二百七十五話
「ユキカズがムーイに寄生する事でムーイ、色々と出来る様になったんだぞ」
ムーイが誇らしげに胸を張ってる。
そう考えると生物の授業による細胞の形成と進化みたいなもんなのかなー。
「ま、まあ……何にしてもこれでムーイの体を上手く使える可能性があるからやってみようと思う」
ムーイに特化した進化って感じだな。
「スライム系の倒し方って何通りかあるがコアを仕留めるってのはよくある方法だよな」
「無いのもあるがな」
懐かしいな。ブルとフィリンを連れて魔獣兵作りにソルインの地下水路でキラーブロブを相手に戦った時を思い出す。
アイツらはコアを持ちつつ周囲のスライム部分を切っても効果はあった。
生命力自体は限界があってどっちを攻撃しても倒せたんだ。
スライムとナメクジの間みたいな感じ。
「ちなみに進化先をチェックしてたらこんなのも新しく出てた」
と、俺は新しく表示されていた進化先も照射してみんなに見せる。
◆エンペビアンパラサイト
幅広く両生類の体に寄生する事に特化した寄生種。
両生類の体を体液で溶かし啜って体内に潜り込む。
進化条件 Lv38 両生類への寄生
新しく満たしたからなのか、進化Lvが低めではある。
「えっと……オデなのは分かったんだな」
「スライムコアの実験が上手く行ったらこっちも進化しておくのも手立てとしてはあるかもな」
「こっちに進化したらユキカズの兄貴を食べずに寄生して貰えると良いんだな」
「それはどうだろう……エミロヴィアを啜るのはちょっとな」
幾ら回復魔法があるといっても寄生の仕方はそのままで良いでしょ。
ちなみに両生類って所の幅広いのから考えて上位進化の一つって所だと思う。
フロッグパラサイトは下位のパラサイトから進化とかかな?
「ユキカズの兄貴は配慮しすぎだと思うんだな。オデ、少しくらい痛くてもあの力が出せるなら十分だと思うんだな」
「力を貸して貰ってんだから当然の配慮だよ。むしろ遠慮しすぎなんだよ。ま、今はムーイに適応するか実験だ」
「おー」
って事でサクッとスライムコアへと進化を行う。
あ……思ったよりも変化が大きい感じがするな……グニグニと体の形状が大きく変質する感覚がする。
やがて変化が止まり……進化が完了した。
「進化完了した訳だがー……」
感覚を確認すると……こう、パラサイトの場合、ムーイの体を動かす際に触手というか神経を伸ばして芯みたいに動かして居たんだ。
その為、切断攻撃とか受けると神経が切断されて痛みが入るし再度繋げるのに消耗をしていた。
けれどその神経が……なんか半分が魔力的な代物に置き換わって物理的に切れても魔力的な所が繋がる感じがする。
そしてより明確に感覚が強まってムーイの体が更に軽い感じがする。
より力が入るしムーイの感じている肌の感じがするというか。
うん。悪くはなさそうだ。
こう……やり方次第でムーイじゃ無くても水とかでも一時的には操作して動けそう。
そう言った範囲での液体操作ができるようになった気がする。
操作範囲は感覚だけど半径1メートルくらい。俺の本体の強さで大分伸びてるんだと思う。
「ユキカズの姿が変わったんだな」
と、ムーイの本体が近づいた所でビリっと力の源からエネルギーが連結して流れ込んだ。
ジュッと俺の神経が焼かれる。
「え!? ムーイ離れてるのになんで!?」
「スライムコアの操作範囲にムーイの力の源が引っかかって流れ込んだ。透明な触手みたいなものが俺から伸びてるみたいなんだ、大丈夫。この操作範囲を俺が寄生してるムーイに合わせれば……」
膜みたいに操作できる範囲を定める。
するとムーイに近づいてもエネルギーが流れることは無かった。
逆に一時的に範囲を広げるとかも出来そうだな。これ。
アレだ……スライムを弾けさせて別の場所で再集結とかはこうやってやるんだろう。
反発力で移動して再集結する。
上位個体だと魔力で浮かんで集結させるんだろう。
と言うか……フローデスアイレギオンとあんまり操作方法変わらなそうだなー。
「よかったーまたムーイに寄生出来なくなるかと思ったぞ」
「そうなったらスライムコアとは別の姿に変化すれば良いだけだよ」
「うん」
「外からじゃどう変わったかよくわかんねえな」
健人の言い分はわかる。まあ、ムーイに寄生しっぱなしの状態だもんな。
しょうがないので俺が露出するようにムーイの体を操作して確認っと。
「雪一、お前の姿自体は変わらねえのか?」
「そこはラビュリントスイーターの部分なんだろ。えっと……ここだな」
と、手足は無意識にラビュリントスイーターになっていたので大きく変わって居る腹の部分である目を開く。
するとそこには目と言うよりも水晶玉って感じの代物、文字通りコアみたいなものになっていた。これは顔の方から見ても分かる。
「目がそこにあるよりは良いんじゃね? ちなみに魔眼とかは使えねえの?」
「使える」
魔眼を展開すると水晶玉の所に縦筋の目が浮かび上がる。
「結局目玉かよ。あんまり変わらねえな」
「そこそこ感覚は変わってるけどな。とにかくステータスチェックをするな?」
会話を切り上げてターミナルポイントでステータスを確認。
スライムコア Lv1
固有能力 粘菌寄生 宿主経験値&Lv強奪 魔力吸引 生命力吸収 粘液干渉 感覚・思考制御 増殖促進 強酸 酸性強化
Lv15になった時 寄生範囲拡大
ふむ……粘菌寄生か。まだスライムに寄生しきるには力が足りないって事なんだろう。これが遠隔でも操作できる能力だろう。
派生進化だから能力も控えめだなー……ゲイザーと比べると酷いがメガパラサイトよりもやや弱いかな。
ただ、ムーイの体を操作するって事だけで言えば、ちょっとだけメガパラサイトよりも鋭敏に感じる。
これはラビュリントスイーターである部分にある寄生もプラスで掛かっているからだろう。
出力は……あまり変わらないか。
あの時は上位種のギガパラサイトに進化して正解だったと思う。
「結構控えめ。ただ、ムーイの体を操作するのには良い手応えはある。次の進化はLv35って感じだからササッと上位進化して行くとより強くなれるかも」
「おうおう。んじゃこれからどうするんだ?」
「みんな疲れてるだろうから野営で良いだろう。暇だったら俺が一人……ムーイの半分を連れて狩りに行ってくるさ。上がりも良いしすぐだと思う」
トレジャーハントとばかりにダンジョンに挑んでいる状況なので今夜は野営をすることにした。
目印のターミナルポイントはあるので逸れたりはしないだろう。
「最近、子供たちに教わった秘密基地をオデ作るんだなー!」
エミールがパッと力を籠めると植物がメキメキと生えて組みあがりドーム状になった。
もしやこれは……。
「おー植物で編まれた家じゃねえか」
「どうなんだな? みんなが入った後は植物さんに頼んで伸びて貰って木の上の家なんだな」
みんなが敷地に入るとメキメキっと木が伸びて家の形となった。
確かにこれは木の上の秘密基地な感じの家だ。
「凄いぞエミール!」
「ユキカズの兄貴に褒められたんだな」
「こりゃあ便利だなおい」
「周辺に音が鳴る植物さんを植えたんだな。それとムーイの姉貴に教わった爆発するパンプキンを設置したんだな」
「防衛も完備……」
これはかなり凄いんじゃなかろうか。
「ただ、ちょっと疲れたんだな。オデ、少し休むんだな」
「ユキカズがエミールの疲れを取るかー?」
「だ、大丈夫なんだな。少し休めば回復するんだな」
ちょっとエミールは俺におびえ過ぎじゃないか?
もう少し甘えてくれても良いと思う。
まあ……寄生されるのが甘えるとは違うのかもしれないってのは分かるけどさ。
もちろん食事関連は俺とムーイとエミールが居れば困ることは無く、焚火を前に交代で休む。
……なんていうか、兵士をしていた頃より冒険者っぽい事をしてるなーと思ってしまうのはなんとも悲しいもんだ。
俺はブルやフィリンと一緒に冒険を楽しみたかったんだけどさ。
まあ……ムーイやエミールを連れて冒険ってのも楽しくはあるけどね。
初心は大事。
本当……思えば遠くに来たものだと俺自身の体をふと確認して思ってしまう。





