二百九十五話
「なん、だな!」
エミールが力を手に込めて植物を生やすと、音波が分散されて轟音程度に収まった。
が、バキバキっと今度は迷宮種ファルレアが植物を薙ぎ払って地面に潜る。
よくよく確認すると周囲に穴が無数にある。
地中を潜る能力を持っていて接近してきたって事……か?
ってそれより迷宮種ファルレアの狙いはどうやらエミールのようだ。
グフロエンスを食っていた所から見てカエル辺りが主食の迷宮種なのだろう。
エミールは初遭遇でよく逃げ切れたもんだ。
「おっと! ふんぬ!」
魔力が若干心許ないけれどエミールを狙って地中から飛び出す迷宮種ファルレアからブリンクで触って瞬間移動した。
ムーイの半身とも寄生維持してるので魔力がごっそり減ってしまった。
「シャ!?」
狙いが逸れた迷宮種ファルレアが周囲をキョロキョロと見渡してエミールを見つける。
「ユキカズの兄貴、ありがとうなんだな」
「ささっと仕留めたい所だが……」
「シャアアアア!」
バチっと迷宮種ファルレアと俺の目が交差して火花が散る。
ああ、間違いなく魔眼のスキル持ちだな。
蛇系も魔眼は持っているのが居るとは座学で聞いたことあるけど迷宮種ファルレアも所持しているようだ。
しかもブシューっと口から毒液まで吐いてきた。
幸いにして俺もエミールも毒使いなので耐性も所持している。
受けても効果は薄いがむざむざ受けてやる義理は無い。
「うう……あ、あの時みたいに、逃げちゃ……ダメなんだな!」
カエルが蛇におびえるってのはイメージ通りなのかな?
大型のカエルだと蛇を食べるとか聞くけど、エミールは前に敗走した記憶から恐怖があってそれでも逃げないとばかりに鼓舞している。
うん……ここでは逃げられないと思えるエミールは立派だ。
「シャアアアア!」
神獣の気配を迷宮種ファルレアから発せられる……で、眼光が鋭く光った。
魔眼系の何かを神獣の力で放っているのは分かるんだけど生憎と……何の神獣の力で使っているのかは知らないが俺を選んだ神獣じゃないようだ。
俺が開いた魔眼で弾く事は出来た。
神獣の力が少なめ……って事で良いのか?
ヴァイリオに寄生した際に移った魔力とかがまだ俺に残ってるのかもしれない。
ブースト状態って感じかな? 精神的な疲れはあるのに体と魔力が漲っているという複雑な感覚がある。
「はあああ!」
で、逆にこっちが攻撃しようとムーイの怪力で迷宮種ファルレアに剣で叩きつけるのだけど鱗から神獣の力を感じて弾かれる。
防御に神獣の力を割り振ってるタフにしてるって事か。
いや……なんだ?
「――」
地面に潜って飛び出すタイミングに合わせて切り付けたらよくわからないものが一瞬飛び出して来た。
「なんだ? 皮……!?」
そう、抜け殻と表現すべき迷宮種ファルレアそっくりの皮が穴から飛び出してきたのだ。
「く……」
どうやって仕留めるものか。
「シャアアア!」
ムーイの半身に意識伝達をして装甲を弱体化させようと施しつつ殴りつけるけれどガツッと鱗を削るだけで止まってしまいしかも即座に再生……というか脱皮してデコイにして地中攻撃をしてくる。
しかもアースクエイクまで放って地面が揺れる。
「おっと」
「随分と派手に暴れるじゃねえか」
ムーイや健人の方まで被害が出てるぞ。
「なんだなー!」
ただエミールが植物を生やせるお陰か振動は軽減している。
助かるけれど決定打が足りない。
頑張れば勝てるとは思えるけれど、悠長に戦っていたら迷宮種ファルレアに食われた人を助けられない。
……ここでもう一つの手だても思い浮かぶ。
エミールが迷宮種ファルレアにとって獲物と認識されるのならエミールを中間宿主として俺が寄生してファルレアに食われたらどうなるのかね。
前にムーイに寄生してた頃にもやった手だてではある。
「エミール」
「なんだな?」
「あいつに食われたグフロエンスの人の救出を優先したいだろ?」
「もちろんなんだな。どうやったらうまく吐き出させられるんだな?」
「そりゃあ、俺とエミール、お前が頑張れば余裕で行けるぞ。悪食には報いを受けさせようぜ?」
「な、なんだな……今はユキカズの兄貴に任せるのが一番なんだな。オデは何をするんだな?」
俺が何を企んだのかエミールは悟ったようだ。
「ちょっと体を貸してくれ」
「わかったんだな!」
そんな訳でムーイの半身との寄生を一時解除して虫関連のパーツ変化をしてエミールの前へ飛び出し、即座にエミールへと寄生する。
で、寄生した際にエミールの体から俺の尻尾が出てきてそこにムーイの半身が絡みつく。
「よっし、寄生完了っと」
神迷コアが継続して発動し続けている中でエミールの体にエネルギーが循環し始める。
枯渇気味だったエミールのエネルギーが補充されたようだ。
って判断してると……。
「グフ……な……バカ……な。お前は――ムーフリスの……はず、なのに……どうして……」
少し目を離した間に迷宮種ブラムが吐血していた。
一体どうしたのだろうと思ったら胸を内側から食い破られて何か……じゃないな。ムーイの体の一部がグネグネ動きながら飛び出してきた。
「ムーイの体の一部なんて食べたらこうなるぞー」
何をしたかわかった……食われたムーイの体の一部が胃袋を物質変化させて食い破り迷宮種ブラムの力の源にくっついてそのまま食い破って出てきたんだろう。
「か、返せ! そ、それは俺のだ! くっそおおおおお!」
うーわー……なんていうか敵が愚かすぎる。
どうもムーイを食べてみたいというか好物って事からしてスライム辺りが主食なんだろうと推測できるけど悪食過ぎたなぁ。
っと神獣の力だけで取り返そうとムーイへ攻撃の応酬をしている。
「なんでムーイの事を知ってるような事を言ったんだー?」
「お前は――お前は――ムーフリスじゃ、ないのか? なんで、はぁあああああ!」
両者共に疑問をぶつけていて答えられないって状態になっているようだ。
「うお! ムーイはずいぶんと余裕そうじゃねえか、ちょっとこっちも手伝ってくれねえ? 雪一はカエルと組んでるみてえだし」
「わかったぞ。ユキカズの方に行きたかったけどケントの手伝いもするーとお!」
健人を守るようにムーイが両者の攻防に入り込んで地面に剣を叩きつける。
怪力のムーイが放ったそれだけで地割れが起こる。
もはやスキルに該当するほどの一撃にまでなってるなぁ。
なんか……ムーイも日に日に強くなって来てる気がする。
「グギ! 私の食事の邪魔をするな! 何やってんだ」
「あいつ、ムーフリス……の割に、変だギギ……」
健人を頂こうとして邪魔されて不機嫌な迷宮種ルバラムが迷宮種ブラムに不満をぶつけていた。
「だからお前誰だー?」
教えろとムーイが何度も聞いてるけどあいつ等答えないもんな。
「ユキカズー! あいつ等がなんでムーイを知ってるかわかるように出来るー?」
寄生して頭いじくって吐かせるって事は出来るかもしれないが……こいつらの頭についてるパーツ的に厳しいんじゃないか?
何にしても実験は必要だとは思う。
しかしまー……どっちが悪かわかったもんじゃない。
「ああ、ちょーっと待ってな。んじゃエミール、準備は良いか?」
「や、やるんだな。何が来てもオデ、覚悟は出来てるんだな」
「シャアアアアア!」
ドバァ! って感じに地面から口を開けて飛び掛かってくる迷宮種ファルレアの攻撃を体を出来る限り丸くしてすんなり収まってやる。
「アング……グ……グ……」
ま、迷宮種ファルレアからしたら獲物が上手い事口に収まってしてやったりって感じだろう。
力の源が相当詰まった宝箱みたいなエミールはさぞ食指に入っていたら絶品であると想像するのに容易い。
ごくり……っと、虫に変化した俺を前にしたエミールみたいに一気に飲み下してしまったようだ。
ぎゅるる……っとまあ、そこそこ大きいエミールをよく飲み下せるもんだ。
ヘビ系の食道は伸びるね。





