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二百六十九話




 翌朝。


「いっち、にー! いっち、にー!」

「いっちにー! いっちにー!」

「なん、だな! なん、だな!」


 俺はムーイとエミールと一緒に孤児院の庭で日課の修練を行う。

 腕立てに始まり柔軟体操、更には軽い組み手、マラソンと稽古はムーイとエミールの戦闘スタイルから町の外で行うけどな。

 兵士としての習慣で特に何か問題が無い限りは毎日している奴だ。

 ムーイとエミールも起きている時は付き合ってくれて良い。

 尚、健人は夜更かししているからか起きてくる事は無かった。

 嘆かわしいもんだ。

 そんで訓練と稽古に関してなんだが、ムーイに寄生した形での訓練……は、本当、息切れとかとは無縁に体を動かせて疲労を感じなかった。

 まあ……今の体に進化してからは似たようなものではあるけどそこは負荷が掛かるくらいに強めの訓練をしていた。

 ただムーイの体だとその加減が本当に分からない。

 多少は過負荷を感じるのだけど回復が早いというか。

 その代わりに腹減りが早い感じな所だろうか。

 言うなれば腹ごなしの運動程度でしかない。

 思えば遠くへ来たものだ。訓練校に居た頃は毎朝の訓練が厳しかったもんなぁ。

 スタミナ回復力向上があるからと言っても辛い物は辛かった。

 赴任先はもっときつかったけどさ。


「はい。朝の訓練完了。朝食を食べに行こうー」

「おーお菓子ー」

「なんだなー」


 とまあ、日課になっている訳で参加している二人は特に疑問も無く俺に着いてきた。

 ちなみにムーイに寄生して居る事での長所として定期的にターミナルポイントに振り込みに行かなくても良いと言うのがある。

 もちろんエミールでも同じことが出来るんだけどね。

 この二人に余ったエネルギーを逃がしておくって事で俺も体の負荷を軽減出来るからさ。


「なーユキカズーエミールも食べれるお菓子ってあるのかー?」

「んー……エミールが食べれるお菓子か、昔読んだ物語でカブトムシの砂糖漬けってのを見たような気がするから作れるかも知れないな」


 どういった代物なのかはイメージだけどシロップ漬けとかの方がわかりやすいかも知れない。

 ただ、かなりのゲテモノっぽい感じになってしまうね。


「そうなのかー」

「食べれるお菓子を兄貴は作ってくれてるから大丈夫なんだな。むしろ刺激が強くて困るんだな」


 ああ、俺の鱗粉入りクッキーね。

 エミールが若干困ったような顔して答えている。


「じゃあハニーアントラインの蜜はエミールはどう感じるんだー?」


 ハニーアントライン……アントラインの巣に居たおそらく食料貯蔵の役目を持った魔物で腹に蜜を所持して居た。

 アントライン自体が虫の側面のあるミルメコレオっぽい魔物だから……エミールでも分かる味をしてるかも知れない。


「そっちなら程よくみんなが楽しめるお菓子に出来るかも知れない」

「わかったぞ。じゃあハニーアントラインの蜜を作って見るぞー」


 ムーイがエミールへの配慮も出来るようになったんだな。

 そんな訳で本日の朝食に用意したお菓子にはハニーアントラインの蜜を使用して作った。

 結果だけで言えばエミールも味が分かるお菓子となった。

 やっぱりお菓子はみんなで楽しく食べて貰えると嬉しいもんだ。


 さて……それから俺達はLv上げと称してダンジョンへと狩りとトレジャーハントへと向かう事になった訳だが……ムーイが俺になんて言ったか覚えてるだろうか。

 そう、ムーイの体を使った俺の戦いかたを知りたいと言うものだ。

 今まではムーイの意志を尊重して近接主体、俺は目を開いて魔眼による援護が大半だった。

 エミールに寄生した時もその辺りはあまり変わらなかったが、俺が本来得意として居る戦い方はと言うと。


「おー……すげーな。魔物が近寄ってくる前に絶命して行くぜ」

「圧巻ねー私たち、見てるだけね」

「きゅー」


 健人とレルフィさん、ラウが目を凝らしながら進行先に居る魔物を見つめる。

 ムーイの半身に寄生した俺が行った俺らしい戦い方を実践した結果な訳なんだけどさ。

 やり方は至ってシンプル。

 俺が人間だった頃の本来、得意として居る戦い方はなんだっただろうか?

 そう、俺は剣術も魔法も後でライラ教官やフィリンから教わったもので本来得意として居るのは投擲による攻撃なのである。

 この投擲というのは文字通り投げる攻撃な訳で。


「よ!」


 ブン! っと手に持った尖った木片をムーイの力で金属に変えてから怪力で正確な狙いで相手に命中させる。

 元々剛力なムーイの力で投げ飛ばす訳なので石ころでも当たったら洒落にならないダメージが入る。

 しかもムーイの力で投げる物を固く希少な金属に変えて投げる訳なので石ころとか投げるより遙かに凶悪だ。

 弱い魔物なら一瞬で飛び散るような一撃になる次元だ。

 ドッジボールとか俺は得意になってるぞ? まあ、この攻撃が相手に当たった場合、相手が弾けそうな位の威力で投げてる感じになるけどね。

 土台の力が強力だとこうなるって感じだ。

 最近は魔眼による射撃が主体になっていたけど、元々はこう言った戦いの方が得意なんだよね。

 それでも近づいてくる相手には魔眼が状態異常にして、隙が出来た所に再度攻撃で沈む。

 隙の無い構成だ。


「これは凄いですね」

「リイも投擲は得意としてるもんね」


 リイも咄嗟に串や手裏剣みたいなものを投げたりするのは知ってる。

 そういった戦い方を得意としてるので俺と似たスタイルなんだよ。

 だから俺達の中で一番、初期の俺の戦い方への理解は深いんじゃないだろうか。

 まあ、リイの場合は物音を立てずに隠れて接近も出来るみたいなんだけどね。

 アレだね。フクロウって静かな暗殺者って言う奴。


「私の場合は毒などを仕込んで弱らせるのが目的ですが、神獣の申し子様は小細工無しで強力ですね」

「強力なのはムーイなんだけどね」

「この面子ならマジでダンジョンの奥に余裕で行けそうだな。ムーイが増えただけでこうも楽になっちまうか」

「ユキカズがムーイの戦い方をせずに戦うとこんな戦いをするんだな」


 寄生してないムーイも居ると言う一見すると奇妙な状態だろうけど。


「魔物になる前は投擲で戦ってたのは知ってるだろ?」

「うん。そういえば前にユキカズ教えてくれた」


 で、出てきた魔物に向かって流れるように投擲をして仕留める。

 ドス! っといい音がするね。

 本来の俺は目が良いからか狙い撃ちが得意だからね。

 これで弓とか銃とか使うと良いのかも知れないと思うだろうが取得しているのは投擲修練なので投げる方が戦力になる。

 本当、懐かしい戦い方だ。

 先制は俺がしてフィリンが魔法で攻撃、敵にブルが近づいてたたき伏せる。

 うん……懐かしいね。魔物化してムーイやエミロヴィア、健人と一緒に戦うと俺は後ろで魔眼をしながら魔法援護ばかりだったもんなぁ。

 しかし……ムーイの能力って汎用の幅が広くて凄いよな。

 投擲の難点は投げる物を考えて攻撃しなきゃ行けない為に実質使い捨てに近い。

 もちろん投げた物を再利用出来るけれど拾い直すのに手間が掛かるのですぐには出来ない。

 けどムーイの場合は簡単に物質変化をできるので石ころでも強固な金属へと変化可能だ。

 まあ……突き詰めると刃物を投げたりするのが良いのだけど気にせず攻撃出来る事に越した事は無い。


「しかし、まー……」


 健人が俺、ムーイ、エミールを見てきた。


「……」


 今の俺はムーイに寄生した状態で外見も昔のようにムーイのお腹に寄生してる。

 ムーイが増えた訳で、実質三人が迷宮種扱いで戦っているようなもんだもんな。

 俺が一番力を発揮出来る状態と言えば正しいし、ムーイかエミールのどっちに寄生する? って奴の一つの答えみたいなもんだ。


「頼りになる事で……とは思うけど、ぶっちゃけ後ろから剛速球を投げつけられると恐ええな」

「俺を侮るなよ? 仲間に誤射する訳ないだろ?」


 狙い撃ちに関しちゃかなり自信がある。

 これも俺を選んだ神獣の適正って奴なんだろうけどな。


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