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二百六十八話


「エミールの響き良いんだな」


 良かった。セナイールが良いとか言われたらどうしようと思った。

 今度はトーラビッヒが常時脳裏を過ぎる事になるハメになったぞ。

 何よりエミロヴィアをブルやフィリン達に紹介した際に白い目で見られる可能性があった。

 危ない危ない。

 ムーイを泣かせかけた時もそうだったけど口が軽くなっている気がする。

 思った事を言って嫌われるのは嫌だからもう少し自粛しないとね。

 よく空気が読めないって言われたし。

 だってあの神を騙った奴がよく俺に言ったんだもん。本当に強く感じなかったからさ。

 思えばナンバースキルを使えば絶対に勝てる相手だったんだから当然なんだろう。


「じゃあエミロヴィアのニックネームはエミールで行こう」

「わかったんだな」

「エミール、改めてよろしくなー」

「よろしくなんだな。それでユキカズの兄貴、何があったんだな? 普段感じない迷宮種の気配がユキカズの兄貴からするようになったんだな」

「まあ……ムーイが器用に体を分けて半分を俺が寄生してるからだな」


 と、俺は健人とエミールに説明する。

 ムーイは誇らしげだった。


「チッ。体を重ねるってそういうことかよ。臆病者が」

「いい加減にしないと本気で洗脳するからな?」

「それは良かったんだな。おめでとうなんだな」

「えっへん。後でエミールと二人でユキカズに寄生して貰うぞ」

「え? だ、大丈夫なんだな」


 まあ、エミールは寄生に関しちゃ必要ならするって感じだ。

 俺としてはストレス発散に良いとは思ってるけど。

 一応エミールの体の艶は良くなってるし。

 色々とムーイも心境の変化が起こってる気がした。

 良い方向に転がる事を願っている。

 ちょっと不安になってきた。

 エミールって男、雄だよな? 実は女の子だって事だったら恐いんだが。

 所持スキルもいばらの魔女だし。魔女って事は女だろ?

 健人の琴線に掛からないから大丈夫だと思いたい。


「なあエミール」

「なんだな?」

「気になったんだが、お前は男だよな?」

「ん? エミールは女だったのかー?」

「オデはオデを雄だと思ってるんだな」


 そうか……とはいえ実は女だったとか無い事を祈ろう。

 ちなみに寄生して改めて確認したら男ではあるようだった。ムーイが不定形過ぎるんだよ。

 ただ、油断は禁物な気がする。力の源が増すことで変化する事だってあり得る。

 そんな訳でその日は沢山のお菓子を作ってムーイに食べて貰った。

 食べた分だけムーイが意識すると体の面積が増えるというか戻るようでしっかりと本体と寄生用の体は容量が同じになった。

 ムーイってやっぱりスライム類に近い迷宮種って事なんじゃないかと思う。



「ユキカズ、夜の見回りだな。ムーイが引っ付いてると飛びづらいなら分離しておくぞー」


 就寝時間になり、日課としている見回りをムーイ達が寝たらするかと思っていたらヌルッと俺に引っ付いて居たムーイが離れてベッド代わりとばかりに丸くなってしまった。

 その上にムーイがラウを抱えて寝転がる。

 ぷるんぷるんだな。触れてる限りはエネルギーが供給されて問題無いんだっけ。

 そもそも元の体に戻れるだろうし……増えた分はどうなるんだ?

 圧縮されて戻りそうな気はする。


「きゅー! ぷにぷにー」


 ラウもムーイベッドにご機嫌な様子だ。

 ちなみにムーイが離れたことで体が軽くなったとかそういう感覚は……ありそうで無い。

 神迷コアの発動条件の影響だろう。

 迷宮種に寄生して居る時はエネルギーが大きく循環するけど外れるとそもそも迷宮種の力を上手く出力出来ない。

 それと実験で飛ぼうとしたらムーイが寄生で引っ付いて居ると言うとおり飛びづらいのだ。

 重さなのか何が理由なのか判断し辛いけど軽く浮く事は出来ても早く移動が出来ない。

 おそらくムーイの体の何かが邪魔している。進化して強くなっても出来ない訳だし。


「何かあったらすぐに呼んで欲しいぞ」

「わかってる。じゃあ寝るまで話でもしよう」

「うん」

「ねーお義父さん達、楽しい事をうまくやれたの? ムーイは何時子供が出来る? ボクお兄ちゃんとして頑張るよ? それともボクが寝てからするの?」

「ラウ、そんな事は気にしなくて良いから君はすくすくと素直に育ちなさい」


 ここはラウの教育に悪いのではないかと思い始めた。リイに相談してみようかな。

 カトレアさんは大らかだしレルフィさんはこう……豪快な感じでリイが一番常識人な相談相手だ。


「きゅー?」

「んーとな。ムーイがもっと色々と見てユキカズの事を想ってくれたらなんだって」

「きゅー???」


 うん。子供でも俺の根性が無いと思ってそうなのが痛い。

 異世界の価値基準は時に俺を苦しめるね。

 これも全て健人が悪い! って事にしよう。

 とにかく話題を逸らす為に物語を聞かせないとね。

 ムーイのリクエストで俺がこの世界にくるまでの話を映像を見せて語って聞かせる。

 今回はクライマックスの神を騙った奴との決戦だ。


「ねーお義父さん」

「何?」

「この相手って人っきゅ? それとも迷宮種っきゅ?」

「……どうなんだろうな?」


 確かに考えてみればアイツが一体どんな奴だったのかがまるで分かって居ない。

 暗躍していて力を手にしていたって所はわかるけどあんなにも簡単に人って騙せるもんなのか?

 いや……思えば奴が姿を見せた時、人では無かった。

 少なくともアイツの本当の姿は煙みたいな生き物だ。

 ぼんやりと記憶の中にある奴の姿をズームして反芻する。

 そうだよな。少なくともコイツは人間じゃ無い。

 獣人や亜人種? いや……迷宮種と思うのがしっくりくる。

 しかも異世界の戦士の力……神獣の力を道具に込める技術、異世界人を召喚する技術を国に提供した黒幕だった。

 一体コイツは何なんだ?

 改めて考えると異彩を放っている。

 今まではぼんやりと神って奴が裏で暗躍していたとかそんな所かと思ったけど、改めて思うとコイツは神を古い神とかなんかそんな感じで呼んでいて関係が遠そうだった。

 最後に神って奴が俺を招いたのは……この黒幕の体に神獣の力が凝縮していたからだって推測も出来る。

 本当、何者だったんだろうか?

 こういう時こそ覗き見てる神が喋りゃ良いのに全然言う気配が無い。

 デバガメはしっかりする癖にどういう事だ。


「ムーイはどう思う?」

「んー……?」


 あ、ムーイは凄く眠そうにしている。体の容量を増やしたから疲れてるのかも知れない。


「なんか……世界を、憎んでるように、見えるぞ。それと映像でしか分からないけど、ムーイに近い生き物みたい」


 迷宮種っぽい。しかもムーイみたいな不定形なタイプか。

 確かにそうだな。


「……ムーイ眠そうだからボクも寝るっきゅ」

「ああ……」

「お義父さん、いってらっしゃいっきゅ。見回り終わったら一緒に寝るとムーイ喜ぶっきゅ」

「うん」


 今までよりもムーイが近くなった気がして少し気恥ずかしいな。

 告白されて俺も頭に血が上ってる。

 うん。より冷静になるために外出しよう。


「おやすみ、ムーイ、ラウ」

「おやす……み……ユキ、すー……」

「おやすみなさいっきゅ」


 すやすやと眠るムーイと一緒に寝るラウをしばらく見守った後、俺は窓から飛び出して見回りへと出て……町の様子に変化が無い事を改めて確認した後、ムーイ達と一緒に就寝したのだった。


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