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二百九十四話

「わあああああ!?」


 避難民達が襲撃してきた奴等から一目散に逃げて行く。

 中には避難している人達を守ろうと立ち向かおうとしている人も居る。


「はああああーーガハ」


 が、敵の攻撃を受けて無残に吹き飛ばされているのが見えた。

 く……もっと急いで駆けつけれれば。

 ブルだったら襲撃を感知する前に現地に来て居るかも知れない。

 もっと鋭敏に、こんな事が起こる前に駆けつけられるようになりたい。

 急いで吹き飛ばされた人を受け止めて、できる限りの手当を行う。


「大丈夫か!」

「し、神獣の申し子様……うう、申し訳、ありま……」

「しゃべらなくて良い。死なないでくれる方が俺としては嬉しい」


 致命傷に至る深い傷を寄生の応用で生命力を与えつつ応急手当をして動ける人へと重傷者を預けて向かう。

 駆けつけると複数の死体……死体を貪る敵が居る。


「く……この野郎」


 避難民を狙って攻撃されると殺意が沸いてくる。

 これは兵役経験と戦闘力の無い人々を襲われた正義感から来てるのだろうか。

 健人、ムーイ、エミールが追いついてきた。


「何してんだよ! オラァ!」

「あいつ等を倒すんだぞ!」

「なんだな!」


 各々の先制攻撃が放たれるが敵は大きく後方に飛んで避ける。


「おおおお……こりゃあ最高の獲物が来てくれたぞぉおお。アイツは私のもんな?」


 ジュル……っと何やら敵のリーダーらしき奴が涎を拭っている。

 外見は大きなトカゲみたいな奴で後頭部に鉄板が埋め込まれていて……健人を凝視しているな。

 背中に何か砲台みたいな器官が生えていて……そこから何か放出しそう。

 ボリボリと食べていた肉を吐き捨ててから言ったが、その肉……どう見ても犬っぽい生き物の後ろ足のようだった。

 周囲の犠牲者の死体を見ると狼男っぽい人種が数名居る。


「絶対逃さない。私が美味しく食べてあげる。こんなに良い獲物は初めて……ああ、涎が止まらない。少しずつ、少しずつ食べたい」

「なんだコイツ……」


 ぞわっと健人が体毛を逆立たせて居るようだ。

 迷宮種・ルバラムと名前が表示される。


「こりゃあアレだ。健人、お前をご指名のようだぜ。あちらの迷惑なお客様、迷宮種・ルバラムって奴はな」

「おや? 私の名前をご存じとは、頂けるのか?」

「どうぞどうぞ、少々手癖の悪い奴で掘られないように注意して頂いてくれると嬉しい次第です」

「雪一、てめえなんて紹介しやがる!」


 うるさい、皮肉で返してんだよ。女遊びの酷い狼男には良い冗談だろ。


「あいつ、ケントが好物なんだと思うぞーユキカズが寄生しようとしてる時のエミールみたい」

「きっとなんだな」

「うへ……出来れば遠慮願いてえぜ。雪一、お前が相手しろよ」


 って話をしているとトカゲの後方にいたアリクイみたいな迷宮種と大型魔物に該当する大蛇のような迷宮種が視界に入る。


「う、うわあああ!?」


 アリクイみたいな迷宮種の攻撃から身を守ろうと丸くなった避難民を守るようにムーイが前に出て攻撃を受け止める……いや、アリクイの口がムーイの腕に突き刺さった。

 ズチュウウ……っと音が響き渡り、ムーイが受け止めた手とは反対の手で剣を握りしめて振りかぶると避けられてしまった。

「お? ジュル……大きな気配と食指が反応すると思ったら、ジュル……その気配、匂いからするとムーフリスじゃないか。んん……うめええ……」


 迷宮種たちはそれぞれ迷宮種ブラムと迷宮種ファルレアという名前のようで……迷宮種ブラムがムーフリスを見て涎を垂らしつつムーイを知っているような口ぶりで話しかけてきた。

 言語はレラリアの公用語?


「……誰だお前ー?」


 逆にムーイは迷宮種ブラムの事を知らないとばかりの返事。

 一応根掘り葉掘り聞いてきたのでムーイには日本語とレラリア国の言葉とこっちの世界の人たちの言語を習得している。


「なんだ? 弱虫ムーフリスだろ? ギギ――美味そうだって思ってたのに食えなかったけど、権力者を騙してからのあいつらの世界の蹂躙任務はどうしたんだってのー? この力を献上する任務を終えたのは聞いたけど、ギギ――まさかノコノコとこんな所に逃げ込んでこっちの邪魔でもしようってのか?」


 ギャハハハ!


「こりゃあちょうどいい! お前の事を食いたかったから頂いたぜ。なんかずいぶんと力を得て美味くなったじゃねえか」

「だからお前誰だー?」


 ムッとムーイが心の底から知らないって態度だけど……なんだ?

 妙に不吉なセリフだな。

 ちなみにムーイの吸われた部分は即座に再生していて何事もないようだ。


「それともまーた潜入任務中ってか? お偉いさんは騙せたのか?」

「何の事を言ってるのか本気でわからないぞ? ムーイの事、誰かと間違えてないか?」

「んな訳ねえだろ。デカいけどその気配、絶対ムーフリスだろ。とぼけるなよ」

「で、ムーイ。あいつ等、お前の事を知ってる様子だけど?」

「ユキカズ、ムーイ、本当に知らない奴らだぞ」


 うーん……ムーイは心当たりが本当に無いっぽいなぁ。

 まさかここで何かムーイの謎とか何かがあるのだろうか?


「まあいいや、おい。よくわからねえけどムーフリスは俺が頂くぜ、良いよな」

「しゃああ!」

「うぐ……た、たすけ――」


 んで迷宮種ファルレアという……頭の右側面と尻尾が機械化している大蛇のような迷宮種が噛みついていたグフロエンスの人を生きたまま飲み込んでしまった。


「シャアアア! シャ!」


 ファルレアはエミールの方を凝視している。

 涎を滅茶苦茶垂らしてんな。


「あ、あいつは……な、なんだな」


 エミールの方はファルレアを見て怯えている。


「あいつなんだな……オデか平和に過ごしてた縄張りにオデを狙って襲ってきた。頭に変なのついてなかったけど、間違いないんだな!」


 おお……エミールの方は過去に因縁がある迷宮種だったのか。


「何にしてもなんでこんな真似をしている!」


 俺の問いに各々涎を垂らした迷宮種共はファルレア以外がニヤニヤと笑う声音で答える。


「何って美味そうだからに決まってるだろ……それと――ギギ、聖獣の追撃を命じられている」

「ギギ――」


 うーむ……どうにも引っかかる所はあるけれど返事がまずアウト。

 災害認定の迷宮種って事で良いのかね。


「ユキカズの兄貴、まだ食べられちゃった人は生きてると思うんだな! オデ……あいつに手も足も出ないけど、助けたいんだな!」


 エミールがファルレアの腹を指さして答える。

 同意ではあるが……。


「まずはあいつを吐き出させるぞ」

「おっと、やらせると思ったか? はああ!」


 ブウン! っと迷宮種ブラムが爪を振りかぶるとエネルギー状の剣が形成されてフルムーンブレイクのような軌道がムーイに向けて描かれる。

 ズバァ! っとムーイは避けずに受けて切断されるが力の源は避けている形で切られた直後にくっつき直して懐に入り込んで剣で殴りつけた。


「く……ユキカズ、エミール。ムーイはこいつを仕留めるからお願いするんだぞ」

「ああああ……いただきまぁあああ!」


 って迷宮種ルバラムも会話なんてするつもりはないとばかりに健人に襲い掛かった。


「モテモテだな健人よー」

「うっせー! 俺は追う恋派なんだよ! 追われるのは雪一だけで十分だ」


 絶好の獲物って事らしいからなぁ。

 あと追われるって所で何故俺の名前を出した!?

 そんな訳で一番体躯がデカい迷宮種ファルレアは俺とエミールが相手をすることになるのか。

 出来る限りさっさと食われた人を助けたい所ではあるけれど、どうしたもんかね。

 口から入って寄生して頭を潰すとか出来たら楽ではあるけれど……丁度腹の中にいる人たちを守れるし。


「シャアアアアア!」


 ニュッルウウウウン! っと素早く張って迷宮種ファルレアがソニックソングという音波攻撃のナンバースキルをぶっ放して近寄ってくる。

 うぐ……こりゃあ頭がシェイクされそうなくらいの攻撃だ。


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