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二百九十三話


「体調を見ると後でエネルギー補給をしないといけないな。準備はしておいてくれよ」

「何の準備なんだな!? いや、意味が分かったんだな! ユキカズの兄貴こそ休まないとダメなんだな!」


 最近太り気味だって言っていたけれど無茶をして良い理由にはならないぞ。


「フフ……」


 だからヴァイリオは何を笑ってるんだよ。

 お前だってどうなんだよ?


「で、神獣の申し子様と一緒に居るエミールって人は何なの? 聞かれちゃってるのよー」


 教えて頂戴なって気さくな感じでクコクコさんが聞いてくる。

 健人がヒソヒソとクコクコさんに説明しているようだった。


「へー……見た目や性格に寄らないのねー噂話や被害の話は時々聞くけど。これが災害と広まっているとはねーケントが前に話してた事実は小説より奇なりって奴?」

「な、なんだな」


 エミールは迷宮種だから、グフロエンスとは一応別種所か枠としては魔物枠だ。

 まあ……魔物と人間の線引きが実に分かり辛いかもしれないんだけどさ。

 ブルとか場所によっては魔物扱いになっていたし。

 ……迷宮種は魔物とも異なるようだけどね。

 どちらかと言えば魔物は俺か……人種には該当しないもん。

 線引きがかなり分かり辛いなー……こっちの世界じゃ獣人とか多いし。


「じゃあ卒無い感じに説明しておくわ。事態が事態だから余計な混乱は避けるべきよね」

「オデ、そんな強くなかったんだな。平和に過ごすのが目的なんだな」

「ん? 強くなかったって過去形?」

「ユキカズの兄貴のお陰でオデ、前より強くなってるんだな」


 ああ、確かにデリルインの力の源を与えてるもんな。

 出会った頃よりは強くなったって意味なら間違いはない。


「そうだぞーエミール、前より強くなってるぞ。ユキカズ無しでも前より強いぞ」


 ムーイの太鼓判がついてるって事は相当なんだな。


「お菓子食べるのは幸せだけどムーイもユキカズに寄生して貰うだけで強くなるようになりたい。羨ましいぞ」

「ご、ごめんなさいなんだな」


 謝るエミールにムーイは気にするなとばかりにため息をしつつ手を振る。

 仲が悪くはないってのは本当みたいでよかったなー。


「強くなったって言ってもまだまだなんだぞ。出会った頃より強くなったってだけなんだぞ」

「わかってるんだな」


 何にしてもエミールも強くはなってるようで何よりだ。


「ムーイも出会った頃より強くなってるのはユキカズも知ってる」


 ああ、スイートグロウでお菓子を食べるたびに徐々に強くなっていくんだった。

 けどその割合ってどんなものなんだろう?

 カーラルジュを倒すためにサバイバルをしていた頃は毎日どうにか生き延びてムーイの強化って意識をしてたから多少は分かっていたけど、全体を通してどの程度強くなっているんだろう?

 元が強くて戦う相手に苦戦をほとんどしないムーイだから本当、わからない。


「こういう時に力があるってのは良い事だ。何もできずにいる事の方が辛いものだ……」


 守りたい相手が居る時に自身の弱さで敵わないってのは辛い。

 本当……骨身に染みる。

 その手の後悔が俺にはかなり付き纏う。

 良い人の力に成りたい。


「ユキカズの兄貴たちのお陰で、オデ……強くなったからこうして手助けが出来てよかったんだな。ユキカズの兄貴と出会った頃のオデだったら今頃疲れて植物さんを呼べなくなっていたんだな」


 魔力切れになっていて何もできなくなっていたと、そりゃあ辛いだろうな。

 それくらいけが人が多い。


「だから気にしなくて良いんだな。オデも後で休むから良いんだな」

「念押ししてくるなー」


 謙虚なのがエミールの良い所だとは思うけれど、今後の事を考えたら力も持ってほしい。


「俺の元気がヴァイリオの所為であふれてるからエミールに渡せるなら渡したい所ではあるんだけどなー。出来ないのが歯がゆいな」


 ちなみにムーイには分身の方に供給出来ないか実験はした。

 規格の違いで効果が無いっぽい。


「しっかりと休んでくれよ」

「その言葉……ユキカズの兄貴にお願いしたいんだな。ムーイの姉貴やみんなが心配してたんだな」


 おや、言い返されてしまった。


「クソ真面目に寝てない自慢に近い事するんじゃねえよ」

「そんな無駄な事はしてないけど……」


 しょうがないだろ。所得スキルの所為で短い休憩で済むようになったんだし。

 ムーイはしっかりと寝ないと駄目なタイプなので寝ている間に色々と俺もやってたなー……思えば。

 睡眠は大事なのはわかってる。


「エミールはフレーディンと会うまで何してたっきゅ? ムーイも教えてくれたっきゅ」


 ラウが好奇心から聞いている。

 ちょっと俺も気になる。

 寄生して記憶とかを覗くとか洗脳に近い感覚で閲覧も出来そうだとは思うけどさすがにそう言ったのは使いたくないので本人の口から聞きたい。

 ムーイはどうやら物心ついた頃にはダンジョンというかフィールドを彷徨って着の身着のまま野生の魔物と同じように生きていたそうだ。

 俺と出会ってから色々と学んだって話だったっけ。

 エミールも同じようなもんなのかな?


「オデ? オデは縄張りにしてた池で生きてたんだな。何か他の魔物さんとオデ違うような気がしてたけど過ごしてて、ある日、他の迷宮種に襲われて命からがら逃げてどうにか助かったんだな」


 ああ、そうだったのか。


「縄張りのみんな……たぶん居ないんだな」


 ……迷宮種故の経験なのかな?

 もともと弱い迷宮種だから他の迷宮種に襲われても返り討ちに出来ない。逃げるのがやっとだったんだろう。

 ムーイは逆に強くてまともに襲われる事は無かったらしいもんな。

 で、エミールの場合はそのあとフレーディンと出会って今に至ると。

 ……いずれエミールも願いが叶う時が来るようにしたい。

 争いを好まない平和主義だからこそね。

 自発的にみんなの治療を手伝ってくれるエミールのその考えは尊いと思うんだ。

 ストレスが溜まってるなら解消させたい。


「何にしても今の俺がエミールが引っ付いているとグフロエンスに声を掛けられるって事なんだな」

「そうそう。見た目が似てる分、違和感が無くはないけど効果抜群、老若男女問わず魅了できちゃうわよ?」

「なんだな……」


 と、話をしていると……ピクっとムーイとエミールが目の色を変えてそれぞれ急いで顔を向ける。

 それはヴァイリオも同様なようで耳が軽く跳ねる。

 同時に町の外から轟音が響いた。


「何かが気配がするぞ。いきなり感じる様になった」

「め、迷宮種なんだな」

「追手が来たようだ。複数ある……感知を抜けて襲撃だ。すまない」


 まだ万全とは程遠いというのに……件の敵の手に落ちた聖獣との戦いがあるのか。

 あの万能感のある感知範囲を抜けて来るとか……どんな異能力だ?

 いや、俺もヴァイリオの感知を切り抜けられるかもしれない能力を持ってる。

 それに等しい能力やナンバースキルがあれば不可能じゃない。


「幸い結界のお陰で町の中への被害は無いようだけど」


 俺が追加で結界強化していたお陰かまだ結界は破られて居ない。

 けれど厄介だな。

 後悔しないように生きたいけれど悔やんでいてもしょうがない。

 今はできる限り、守っていかねばならない。


「聖獣は? 確かローティガだったか」

「来ていない。どうやら……私がそのまま果てると読んで動きが遅れているのだろう。神様への道の方へと意識を向けていたようだ」

「追っ手の第二弾って所のようだな。さっさと仕留めねえとな」

「どれだけ襲撃が来るのか分からないけど、こんだけ被害を出す奴は早々に仕留めないと」

「あっちにはグフロエンスの人達が集まってた所よ」


 クコクコさんの説明に嫌な汗が流れる。


「早くいくぞ!」

「ああ、さっさと行かねえとな。みんなは避難しててくれよ。こういうのはまずは俺達に任せろってんだ。クコクコ、お前もだぞ。ルセトみてえに戦場に来られるとマジで肝が冷えて集中できねえ」


 ああ、確かにカトレアさんやレルフィさん、ルセトさんは下手をすると前に出てくる。

 ささっと俺達が行かないとね。



「雪一、疲れたとか抜かすなよ」

「そうも言ってられないだろ」


 夜勤明けだから任せるなんて出来るかボケ。


「ムーイも行く、今度こそ戦うぞー」

「オデも手伝うんだな」

「無茶はするなよ。ムーイもエミールも魔力減ってるだろ」

「大丈夫、絶対に倒すぞー」

「頑張るんだな!」


 よし、行くしかない。

 って事で俺達は襲撃者の元へと急行したのだった。



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