二十七話
「私も……道具類に関しては互換の利く分析とアイテム探しを取得してますからがんばります」
分析っていうのは鑑定の前段階に該当する技能だ。
食糧とかが腐っているかとか品質を見抜きやすくなるんだったかな。
で、アイテム探しっていうのは分析と兄弟みたいなスキルで鑑定の前提条件。
日常生活だと物を見つけやすくなる。
物に色の枠が付いて見えるんだってさ。
本棚に目当ての本があるかないかがなんとなく分かる的な感じの代物だ。
薬草採取にも役立つから習得が推奨されていたはず。
このアイテム探しのスキルの認識に罠を混ぜて考えて動くと罠を発見できる……かもしれないっておまじない的な使い方ができるんだとか。
トラップマスタリーのスキルとこのアイテム探しのスキルを両方取ると罠感知ってスキルになるらしいしね。
トーラビッヒのブラックな仕事をしている最中に覚えたのかな?
「ブ!」
ブルもこの手のスキルは取得済みって様子で親指を立ててる。
「二人で手に入った代物のチェックをしてもらえばいいか……宝箱とかの罠に関しては、マンドラゴラ式で開ければどうにかなるか?」
訓練校にあった、鍵開けや罠解除の技能を覚えていない者が行う宝箱の開け方だ。
昔、伝承に存在する事実とは異なるマンドラゴラの引き抜き方としてマンドラゴラと犬の首に縄を付けて抜かせるというものがある。
このやり方を参考にした、宝箱の蓋に紐を引っかけて、十分に距離を取ってから強引に開けるという、頭の悪い方法がある。
ある意味合理的なのだけど、それでも魔法的な罠だと巻き込まれるかもしれないし、どこまで離れれば良いかの目測もできない。
後は箱が持ち上げられるなら、同様に紐で縛って高い所から落下でもさせて箱を壊して入手とか手段は無数にあるそうだ。
難点は中身まで壊れる可能性か。
まあ、俺が投擲スキルを所持しているので、スキル……ロックスローで宝箱を思い切り投げつけてどうにかするって手もある。
ブルの怪力にも期待だな。
宝箱は武器!
うん、こっちが良いかも。
罠が作動しても壊れるのは魔物か壁だ。
楽観的過ぎるかもしれないけど、こんな絶望的な状況では必要な事だ。
「どちらにしても移動しないといけないですね。救助を待つにしても地下25階の入口で待つという手もありますし」
「そうなるね。他に何か無い?」
「……入り口は……あそこかと」
フィリンが洞から空の……かなり離れた所にある塔みたいな伸びる何かを指差す。
アレは上の階への入り口……だと良いんだけどね。
大型フィールドのダンジョンだからこそ分かる入り口だ。
「後は……地下20階を目指すか地下30階を目指すかだね。帰路のオイルタイマーが見つかる見つからないに限らず」
現在、俺達がいるのは地下25階だ。
ここから中継地点である地下20階か地下30階のどちらが近いかに懸かっている。
「さすがに地下30階を目指すような事は……無いよね? 地下への入り口を先に見つける可能性もあるけど」
「は、はい」
「当然だね」
俺達の目的は脱出なわけだしね。
「話は決まった。じゃあ……ブル、ウォーターグリーンオルトロスの毛皮を分けて羽織ろうか」
「ブ!」
今までブルは洞の中でウォーターグリーンオルトロスの毛皮を燻して乾かしていたのだ。
さすがにボスクラスの毛皮なら下手な鎧よりも防御効果を期待できるだろう。
「オルトロスのツメと牙はブル、任せたぞ」
「ブー!」
更に皮を剥ぐのに使ったツメと牙をブルに武器として持たせる。
俺達の中じゃ一番Lvが高いし、力も耐久も敏捷もあるブルに持たせるのが適任だ。
俺は緊急時用の棒切れを握る。
俺しか使えないのだからいいだろう。
洞の近くにあった固い草の茎を爪で切断して簡易的なピッケルにしたその手際は素直に凄い。
茎が硬過ぎて下手な木よりも武器に向いているだろう。
「フィリンは罠をできる限り警戒しながら俺とブルの間を歩いていてほしい」
「わかりました」
「ブル、魔物の気配とかその辺りを察知できるスキルとか所持してそうだと思っているけど、頼りにしていいか?」
「ブ!」
任せろとブルは手を挙げた。
よし! それじゃあこれから脱出のための活動をするとしよう。
俺達は洞から恐る恐る出て、行動を開始したのだった。
「ブ……ブ……」
ブルがヒクヒクと何度も鼻を鳴らしながら辺りを常時警戒する。
俺とフィリンは目視で魔物がいないかを確認。
何だかんだ言ってマルチアイを取得した俺の視力は、日本にいた頃とは違って良くなっている。
とは言っても背が高い草が生える迷路みたいな草原を進んでいるわけだから視界に頼るのは中々に厳しい。
どこからか虫の声も響いてくるし、獣の唸り声も聞こえる。
空模様は……どんより雲だ。
どことなく湿っぽくて地面は泥が所々ある。
……こう、体が縮んで田舎の原っぱを探検させられているかのような感覚が一番しっくりくるかもしれない。
そんな場所を警戒しながら歩く。
「ブ!」
ブルが指示を出すので道の脇にある泥場へと避難する。
というか、泥を被る。
うえ……全身泥まみれ。
それから割と直ぐの事……ブラウンフライアイボールという空飛ぶ目玉が三匹、ふわふわと浮きながら通り過ぎる。
動かないように息を殺し、泥の中で僅かに顔を覗かせて見守った。
……。
やがてブラウンフライアイボールは俺達に気付かずに通り過ぎていった。
ふう……思わず安堵の声が漏れつつ立ち上がる。
「泥まみれ……」
「ブ」
「しょうがないですよ」
「まあね」
これで無駄な戦闘が避けられるならやるしかない。
「とは言いましても……あの魔物ってこの大迷宮の地下12階辺りで目撃される魔物じゃありませんでしたっけ?」
「そうだっけ? じゃあ警戒する必要は無い感じか?」
到達階層じゃ代表の魔物とかしか知らない。
「と言うか……浅い階層の魔物も出てくるの?」
「浅いと言っても12階から出てくるんですよ。確か……ブラウンフライアイボールは魔眼という厄介な洗脳攻撃をしてきて、その目に魅入られると混乱を引き起こすはずです。それと肉には毒があったと思います」
「それってつまり食用に向かないからこんな深い階層でも出てくるって事?」
「そうなのではないかと、もしくは……上位個体であるフローデスアイレギオンと呼ばれる集合体が育てている成長途中の魔物かもしれません」
なるほど、上位の魔物が生み出す取り巻きで、更にこの辺りの弱肉強食からはみ出し気味って事ね。
ありがちな生態系だ。
「倒せそうなら仕留めていくのも手か。もしくは不意打ちができるならやってみるか」
「仲間を呼ばれたら厄介ですから最低限で行くべきかと。それに地下12階から出てくる魔物とは言いましても新兵の私達では手に余るかも」
「そこは……ブルならどうにかなるかも」
新兵といっても兵役長いしね。
Lvも俺達の中じゃ高い方だ。
「ブー!」
お? 鼻息を荒くして任せろと言っている。
アレくらいならどうにかできるって事かな?
「もちろん出てくる毎に隠れていたらキリがないってだけな?」
「ブー」
そんなわけで、知っている魔物で、弱いと判断したら攻撃しようと決めた。
で、タイミング良くブラウンフライアイボールが一匹、群れっぽいグループから離れてフラフラと単独で俺達が息を潜める藪の近くを飛んでくる。
仲間っぽいブラウンフライアイボールは遠いな。
曲がり角を曲がって行ったので気付かれないはず。
俺はブルを掴んで……結構重いけどどうにか持ち上げ、力を込めて投げつける。
フレンドシュートって連携技らしい。
まあ、ブルは俺の手を足場にして跳ねてもいたんだけど。
「ブ!」
空中で上手い事体勢を整えたブルが縦軸に大きくオルトロスの牙で作った簡易ピッケルを振りおろした。
「――!?」
背後から接近する影に気付いて振りむいたブラウンフライアイボールが驚きで目を見開いた直後、グチャっとブルの怪力による叩き付けを受けて即座に絶命した。





