二百七十二話
「オデは?」
「エミールの場合は思いのほかタフだから後ろで援護して貰うなら魔力の刻印は良いかもしれない」
「わかったんだな。オデ頑張るんだな」
常々思うけどエミールが鈍くさいってフレーディンは言っていたが言うほど鈍くさいか?
素直というか抜けてる所はあるけど俺は鈍くさく感じないんだけどなぁ。
頑張り屋だし……ムーイもだけど。
他に……あ、道具とか無機物にも刻印は施せるのか。
「武器とか防具にも使えるみたいだなー……」
「んじゃみんなの武器に試しに付けりゃ良いんじゃね?」
「そうだな。感覚はそれで掴めるし重複も出来るだろうから調整してくれ」
って事でみんなの装備に刻印を付ける事にした。ちなみに防具の場合は特定の属性への耐性を上げる代わりに他の属性への耐性が下がるってのが多い。
魔眼を閉じて集中……紋様を魔眼内で描いてからまずはムーイの竜騎兵用の剣へと魔眼を開いて付与する。
銘を付ける感覚に似てるかな。
刻む毎に魔力が減っていくけど俺の魔力はその程度で消費仕切るほどでは無い。
「おー」
ムーイが出来上がった刻印付与の竜騎兵用の剣を握りしめて使い心地を確かめる。
「なんか力が出る気がするぞ」
「能力を使うときは武器から手を離して使ってくれ」
「わかったー」
って感じにみんながそれぞれ適性にあった刻印を武器に刻んだ。
こういうのは実に便利だ。
「後は本人に施す奴だな。欲しい奴はいるか?」
「オデで実験して欲しいんだな」
「んじゃエミールに刻印付与を試しにして見るぞ。じっとしてろよー」
カッと、エミールに刻印が刻まれた。
ぼんやりとエミールの体に刻印が浮かび上がる。
「こんな感じなんだな……あ、何か吸われるけど力が増すんだな。杖と合わせると魔力ってのが沢山感じるんだな」
「解除して欲しかったらすぐに言ってくれ、まあエミール自身が強くなるときっと解除出来るようになるけどな」
呪いを利用してるものだから本人が呪いを振り切る力があれば解除出来てしまうのがお約束だ。
「わかったんだな」
「私は魔法使わないし神獣の申し子様に私の体の方にもお願いしようかなー」
レルフィさんはミノタウロスみたいな人種で近接で戦うので魔法は不要か。
それなら大丈夫かな。
「おい。雪一、レルフィに妙な事をするんじゃねえぞ?」
「妙な事ってなんだよ?」
俺の女に余計な事するなってか?
「そりゃあ刻印を刻んで所有物にするとかよ」
「しねえよ。強化紋様ってだけで嫌なら解除する」
と言う訳でレルフィさんにも力の刻印を施した。
「おー! 本当に力が増すわ。凄い凄い、助かっちゃうわね」
ぐしゃっと落ちてた石を片手で握りつぶすレルフィさん。
この人も中々の怪力だね。酒場の店主なんだけどね。
とりあえず有効活用出来そうな人には施せたかな?
「後はムーイのステータスを確認した所だな」
「ムーイ、どんな力があるんだー?」
力の源を所持するムーイが両手を合わせ、小首を傾げて俺に聞いてくる。
可愛いポーズにしか見えない。
無意識にやってるのかな? 俺も意識しすぎか。
「カーラルジュと戦う前に確認したスキル以外で判明&エネルギー関連で出現したものか不明だけど自己再生、分裂&合体、暴食、膨張&圧縮、全属性耐性、ラーニング、愛の力、共生強化、聴覚強化が追加されてる」
「おー増えてるー」
「自己再生と分裂辺りは実にムーイらしいんじゃね?」
「まあ……ムーイはなんて言うかスライム系の迷宮種って感じだしな」
「ムーイはモフモフなウサギ枠になりたいぞーユキカズの名前みたいに」
俺の名前は兎束雪一、兎束でウサギの束って……俺ってウサギ?
なんかズレてる気がする。
「暴食ってのはなんだろ?」
と、気になったので集中して確認……うーん。文字とかの表示は無いけど解析で分かる感覚って言うのかな? どうもエネルギーの流れが増すスキルっぽい。
字面の響きからしてあんまり良いスキルじゃ無さそうだけど……。
ムーイらしい食いしん坊なスキルだとは思う。
「あん? 暴食? ああ、腹が減りやすいけど力や魔力が増す特殊スキルだったはずだぜ。他に胃腸が強くなる。条件分からないけどスキルポイントが増えたりもするそうだぜ」
「健人、知ってるのか?」
「あっちの世界に居る働き者だけど腹減りが激しいで困ってるイイ女が生まれつき持ってるスキルだった」
ああそう……本当、女基準なんだなお前。
なるほど、ムーイは腹減りが激しいのは納得だ。
高カロリーのお菓子を食べてるからこそ賄えるし、なんでもお菓子に出来るムーイの能力とかみ合っている。
実に無駄が無い。
「膨張&圧縮もー……膨らんだり小さくなったり出来るからそれだな。全耐性は言うまでも無い。ラーニングは見て覚える」
「愛の力ー」
ムーイの熱い視線は恥ずかしいので視線は逸らそう。
習得したスキルって事かな。
「共生強化ってもろ雪一の影響だろ。スキルをどう習得してるかわからんが」
「……そうだね。俺が寄生して力を貸して貰ってるけど」
「聴覚強化はウサギ姿だからじゃね?」
そんな感じだろうなームーイも姿を変えると一部スキルが生えるとかそんな感じだと思う。
「愛の力にしろ共生強化にしろ、よく分からんスキルだ」
「そりゃあ愛なんだから愛しい人の為に強くなるってもんよ」
……健人の戯れ言はこの際無視しよう。
「共生強化は単純に神獣の申し子様との力を増幅するという事では?」
「そうなのかなー……」
俺の菓子系の修練と似たように自動で習得した代物なんだろう。
この辺りが習得したって一目で分かるのが異世界の独自要素って感じだ。
「パッと聞いた感じだと雪一が疑問に思う経験値の跳ねには関わりがあるかわからねえな。他のスキルはどうなんだ?」
「うーん。じゃあムーイのスキルを全部説明すると……」
と、俺が確認したムーイのスキルを魔眼で転写してみんなに見せる。
「ミダスの手ねー。ミダス王って言うと黄金に変える手で有名な王様だぜ」
健人が詳しい。そんな事も知ってるのか。
なるほど、俺もぼんやりと思い出したのはその物語か。
「正確には神様に願って触った物を黄金に変えるって力を貰ったんだが、食べる物全てが黄金に変わって困ったので身を清めて無しにして貰ったって奴だ」
「ここからムーイの能力に合わせると願った物に変える能力……ある意味上位互換な能力だな」
「ムーイは確かに思った物に変えれるけど、本物より劣るぞーユキカズの手作りの料理には勝てない」
「若干劣化するみたいだからな。一応強力な魔物に掛けると味は上がるらしいけど」
「それでも手作りには及ばないんだぞ」
ムーイは自身の能力に関して辛口だ。
「ちなみにこのミダス王、王様の耳はロバの耳の王様でもあるんだぜ?」
「そう聞くと割と親しみのある良い王様にも聞こえるのな」
確か暴露した散髪屋を許してロバの耳を隠すのを止めたんじゃなかったっけ?
「ロバの耳になったのも自分を貫いた結果なんだぜ? 神様に腹いせにロバの耳にされたってのが理由だし、俺の曲を選ばないお前の耳は腐ってる! ってな」
「健人、意外と童話に詳しいのな」
意外って感じとしか言いようが無い。
「そりゃあガキ共に言い聞かせるのに必要な事だろ? あっちの世界でも日本で聞いた様な童話はあるんだぜ? 何処の誰が残したのか、ターミナルに埋没している資料にあるかは知らねえけど」
ああ、読み聞かせ用の知識な訳ね。
一応子守は出来るみたいなんだよなー……健人。
これで各地でやらかしてなければ頼りになる大人って思えるんだが……。
「なんだよその目」
「別に……」
「ったく」
「つまり意志を貫いた王様という事ですね。神獣の申し子様へと意志を貫いたムーイさんとなんとなく重なるように感じます」
「きゅー」
リイの台詞にムーイが照れる。
「えへへ」
そこで惚気に入っちゃうの? かなり恥ずかしいし先送りにしてるんだからぶり返さないで欲しい。
急いで話題を変えよう。





