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二百九十六話


「あ……ああ……うう……」


 で、食われたグフロエンスの人と胃袋らしき場所で合流、魔法で空間を広げてフィルター越しに空気が吸えるようにしつつ解毒と回復魔法を施す。


「あ、あなたは……」


 エミールの体で胃液が当たらないように覆いかぶさる。


「大丈夫、直ぐに助ける」

「うう……大丈夫なんだな? ユキカズの兄貴」

「もちろん。後は任せろ。お前の縄張りを奪った奴への仕返しだ」


 ズズっと俺の尻尾が迷宮種ファルレアの胃袋に突き刺さる。

 おうおう、神獣の力も循環しているようだが、悪食が過ぎたな。

 エミールの力の源を奪おうと体内に何やら管が伸びてきてるけどこっちも上手い事利用させて貰う。


「しゃあああ!」


 で、俺とエミールが迷宮種ファルレアに食われたのを見たムーイと健人はと言うと。

 ご機嫌そうな迷宮種ファルレアに向けて健人は心の底から呆れたとばかりの声を出した。


「あーあ……こっちの奴も食っちゃいけねえのを食っちまって追い詰められたけど、もっと性質が悪いもんを食っちまった」


 直後、う……と咽る迷宮種ファルレアがみるみる顔色を青くさせて行き、のたうち回り始める。


「しゃ、シャアアアアア!? シャアアアア!」

「さすがユキカズだぞー! ムーイもユキカズの真似出来た!」


 拳を握りしめるムーイの態度に健人が眉を寄せた。


「なんつーか……本人は拒んでるけど、実は効率よく戦えてるじゃねえか」

「ギギ――な、な――」


 で健人を狙っていたルバラムがのたうち回る迷宮種ファルレアの様子に絶句する事しかできずにいた。


 さてと……胃袋は突破できた。エミールの胃袋に比べたらずいぶんと強靭ではあったけど抜けられない程じゃなかった。

 で……胃袋の位置から力の源はどこに続いてるのかねーっともう一つ掴んでいた力の源を奪おうとする管から逆になぞる。

 頭か心臓に位置する所のどっちかと思ったら……迷宮種ファルレアの力の源は心臓の方にある。

 抵抗とばかりに神獣の力が流れ……てこないな。

 引きちぎろうとした直後――。

 ズバン! っと俺というかエミール目掛けてナンバースキルが迷宮種ファルレア目掛けて放たれて腹が切り裂かれる。


「うぐうう……」


 エミールの背中に一筋の切り傷が発生してしまった。


「大丈夫か!?」

「だ、大丈夫……なんだな」


 切り裂かれた腹から転がり落ちて周囲を確認すると迷宮種ルバラムが暴れるファルレアの腹にナンバースキルらしき攻撃で切り裂いたようだ。

 く……触手を引っ付けて転げ落ちないように……と思ったのだけどそんな事をしていたら追撃されかねないので急いで離脱して傷に触手を当てる。


「シャ……シャアア……」

「うぐ……」


 エミールが抱えたグフロエンスを抱きしめたままむくりと立ち上がってバックステップで距離を取らせる。

 傷の治療は……危なかった。

 力の源は外していたけれど背中がばっさりと切り裂かれていて出血している。

 触手で無理やり接合して回復魔法でつなぎ合わせる。

 神経や骨もどうにか繋げたけれど俺の魔力がごっそり減ってしまった。


「くっそ!」

「阻止するのが遅れたぞ」


 んでどうやら健人とムーイが狙いをそらしてくれたおかげで致命傷は避けることが出来たようだ。

 よろよろと迷宮種ファルレアが鎌首を上げる。

 気色悪い逆再生を見るかのようにファルレアの傷が塞がって行き脱皮した。

 便利な自己再生能力を持っているもんだ。

 内部から力の源をむしり取られた挙句操られるのは無いし、頭を吹っ飛ばされるのを阻止されたのだからファルレアからしたら儲けものか。

 腹を切り裂かれてるんだから相当重傷だけどな。


「なんて厄介な攻撃をしてきやがる奴らだ――ギギ」


 そうそう、うまく行かないもんか。

 ファルレア単体だったら行けたんだが、そう悠長にさせて貰えないもんだ。


「大丈夫……なんだな」

「外……たす……かったの……でしょうか?」

「そうだ。すぐにあいつらを倒すから安心してくれ」

「は……い」


 ぐったりとしているグフロエンスの人をエミールは心配そうに抱きしめてから寝かせて植物を呼び出して運ばせる。


「ユキカズの兄貴、ちょっと失敗しちゃったけど上手く助けられたんだな。ありがとうなんだな」

「悪いな。もっと早く乗っ取ることが出来ればこんな怪我をさせずに済んだんだけど」

「十分なんだな」

「エミール大丈夫かー?」

「バッサリとヤベーくらい切られてたけど……上手くつながってるみたいだな」

「そうだな。絶対に跡なんて残さないくらい治さないと!」


 エミールがここまで傷つけてしまったのは俺の能力の低さの所為だ。

 ムーイみたいに簡単に引っ付くように出来ちゃいないんだから安易に怪我なんてさせられない。


「こんなのへっちゃらなんだな! ユキカズの兄貴、気にしちゃダメなんだな」


 だが……と思うのだけどエミールが戦いに集中してほしいと思っているようなので意識を切り替えるしかない。


「何にしてもさっさと……」


 という所で町の方で煙が上がった。

 何!? まだほかに敵が潜んでたのかよ!

 あの煙が上がってる所は――。


「やっべ!」

「させるか、お前を逃がすはずないだろう……ジュル……ギギ」

「弱虫ムーフリスの分、際で……くそ、ギ――」

「シャアアア……」


 健人が駆けだそうとしたのを遮るように迷宮種ルバラム、ブラム、ファルレアが立ちはだかる。

 絶対に行かせないってか?

 危ないな……そのままヴァイリオの所にまで到達したらどうなるか分かったもんじゃない。


「行くぞー!」


 ブン! っとムーイが体の一部を丸めて投げつける。

 それは見事な暴投で明後日の方向に飛んで行ってしまう。


「ははは! 全く見当違いの所に飛んで行ってるぞ。ギギ――」

「と? 思っただろー?」


 ニュッと投げた体の一部が膨れ上がってムーイの形になって走って行った。

 え……? アレって……。


「みんなを守るんだぞー!」

「みんな待ってろー! ムーイが助けるぞー!」


 と、そのまま走っていくもう一人のムーイだけど力の源無しで行けるのか?

 そう思ったけど問題なく向かって行ってしまう。


「本当はムーイもあんな奴の力の源を使うの嫌だけど町にムーイみたいなのいなかったからきっと大丈夫だと思う」

「あれは――」


 で、今度は迷宮種ブラムがもう一人のムーイを追いかけようとしてムーイに攻撃されて遮られる。


「この野郎!」

「ムーイは女だぞ! 野郎じゃない」

「アレは私のだぁああああ!」


 ああ、奪った迷宮種ブラムの力の源を使って分身の生命活動を維持して向かわせたのか……って凄いなムーイ。

 そんな芸当を手段を選ばなければ出来るのか。

 単純に凄い。

 とは思いつつ、ササっと襲撃者どもを仕留めなければいけない。

 ただ、ちょっと倒すのに時間が掛りそうだ。

 何か手立てはないもんか。

 寄生は阻止される。

 ナンバースキルを乱発してくる迷宮種共だ。

 まだこいつらがどんな能力を所持しているのかすらわかってないので対処を誤ると被害が拡大しかねない。

 辛うじて避難民たちは逃げおおせているけれど町の中に紛れ込んだ奴もどうにかしないといけない。


「くそ……地味に厄介じゃねえか。しっかりと連携して一匹ずつ確実に仕留めるか?」


 健人の提案が無難か、まずはムーイが実質致命傷を与えた迷宮種ブラムから行くのが良いだろう。

 そこは分かっているのか健人もムーイも迷宮種ブラムの方に意識を向けている。

 次はルバラム、ファルレアってのが無難か。

 問題はブラムが何やらムーイの事を知ってそうな口ぶりって所が気になるので生け捕りにして何か吐かせたい所ではあったんだけどさ。

 みんなの命が大事でムーイは自身の謎と天秤をかけたら、前者に傾いているのだろう。

 ま、仕留めた後に破裂しそうではあるし阻止出来たらわかるかもしれない。


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