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二百六十七話


「いつかユキカズが凄く強くなった時、ムーイの力の源毎、寄生して一緒に行動したいぞ」

「それほどまでに強い相手と戦わなきゃいけない時にな」


 と言う訳でムーイは納得してくれた。

 これで良かったのかという考えはある。

 けれどもう少しだけ、時間が欲しいと思ったのは本当だ。

 明日には何が起こるか分からないと言うのは痛い程に分かってる。

 だってカーラルジュにボコボコにされた時がまさにそれだった。

 悠長にしている内に何かとんでもない事があって取り返しの付かない事だって起こりえる。

 その時に後悔を俺はするかも知れない。


「ユキカズ、何か不安な顔してる。ムーイの告白をすぐに応えないのが不安って顔」

「ムーイは本当、俺をよく見てるな」

「うん。でも大丈夫だぞ。ムーイ、力の源が無くてもユキカズと居れば死なないぞ」


 ……うん、やっぱり俺は学習してはいないんだろう。

 ムーイに死なれた場合の後悔をムーイは察している。

 ムーイ本体と俺に寄生して貰って居るムーイが同一であるとして、本体が仮に死んでも俺に寄生して貰って居るムーイは生き残っているから大丈夫だって。

 何より、最悪生き残った方のムーイに力の源をどこからか確保すれば再生は出来る。

 なんともすさまじい生命力であり、俺の不安を打ち砕く方便なんだろう。

 うん、もう少しだけ……このままで居たい。ありがとう。ムーイ。

 って思って居たら、ぐうううって音が聞こえてきた。


「えへへ……お腹減ってきたぞ」


 ムーイがお腹を押さえていた。


「そんじゃムーイが自己再生で補充をするためにお菓子でも沢山作るかね。遠慮するなよ?」

「やったー!」


 と、俺達は部屋を出て厨房へと向かう。

 するとその途中で健人がニヤついた顔で姿を現した。


「へへへ……お楽しみだったか? 随分とお早いおかえりじゃねえか」

「ふん!」


 俺は最近練習して居た洗脳魔眼をエネルギーを貯めてぶっ放す。

 あふれ出るエネルギーをつぎ込むので熱線を撃つように目が焼ける様な痛みが迸る。


「アガ――!?」


 モロに健人に洗脳魔眼が命中、感覚で言うと真っ暗な所で失明しかねない程に強力なフラッシュを焚いたようなもんか。


「やあ雪一くん、ムーイ。明日も忙しいから早めに体を休めるんだよ」

「ん? ケントどうしたんだー?」


 ムーイが俺の後ろから覗き込む。


「デバガメの寝取り狼男が更生したんだろ」

「ケント、相談に乗ってくれてありがとうなー」

「どういたしまして、ムーイもよく働いているね。ちゃんとご飯を食べて体調を整えるんだぞ。女を泣かせるなんて行けない事だ」

「ユキカズ、ケントが何か変だぞ」

「これで真面目に更生する事を祈るばかりだ」

「恋愛は大切だ。一人の女性を――うぐ」


 チィ! 洗脳魔眼を振り払ったかしぶとい。

 思ったよりも効果が薄いな。


「俺のイイ女コレクションは止まる所をしらねえぞコラァア! 雪一、てめぇいきなり何しやがる」


 いや、正確には健人のイイ女好きが洗脳を解除したって事か。

 意志力高いな健人は。

 そして更生の余地が無いか。


「もっと入念に洗脳すべきか」


 縛り上げて何度も洗脳魔眼で完全洗脳してやった方が世のためなんじゃないか?


「とんでもねえ事をしやがる!」

「幾らムーイのお願いだからって悪乗りするからこうなるんだよ」

「うるせー俺は良い女の味方なんだよ! 据え膳を食わねえから悪いんだ!」


 健人は懲りもせずに両手を挙げてベロを出して挑発までしてきた。


「この短時間な所を考えるとムーイ、丸め込まれたか?」

「丸め込むー? ムーイ、丸め込まれたのかユキカズー?」

「違うだろ」


 丸め込んでなんかはしてない。初めてのキスはしちゃったんだし。


「うん、ユキカズがねーキスしてくれた!」


 健人がまた俺に疑いの目を向けてくるので俺は魔眼で威嚇仕返す。


「神獣の申し子様よぉ? キスで終わりかぁ?」

「お前と一緒にしないで貰いたいな。いきなり体を重ねるのはどうなんだ?」

「体は重ねたぞー」


 寄生って意味でな。


「むふふー」


 ……本当に寄生って意味だよね? なんか本当に体を重ねたって表現でもあるって事無いよね?

 ムーイのスッキリした顔が非常に恐い。


「おーやったじゃねえか、随分とはええな。コレが迷宮種と神獣の絡みか? いや、この後もやるのか」


 その下ネタを程々にしないと本気で洗脳するぞ。


「まったく……イイ女なら見境が無い奴だ」


 イイ女と判断すると絡んで来やがって。

 まあ、ムーイがイイ女、良い奴って事には納得だけどさ。


「イイ女に夫が居てもやらかしそうだな、お前」

「心外な事を言うんじゃねえよ。旦那がいたら見極めるに決まってんだろ。イイ女が決めた相手だぞ?」

「寝取らないってか?」

「旦那がクズだったら寝取るぜ? 生憎、この世界の連中にそこまでクズはいねえけどな」


 意外な考えだ。

 イイ女と思ったら見境無いかと思っていた。


「だから、据え膳を食わねえ野郎の場合は狙うぜ」

「狙うな」

「何度も言ってるだろ? 俺は、イイ女の味方だ。おあずけなんてして不幸にするなら頂く」

「はいはい。健人の戯れ言はこれくらいにしてお菓子を作るんだ。ご丁寧に出かけさせた子供達もサッサと連れ戻せよ健人」

「うぇーい。ったく、この反応は作戦失敗みたいだな。コレだから真面目な軍人ってのは面倒臭いぜ」


 健人、五月蠅い。


「ユキカズのお菓子ーみんなで食べると美味しいぞー」


 そのまま孤児院から出て子供達を迎えに行く。


「あ、ユキカズの兄貴達が来たんだな」


 孤児院から出たすぐの所でエミロヴィアが居た。

 どうやら畑の様子を確認しに行っていたらしい。


「おう。エミロヴィアは何があったのか知ってたのか?」

「何がなんだな? なんかみんなユキカズの兄貴達の為に少し離れてようって言ってたから合わせて畑を見てたんだな」


 これはエミロヴィアは蚊帳の外だった反応だ。

 まーエミロヴィアは嘘が吐けるような性格をしてないし声を掛けられなかったと見て良いだろう。


「何かダメだったんだな? オデ、どんくさいから行けなかったら謝るんだな」

「いや、気にしなくて良い。エミロヴィアにお願い出来る事じゃ無かったからさ」

「そうなんだな?」

「ああ」

「なーユキカズー」


 ムーイがエミロヴィアの隣に立って俺にお願いするような上目遣いで微笑む。


「エミロヴィアにはニックネームとか呼びやすい名前を付けないのかー?」

「なんだな?」

「だってムーイの名前はムーフリスだけどユキカズにニックネームとか考えて貰って決めたぞ。この名前の方がムーイは気に入ってるからエミロヴィアにもあると良いと思うぞ」


 何時までもフルネームで呼ぶのは親しく無いんじゃないかってムーイの見解か。

 こう……エミロヴィアにニックネームを名付けるとムーイが不機嫌になりそうだと思ってたから触れないようにしてたけど、ムーイが提案するなら良いのかな?


「エミロヴィアはユキカズから名前を考えてもらいたくない?」

「特に気にしてなかったんだな。だけどユキカズの兄貴が名付けてくれるならオデもそう言った名前があると嬉しいんだな」


 まあ、よくよく考えて見ればエミロヴィアってちょっと長いもんな。

 特に俺の認識だと町の名前だし。

 忌まわしきトーラビッヒが支配していて、ライラ教官と出会い、ブルとより親しくなった所でもあるので複雑な思い出の町だ。


「カエルで良いんじゃね?」


 それは分類でしかないだろ。

 グフロエンスと知り合ったらどうすんだよ、お前。


「健人、お前はグフロエンスのイイ女とかいねえのか?」

「いるぜ? カエルとか言うなよ? 行商してる良い声の奴なんだぜ?」


 胸を張るな誇るな!


「そのイイ女もカエルだろ」

「失礼な事を言うんじゃねえよ」

「ともかく……エミロヴィアだからなー」


 く……健人のカエルって提案が脳裏を過ぎる。

 けど無難な名前が浮かんで来るぞ。


「エミールとか、ヴィアとかそれとセナイール」


 何故、俺はトーラビッヒの家名を口走った!? 連想し過ぎだろ。


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