二百八十九話
翌日……。
「ふわぁああ……」
健人やムーイ、みんなが寝ぼけ眼で広場にやってくる。
なんかエミールは周囲を警戒しながら来るぞ。
見張りは継続して続いているが敵は気配把握範囲内には居ない。
「聖獣、経過はどうだ? 雪一は頑張ってるのか?」
「想像以上にトツカユキカズは私の力となってくれている。大分体も回復に向かっている」
「俺に聞かずにヴァイリオに聞くのはどうなんだよ」
健人の質問に各々返す。
とりあえず大きな傷は大分塞がってはいるのだけど下手に動くと開きかねないくらいの治療具合だ。
元々酷すぎる瀕死な状況だったので一晩ではまだ戦える状態では無い。
穴の開いた桶で水を掬うような状態だからな。
座とやらに本来戻らねばならないほどの重傷をどうにか持ち直してコレって所だ。
「大分安定はしてきたけれど下手に動くと危ないって所だ。もう少し休まないと自壊するぞ」
「そりゃあきつい事で」
「ユキカズが頑張ってコレって凄い怪我だったみたいだぞ」
ムーイは俺が寄生して居る部分から夜間の作業を確認して理解したようだ。
「薬の効きが大分良くなってきたんだな」
「まあ……俺が居なくても回復は出来るようにはなったとは思う」
いい加減、ヴァイリオへの寄生は解除したい。
なんて言うのか……暴走寸前のエネルギー炉を焼かれながら必死に修理してどうにか維持してるって感覚なんだ。
船とかに例えると船体がボコボコだけどエンジンは辛うじて稼働してる、ただエンジンの出力が安定せず高出力は船が耐えきれずに崩壊寸前だったみたいな。
どうにか小型エンジンの俺が補助してエンジンの修理も進み、出力に耐えれるくらいには修復したけど、下手に動かしたらまだ壊れる次元。
持ち場を離れても良いくらいにはなったけどさ。
「治るまでいる訳じゃねえのか」
「寄生してれば何でも良いって訳じゃ無い」
「む……離れるのか」
いや、ヴァイリオ、なんで名残惜しそうにしてる訳?
「ムーイ達じゃあるまいし、ヴァイリオ。お前まで寄生肯定派になるのか?」
「助けられている手前、少々不安になるのは間違いではないだろう?」
ああ、寄生解除した時に掛かる今まであったエネルギー補給が減るのを恐れてるのね。
供給する側になって欲しいが……。
「生産する側から損耗してマイナスになっていた状況は抜けてる。俺が供給してた分なんて微々たるもんだ」
元々別次元の強さを持っているはずのヴァイリオに俺が供給出来るエネルギーなんて大した事は無い。
まあ……神獣と聖獣ではエネルギーの色合いが少し異なったけれど互換はあったのでどうにかなったけどね。
「トツカユキカズの神獣様の力のお陰でここまで持ち直したと思って居るよ」
そう言われてもね……と答えるしかないな。
逆流しないようにやっていたけれどそれでも流れ込んで来る訳で、俺の体もピリピリと痛みが無いわけじゃ無い。
「丁度良いから解析なり力なり存分に貰っても損じゃねえ。貰えるもんを貰い続けろ」
遠慮というものを知って欲しい狼男が相変わらずの提案をしてくるなぁ。
「今は状況が状況だ。私を治療する事で何か得られるのなら好きにしてくれ」
「そうは言ってもなぁ……」
「そのままアレだぜ。敵が来た時にお前等が狙って居る聖獣は俺が頂いた! 礼を言うぜ、って感じにして挑発するんだろ?」
「何だその邪悪な魔物ムーブ……健人、お前は相変わらず俺を何だと思ってやがる」
こう、なんかゲームのボスとかに居そう。
何処かのボスとか守護獣とかを守らないと行けない成功失敗のあるイベントとかの結果でそうなってしまう感じ。
その暗躍する側の邪悪な存在が俺とでも?
「ははは、面白い話だな」
ヴァイリオも健人の冗談を笑わないでくれない?
割と笑えないんだけど、俺の立場的に。
何よりあなたはそれで良いのか?
「トツカユキカズは私を乗っ取ると言う話に拒否感を持って居る。トツカユキカズとしての何かに触れて嫌だというのだろう」
「ま、まあそうなる」
だって邪悪じゃない?
なんかヴァイリオの頭辺りに俺が生えて敵というか主人公っぽい奴と対峙してるような構図とかさ。
どう見ても悪い奴って感じじゃないか。
「んー? ユキカズ悪く無いぞ?」
「なんだな?」
まあ、君達はね。瀕死だったのを俺が助けた訳でムーイの命を繋いで要る時はパッと身だと俺が体の一部として使ってましたみたいにも見えただろうさ。
「……」
「ヴァイリオ?」
「何でも無いさ、ではトツカユキカズの治療はここで終わりとなり寄生は解除されてしまうのか? すぐに寄生はもう難しいのだろうか?」
ああ、すぐに治療再開出来るかってのをヴァイリオは気にしてるのか。
俺が出入り口にして居る傷口をソッと気にしている。
そこも大分塞がってきているからなぁ。早めに出ないと出入りが難しいのは間違いじゃない。
「まあ……無理矢理傷口開けて出入りするってのは難しくなる。ヴァイリオの体が万全に近づけばそれだけ強靱になって俺の入り込む隙間なんて作れないだろうし」
弱って居る状態でさえやっとこさ内部に入り込んで治療が施せたもんだし。
「寄生用の隙間を作っておいて貰うべきか、もしくは非常時に私が自ら傷を作り出せば良いか」
「あまりそう言った想定をするのは良くなくない?」
「ユキカズの兄貴にそう言ったの作って貰えるならオデもして欲しいんだな」
エミール、そこでリクエストしない。
「あのな。そんな隙間作ったら寄生系の魔物にそこを狙われるぞ?」
俺だから良いモノを安易にそんなセキュリティホールを作ってどうするんだ。
「ムーイみたいに体を好きな形に変えれる訳でも無いだろ」
こう、ムーイの場合は俺が寄生するための穴を作って待ち構えるなんて事も出来るけどエミールやヴァイリオはそんな体の形はしてない。
まあ……エミールの場合は強さの関係で無理矢理穴を開けて入り込むとかやろうと思えば出来ると思うけど痛いと思うからしないぞ。
「むー……今みたいに傷口をムーイが塞ぐように出来れば良いけど、ユキカズからのエネルギーを貰わないとムーイじゃ無理」
万能なムーイでもヴァイリオの傷口の挟まって止血兼寄生用の防壁とするのは難しい。
「ムーイ本体がやれば出来なくは無いと思うぞユキカズ、その傷口をムーイが埋めておくかー?」
「いや……いざって時はムーイが切り札だろ」
少なくともこの中の強さ順だとヴァイリオ、ムーイ、健人と俺、エミールって順番が無難だ。
リイやラウ、カトレアさん達に戦わせたくない。
「簡単に寄生ってできないんだな」
「本来はね? 異物を体に入れるってそれだけ良くない事なんだよ。ヴァイリオの場合は元々強靱で俺が寄生出来る様な相手じゃないんだ」
堅すぎて寄生用の触手が通らない程には実力差がある。
そこを本人の治療用に傷口からどうにか入り込んだに過ぎない。
「とりあえず俺のエネルギー供給を一旦解除して様子を見つつ……」
スッと治療用に流し込んでいたエネルギーを止めてからヴァイリオのバイタルを確認。
……うん。弱る事は無さそうだ。
そのまま寄生を解除して傷口へと向かい、抜け出す。
「よい……しょっと」
ビュッと血まみれの俺はヴァイリオの傷口から抜け出し、全身を軽く水魔法で洗って水気をふるい落とす。
それでもまだ血なまぐさいなぁ……。
振り返るとヴァイリオは傷口の様子を触れたり滲む血を舐めている。
猫が毛繕いするその様に似てる。
「そこは傷口が深いから早めに治療しないとな」
「う、うむ……」
「はは、聖獣さえも頼りにする神獣の申し子様のカリスマはすげえなー」
健人、本気でうるさい。
お前が言ったんだろ。





