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二百八十七話

 ドクンドクン……と、ヴァイリオの鼓動を聞きながら断裂した神経や肉、骨の修復、足りない血液の補給などをしていく。

 作業の合間に健人やムーイ、ラウ、リイやカトレアさん達等がヴァイリオの回復の為に差し入れと最近狩りで集めた肉とか魔石を持ってきてくれる。

 それをヴァイリオに食して貰ってエネルギーに変換、治療を早めるように努める。

 もちろん魔石は俺も貰って活動エネルギーにさせてもらっているぞ。


 ただ……脂っこくて本当は食べたくないんだけどね。

 もちろんエミールも外から治療薬や体力回復効果のある薬を処方してくれている。

 全力で癒してる最中だ。ここまで手厚い治療も中々無いだろう。


 ……聖獣ってどんな生き物なんだろうか。

 寄生して居る内に俺の体も何か学習しているような気配と魔素が多大に流れ込んで来る。

 まずは俺自身もヴァイリオの体になれていかなきゃ……そうしないと傷の深い所にある毒素を除去して治療出来ない。

 毒素……うん。これは汚染とした方が良い。毒素の除去は順調だ。

 同時に魔素が全身を巡ってる。こっちも対処を間違えると魔素汚染でダウンしかねない。


 これ……人間だったら魔素中毒でぽっくり死ぬぞってくらい、魔素が体内で渦巻いている。

 寄生してるだけで経験値が流れ込んで来てるぞ。徐々にLvが上がっている気がする。

 そうして治療を進めていると日が沈み……夜になってしまった。

 健人はいざって時に備えて見張りに出て行った。

 ヴァイリオの気配察知を俺も共有状態しているので感知範囲はとてつもなく広い。

 現状だとルセトさんの村くらいまでは軽く気配把握できるようだ。

 どんだけ高スペックな化け物なんだと感心する。

 こんなのに正面から勝てとか、無茶を言うもんだ。


「フー……フウウウ……フ……ウウウ……」


 ヴァイリオの呼吸が安定しない。鼓動もだ。治療を進めているけれど相当ダメージが蓄積している。

 むしろよく生きてる。

 死んでないのが奇跡ってもんだ。

 根性で死なない様にしていたんだろう。


 否決……拒否……拒否……


 た、助け――だ、ダメ――どうか、殺してくれ――嫌だ。道を――開け――違う――開けるな――

 止め――動け――


 と、ヴァイリオを通じて思念のような声まで聞こえて来る。

 操られたローティガって奴の声なんだろうってのは分かる。病みそうだぞ。こんなの脳内でずっと響いてたら。

 他にも声が聞こえる所からローティガ以外のもう一匹も同様の状態か。

 ヴァイリオの治療を手伝ってくれている中、夜も更けていき……各々休息を取っていく。

 寄生状態のムーイも今は休眠しているようで全く動きが無い。

 俺はそこで休むことが出来ずにヴァイリオの治療をし続ける。

 峠は越えたけど安定とは程遠い。


「……いきなりこんな事態に巻き込んで申し訳ないと思っている」


 ヴァイリオが俺に、思念に近い、体の中でしか聞こえない程の声で謝罪してきた。


「気にしなくて良いさ。仮に俺たちの所へ来ずに別の所で貴方がやられたとして俺たちが安全だった訳でもない」

「しかし……」

「悪いと思ってるなら少しでも早く回復するように努める事さ」


 正直、戦いになった際に俺たちが敵う次元の戦いにはならないようにしか思えない。

 俺たち、健人を含めてLv150前後でアレコレしてる所を聖獣は400とか600の次元の戦いをしてるようなもんだ。

 単純に異世界の戦士の力が万全だったとして勝てる相手なのか……?

 ……それくらいはひっくり返せるほどの力があるか。


「……ただ、何もせずに治療して貰っているのは私としても申し訳ないと思っている。何か答えられる質問なら答えよう」


 治療に意識を集中させているから話なんてそう聞ける状態じゃないんだが……とは思ったがヴァイリオ自身も話したいという所か。


「それじゃあ俺の事は知っていたようだけど何処まで知ってるんだ?」

「私たちの神が新たに招いた者、オオカミケントのような人では無く臨界を迎えた神獣様の力の混合物と化した者がどんな力を持つのか相手をして見ろと命じられた。私としてはそこまでしか知らない。あまりに強力で悪しき脅威となるなら全力で排除することも考えていた」

「そりゃ物騒な事で……」


 場合に寄っちゃ殺すとまで判断されていたって事ね。


「だが……どうやら杞憂だと感じている。貴方はこの世界の者たちとも協力する考えを持って神様への謁見を望んでいる」

「謁見ね。場合に寄っちゃ殴りに行くって感じだけどね。臨界を迎えて死ぬ所を魔物にして訳の分からない世界に落としやがったから」


 言葉選びが悪くて怒るかと思ったけれどヴァイリオは苦笑するに留まっている。


「あのお方の気まぐれは今に始まった事ではない。そこは私が代わりに謝罪……したら怒られるので黙るとしよう」


 謝ったら怒るのか、酷い話だ。


「他に何か知りたい事はあるか?」

「そんじゃ……聖獣と神獣の違いは?」


 どうもこの辺りの違いが分からない。

 神獣って異世界の戦士に力を与えた存在でどうにも文明を破壊できる程の化け物らしいが聖獣であるヴァイリオを見ると……それほどまでの脅威には感じられないのだ。


「比べるまでもない。両方神様に創造された存在ではあるが、神獣様たちは子供……私たちはペットか玩具、戯れに作られた存在に等しい。あくまで神様の箱庭の整備を行う番人でしかないのだ」


 神獣は子供で聖獣はペットか玩具……会社とかに例えるとお庭番とかその程度の存在って所なのか。

 それは……ちょっと辛そう。


「代々の聖獣とか親子とかそんな生態はして……なさそう」

「正解だ。私たちは神様に作られた、この世界の者たちのような生命の営みとは別の存在である」

「なんか、少し悲しんでいるように聞こえる」

「どうだろう……あまりそういったものは分からない。ただ、少なくともこの世界に生きる物を私は大事に思っている。これが作られた感情だったとしても」


 ……ムーイが俺に告白した時の事を思い出す。

 ムーイが俺が想像で作ってしまったムーイではないという話だ。

 この世界の守護をし、世界を大事に思うように作られた存在……かもしれないとヴァイリオは思う所はあるんだろう。

 それって怖い。


「……本当に俺は俺であっているのか不安に思ってきた」

「どういう意味だ?」

「神様って奴が異世界で戦っていた俺だと思っている別の俺を作って放流したって可能性だ」


 だってそうだろう? 臨界を迎えて魂まで変質するのを何の奇跡を使ったのかわからないけど変異し終わった状態、魔物となってサバイバルだ。

 俺は本当に、兎束雪一なのか? それとも雪一の記憶を移植されたフライアイだったのかってすら思えてしまう。


「ふふ、面白い考えをする。私がその答えを知らないが、あなたの知るすべての人々……それ以外もすべてが該当する話であると私は思う」

「どういう意味だ?」

「今この瞬間に神様が作ったと私が語ったとしよう。過去があると言ってもその記憶すら作られたものだ……と、証拠すら何もすべて設定されたものだとね。貴方は違うを……言い切ることは出来ないはず」


 ヴァイリオに寄生した状態で且つこんな雑談をしている状態を神が作った?

 その証明の記憶や証拠が無いのすらも神が設定したら証明のしようがないって?

 後日健人にこの話をしたら過去の哲学者か何かが世界五分前仮説みたいな話をしてんじゃねえって怒られた。


「大事なのは今、そして未来にどうしたいか……だと思う。仮にあなたが偽者で本物が既にこの世にいなかったとして、ではあなたが大事に思う事、者に偽者だからと距離を置く必要があるか? 本物が生きて居たとしても、偽者だからと死ぬか?」

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― 新着の感想 ―
[一言] というか、今更だけど目玉になってからの話数が兵士の時の話数上回ってるのね 人型形態どんなのだっけ……(すっとぼけ)
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