





