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二百八十一話

「……どんだけ被害が出てるんだ」


 道中の道を飛んでいると俺の気配を察して避難民たちがホッとしたような顔で祈りを捧げる。

 その人たちは傷が痛々しいものが混じっており、場合によっては馬車や荷車に横になって搬送されている者も混じっているくらいだ。

 急いで手当をしてあげたい衝動に駆られるけれど今は追っ手の確認と避難誘導を優先しなくてはいけない。

 ……出かけてから最後列がどこかと思ったけれど、とりあえず健人が気にしているアナグマっぽい住民の村までで良いだろう。

 そうして飛んでいくとアナグマっぽい住民の村の村長が避難民の後列で俺に手を振っている。

 避難誘導と魔物からの警護をしているのか武装をしている。

 急いで着地する。


「神獣の申し子様、よくぞいらっしゃいました」

「ああ、君たちの村は?」

「まだ何も……神獣の申し子様が施した加護のお陰で村の結界は維持しております」


 避難誘導をしてるのか。

 という所でアナグマっぽい住民の村の方で土煙が巻き起こり、ガラスが砕け散るような音が響く。

 あの音は……カーラルジュがリイの居た村の結界を破壊した時と同じ音だったぞ。


「ああ……!? そんな!?」

「お母さん!」


 声の方を見ると健人の子供っぽい銀色の毛並みの特徴を持った子供が村の方へとみて声を上げてる。


「皆さんは急いで逃げて、俺が行きます」


 ブルだったら一目散に駆けつけるし健人が急いで助けたいと思っている相手が逃げ遅れてるみたいだから行かなきゃいけない。

 急いで俺は村の方へと向かう。

 すると村内の住民はパニック状態で一目散に現場から逃げようとしている人たちが無数にいた。

 その中で流れ弾のように無数の炎の雨が降り注ぎ始めていた。


「あああぁああぁああ!」


 逃げ遅れた避難民の子供らしき声に俺の視線が向かう。

 アナグマっぽい住民じゃないから避難民だろう。

 その避難民の子供に無数の炎の雨が降りかかる。

 く……防御魔眼を放つにしても距離が少し足りない。

 間に合え! っと急いで羽を広げて向かうと、そこにアナグマっぽい住民の一人が庇うように子供を抱えて火の雨を背中に受ける。


「ぐ……ううううう……」


 背中が燃え上がるのを堪えてそれでも負けじと子供を助けて急いで逃がす。


「早くここから逃げなさい」

「で、でも……」

「早く! 死にたくないなら今は逃げなきゃダメよ!」

「う、うん」


 と、子供は諭されて一直線に逃げていく。

 大やけどをしながらそれでも負けじと立ち上がり、アナグマっぽい獣人の一人……女性は火の雨が振ってきた方角をにらみつけつつ周囲に気を張り、逃げ遅れた人が居ると思わしき建物の方へと駆けていき、途中で痛みでうめいてよろめく。

 俺はその女性を支えるように駆けつけつつ背中に回復魔法を施す。


「あ、あなたは……」

「今は自己紹介は後。あなたも急いで逃げるべきだ」

「だ、大丈夫です。頑丈なのが取柄ですから、まだ逃げ遅れた者がいるかもしれないので確認を」

「それは俺がする」

「ですが……」


 うーん。一言で言えば不器用。自己主張しないってのも状況が状況だと間違いないんだろうなぁ。

 なんていうかブルの母ちゃんみたいでもある所は好感触、文字通り良い人なのかもしれない。

 自身の危険や怪我を物ともせずに人命優先って……自分が倒れちゃ話にならない。

 ただ、本当……こう言う所は実に俺も好ましいと思う。

 この人だな……健人の言ってた良い女。間違いない。

 俺の良い人センサーも反応してる。

 健人の目というか鼻は確かって事なのかな。

 同類って実感して少し嫌だなぁ……アサモルトの上位互換って単語が脳裏をよぎる。

 何が上位互換だ。あの怠け者アザラシ。 


「貴方に死なれると俺の仲間がとんでもなく五月蠅く騒ぐし俺も死んでほしくないんですよね」


 って所で何らかの第二射の気配。


「くっ!」


 さっきよりも威力が高い。

 溜まったエネルギーを引き出して強固な魔力障壁を生成する。

 ピカっと強烈な雷撃が周囲に降り注いだ。

 障壁を突破された!?


「ギャ――!?」


 逃げ遅れた者たちが感電して痙攣している。幸い、俺の出した障壁で威力は抑えられたのでまだ死んではいないが麻痺してまともに動けそうにない。

 俺が盾になるように前に出て尻尾で守ったので支えている女性は守れたけれどまだほかに負傷者は出てしまった。

 これが追手か!


「あ、ああ……ぁ……」


 と、声に敵の姿を確認する。

 するとそこに居たのは……大きな脳みそに触手が引っ付いたような、魔物……?

 仮に脳が飛び出したとしても人間とは全く異なる化け物だろう。

 その脳みその四分の一に機械らしきパーツがある。

 そしてその脳の下の部分からタコの様な触手が生えていて目玉とかは無い。

 あるのは……くちばしみたいな口か。

 それを……火の雨からどうにか逃げていた避難民を襲い、頭に突き刺して……啜っている!?


 迷宮種・ナジュヘド


 という名前が表示された。

 迷宮種!


 ムーイやエミールを置いてきたのでどのくらいの強さを所持していのかわからない。

 啜られた避難民は白目を剥いて絶命し、ナジュヘドは死体を持ちながらこちらへと顔を向ける。

 ……食性は脳みそとかその辺りか?

 ブレインイーターと言う魔物を座学で聞いた覚えがある。

 ムーイ達風に言うならブレイングロウとかそんな感じか。

 何にしてもこんな真似をする段階で和解とか相手の事情とかを推し量る必要はない。


「ふむ……まあ、この程度の味だろう」


 人語を解するタイプか。


「お前……」

「先ほどの私の力を耐えきるとは中々に見所はありそうだがお前には脳は無さそう。不味そうだ」

「そりゃあ良かったな。悪いがお前とはわかり合えそうに無い。だが敢えて聞くがなんでこんな真似をしている」

「それを言う必要があるのか? この世界のくだらない神を信仰するものに等な」

「俺は信仰なんて微塵もしてないがな」


 この世界に迷い込ませた奴に信仰しろとか無茶な話だろ。

 どうも俺をからかって楽しんでる節がある。

 しかし……コイツ、なんか俺がこの世界に来る羽目になった際の元凶と似たような態度だぞ。

 この既視感は一体何なんだ?


「何にしても聖獣を追う途中、高貴な私の食事の時間なのだ。邪魔者は排除する!」


 ナジュヘドが触手を前に出す反応からして魔法か……させると思ってるのか?

 魔法封じの魔眼を開いてナジュヘドを睨み付ける。


「む……?」


 バチッと魔法反応が起こったけれど魔眼で封じる事が出来た。

 ゲイザーってこういう便利な能力があるから凄いな。

 何にしても今は避難民と住民避難を優先しないと。


「早く逃げて、じゃないと全力で戦えない。貴方には子供も居るんです。今は生き残る事を優先してください」

「私も協力します。お力になれれば……」


 うーん。気持ちは非常に嬉しいけれど、彼女はどれほどの強さだろう?

 Lv……68

 あ、結構高い。健人が引き上げてくれたとか、本人の真面目な狩猟で上がったとかだろうか?

 リイとかもLvは結構あるんだよね。

 回復魔法で背中の手当は既に終わっている。

 魔力の暴力による回復なんだけどさ。


「ほう……魔法の使用を制限する力を持っているのか……では、このような力はどうかね?」


 ギュギュ……っとナジュヘドが啜った避難民の頭に触手を入れるとビクンビクンと死んだはずの避難民の体が動き出した。

 頭より上に大きな触手……浮かぶナジュヘドが事切れた死体を動かすその姿はまさに操り人形のソレだ。

 概ね人形師とでも言えば良いのかも知れないが何分、死体を動かすその姿は印象が悪い。


「……っ」


 その戦う姿をアナグマっぽい人種の女性は不快に思ったのか拳を握って今にも飛びかからんとする殺気を放っている。


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