二百六十五話
「んん……」
ムーイがそのまま絡んで来る。
むうう……ちょっと酔ってる感じがしてきたけれど少しだけ我慢。
スーッと何か重たい物が解き放たれる様なそんな感覚がしていた。
なんだろう。この感覚は。一つは軽くなったけど新しいもう一つが重くのし掛かる。
後ほど分かるのだけど、前者は俺に施されたカーラルジュの呪いが尻尾以外で解呪された現象のようだ。
健人曰く、清らかな乙女の接吻で呪いが解けるってか? って言うわけだけど……どうなんだろう。
確かに今のムーイは清らかではあるのかも知れない。純粋って意味でも何でも。
それほどまでにムーイの能力が多岐に渡るのだろう。
後者は……魔物としての本能の部分だ。
しばらくして口を離す。
「えへへ……」
「……落ち着いたか?」
「ユキカズとキスしちゃった。うん……少し落ち着いた」
「そうか……ムーイ、お前の気持ちはわかったから、どうか少しだけ時間が欲しい」
「時間?」
「……ムーイが本当に俺で良いのか、俺しか居ないと思えるのかの時間」
「絶対に変わらないぞ」
「わかってるけど確認したいんだ。ムーイがこれからも色々と世界を見て、いろんな人達と交流をして、それでも俺が良いって思えるのか。何も知らないムーイに好きになって貰うってのが俺は……嫌なんだ。ただ、俺もムーイの事は大切だって気持ちは分かって欲しい」
俺以外の選択肢が無い状態で選ばれるというのは卑怯だって思うんだ。
だって今までの冒険でムーイが関わった事は一握りでしかない。
そんな中じゃ俺以外居なくたって不思議じゃ無いだろう。
お菓子作りをする奴だって俺以外は殆ど居ない。
俺よりも凄いお菓子を作る相手だって居るだろうし、俺よりもムーイを思いやれる人も幸せに出来る人も居るかも知れない。
好きか嫌いかで分ければムーイは好きだ。
誰かにムーイを取られるって事に対して……思う所はあると思うし嫉妬とかそう言った気持ちも湧く。
異性ってカテゴリーに当てはめるとフィリンと同じか……ってなんでフィリン? とは思いつつ、ムーイは大事にしたい。
うん……大切な存在なのは間違い無い。
ただ、俺はムーイが幸せならそれが良い。俺じゃ幸せに出来ないんじゃ無いかって気持ちがあるんだ。
だって……俺は、誰一人幸せになんて出来てないから。
少しだけ、結論を待っていて欲しい。
『へたーれ。君と相性抜群過ぎるんだから他に居る訳ないじゃん。もっと絡めよ。それとやっと本能を理解するとか鈍いね』
こんな時にぶちかますんじゃねえ!
いきなりサバイバルに巻き込んだ時より殺意が湧いてきた。
けど今はムーイを説得するのが先決だ。
「……健人の楽しい事ってのはな。取り返しが付かない所でもあるし、こう……ムーイの体に色々と変化が起こる。それこそ大事な戦いが迫ってる時にムーイは留守番出来るか?」
「うー……えっとな、楽しい事をして子供がお腹で育ってると戦えないってのは聞いた、けどカトレアみたいな卵を産む人は戦えるって話だぞ。ムーイはお腹の中で育てるのも卵で産むのもどっちでも出来ると思う」
……逃げ道を塞がないで、お願い。
やぶ蛇なのか?
と言うか産卵型ってそういう問題に対して大らかなのはそう言った要素のお陰なの?
「何より楽しい事をしたら絶対に子供が出来る訳じゃ無いって聞いたぞー」
「……俺には侵食する力があるだろ? 何が起こるか分からないしそれでムーイが侵食して死なれたら嫌だからさ」
「前に使った時の対処出来てたぞ? 力の源が影響受けるのが恐いって言ってたけどそれを言ったら寄生するだけで問題出るはずじゃないのかー?」
「ムーイの事が大事だからダメなんだ」
俺が理由を積み重ねているとムーイがクスッと笑ってきた。
「わかったぞ。色々とユキカズの言う通りに世界と人達を見てユキカズの体も問題なくなったらお願いするぞ」
「うん。その時にはきっと、俺もどう答えるか覚悟が出来てると思うから……ムーイの事が嫌いとかじゃないんだ。何も知らないムーイに好かれるのは卑怯だし、大事だから嫌なんだ」
フィリンが脳裏に浮かんで来るけど……告白してきたムーイの事をちゃんと考え無いと行けない。
「そう……他にもなんとなくユキカズが何を心配してるのか分かるから言って良い?」
「何?」
「他にユキカズの事が好きでユキカズが好きな相手が居ても、ムーイ以外をお嫁さんにして良いぞ?」
「うん?」
何を言ってるんだ?
「だってな。健人みたいにいろんなイイ女ってのが居ても良いんだぞ? みんなでお菓子を食べる方が美味しいのと同じでユキカズはみんなを幸せな気持ちに出来ると思うから。受ける側が承諾してると問題無いと思うぞ?」
……これはムーイにしっかりと教育をしなきゃ行けない事だよな?
あの節操の無い狼男を悪い見本としてムーイが学んでしまった事なんだと思う。
ただ、ムーイのお菓子を食べる基準としてみんなで美味しく食べる方が良いって考えは否定し辛い。
独占欲を教えないといけないと言うかハーレムに関しちゃ色々とさ。
フィリン、君と会えたらムーイに教えられない?
そう思ったのだけどフィリンは王族で政治の道具として嫁に出される教育がされていたっけ。重婚はそこまで問題無いって教えそう。
ライラ教官は……あ、男性の重婚は国が認めてるって言ってた。強く教えるなんてしてくれない。
ブルはー……教えるのは難しいか。
もしかして……俺って少数派なの? 飛野ー! 賛同してくれー!
この話題は危険だ。
もっとムーイには学んで貰わねば行けない。
「何にしてもムーイにもっといろんな物を見て欲しいんだ。今の俺の状態も良くないから」
勢いで流そう。それが一番だ。重婚が良い事か悪い事かを学んで欲しい。
「わかったぞ。じゃあ待つ代わりにユキカズ、ムーイの別のお願いも聞いてくれても良い?」
「お嫁さん以外ならね」
「うー……ん。うん」
なんかムーイの返事が気になるけど良いっぽい。
何をお願いする気だ?
「上手く行ったらお腹が凄くすくから後で沢山お菓子を今夜は食べるけど、ユキカズが居てくれるならお菓子は自分で補充するぞ」
「何度も言ってるだろ? ムーイにお菓子を作るのを条件にはもうしてないって」
素直に喜んでくれるってのが大きいし、ムーイに色々と食べて貰えばその分、ムーイが強くなる。
どうもお菓子目当てで一緒に居ると俺が思ってるのが嫌みたいなのは分かった。
俺としてはムーイに強くなって貰いたいのがあるかな。
作らずに成長が止まって何処かでムーイに死なれる方が嫌だね。
「うん。わかったぞ。じゃあお願いな。実験だぞ」
「ああ、実験な。どんな実験なんだ?」
「あのな。エネルギーが強くてムーイにユキカズは寄生出来なくなっただろ?」
そうだな。ムーイに寄生するとエネルギーが多すぎて俺が耐えきれない。
原因は俺のキャパシティオーバーで、力の源が小さいエミロヴィアだと寄生出来るって所だったな。
カーラルジュを追っていた頃はエネルギーの問題で俺も色々と大変だったからな。
挙げ句、ムーイが自身の取り戻した力の源をエミロヴィアに貸して寄生しようとまで言ってきた。
全身が焼ける様な状態になってしまうし、回復しながら維持しようとかしてたらムーイがもう良いって断ったんだった。
その後も実験はしたけど上手く行かない。
「そうだな」
「これを解決する方法を閃いたんだぞ。だから実験」
「ほう……どんな実験だ?」
「それはだな。よいしょ」
ブチィイイっと突然ムーイの体が上半身と下半身の二つに切れ目が入って別れた。
え、ちょ……おま。
って絶句して見てることしか出来ない。
ぐねぐねとムーイの体の別れた部分が蠢いて各々元の姿を形作る。
どうなってるんだ?
元々スライムみたいと言うかマシュマロみたいな体をしてるムーイだけど体をそのまま二つに分割するって……。
「「まずはこうやってー」」
で、分裂したムーイが各々同じ事を喋った。





