二百六十一話
「おかえりなさいませ。神獣の申し子様」
リイとカトレアが健人の後ろから声を掛けてくる。
「ただいま。ムーイは?」
と言うかこんな揃って獲物の解体してたのか?
重労働に駆り出されてるって感じなんだろうとは思うけど……。
「ユ、ユキカズ。ラウ、おかえり」
なんか焦った感じでムーイも出迎える。
自然な形で小屋に入ると持ち帰った獲物の解体作業をしている最中だったようだ。
吊して熟成させたりする感じで作業をしてるんだけど……何故かテーブルにドンと獲物を乗せて解体をしている。
こう言った方法で解体もするけど、随分と丁寧にバラしてるんだなー。
内蔵とか一気に取り出して色々とするんだけど。
ちなみに室内はそこそこ血なまぐさい。
「もう大分暗いし作業は程々にした方が良くない? まあ、最低限やっておきたいって気持ちは分かるけど……」
一応持ち帰った獲物は町で処分する事になってるから一部しか小屋に無い。
作業も大詰めって感じかな?
「後は私がやっておきますね。カトレアとケントはそろそろ休んで良いでしょう」
「じゃあ甘えさせて貰おうかしらね」
「おう」
「ムーイさんも神獣の申し子様とラウが帰ってきたので休んで下さい。疲れたでしょう」
「わ、わかったぞ」
なーんかムーイの様子がおかしいような気がするが、気のせいかな?
「兵士様は解体に関しても教わってるのか?」
「そりゃあ訓練所で教わってるな。魔物の皮とか加工に向いてたりするし、肉の場合は食用かそうじゃないかで色々と使い道は分かれるな」
ちなみに魔物の皮ってそこそこ需要があった。
簡易な絨毯代わりにするのとかあっちの異世界じゃ定番であるんだ。
だから毛皮の持ち帰りは地味にお金になる。
肉も食えない魔物以外は食料目的で需要があったしな。
まあ……一番は魔石なんだけど。
「神獣様は魔石を食べますか?」
解体で分けられたのか魔石を入れた袋を俺に差し出す。
「ユキカズ、オレに寄生してた時に食べてたんだぞ」
「緊急で魔力とかエネルギー回復に使えたから食べてただけで町の結界維持に必要だろうからいらない」
美味いかと言われたら俺としては美味くは無い。
メチャクチャ脂っこい肉を食べてるような感覚だった。
「魔石を魔物の餌にすると成長が早いって話あるよな」
遠回しに俺に食わせる流れにしないでくれない?
「お義父さん魔石パクパクする?」
「いらないって。勿体ない」
「へいへい」
「解体で出した臓物の処理はどうする?」
「オレが変えとくぞー」
この辺りの不要な代物はムーイに任せるのが確かに最適か。
一部は珍味に使えるだろうけどそれ以外は不要品だし。
「カトレアさん。まだ食べ足りないって船漕いでる子達が居たから寝かしつけておいたよ。駄々を捏ねたのでちょっと強引にしましたが」
「まあ、ありがとうございます。あの子達、神獣の申し子様が帰ったら追加で料理するって期待してたんで困っていたんですよ」
「子供はやんちゃな位が良いってな」
健人の言い分は分からなくも無いけど程々にしてほしいもんだな。
「雪一はその辺で魔物を狩って生で食うからお前等は寝ろも通じなかったからな」
「健人……」
お前は俺が魔物を生で食うような奴だと思ってたのか?
心の底から心外だぞ。
「生じゃなくても熱線で焼いて食うだろ」
う……否定出来ない。
「そこまで食うのに困っちゃ居ない」
と言う所でぐううう……とラウから音がした。
「お腹空いたっきゅ」
「はいはい。ラウは何が食べたい?」
「夜も遅いからゴミをムーイにお菓子に変えるので良いっきゅ。それをドーナツとかチョロスにするっきゅ」
ってラウが臓物の腸の部分をムーイにお菓子にしてくれとお願いしている。
謙虚と言えば聞こえが良いけど非常に良くない。
「ダメだぞーラウはちゃんとごはん食べないとーカトレア達が作ってくれるからしっかりと食べるんだぞ」
お? ムーイがそんなラウを注意している。
「きゅ?」
ラウもおかしいな? って反応だ。
お菓子オンリーなムーイが注意するとは本当、変わったもんだ。
成長って事なのかね。
「んじゃレルフィの酒場にでも行って作って貰うか」
「どうせ健人は飲みに行くだろうしそれで良いか」
孤児院で作ると匂いに釣られて子供達が起きてくる可能性があるし、それで良いだろう。
「ムーイも晩飯に何か菓子を作ってやらないとな」
「そこまで気にしなくて良いぞ。オレも先に食べた」
「そうも行かないだろ。頑張っているムーイにはしっかりとお礼をしないとな」
「んー……」
「遠慮するなよ。子供達の世話をしたんだからな」
「……わかった」
そんな訳でその日の晩ご飯はレルフィさんの酒場で食べる事になった。
カトレアさんは就寝するとの話だ。
「で、雪一、見回りに関しちゃどうだった?」
「向かった先の村では特に迷宮種に関する報告は来てなかったな。ただ、聖獣が倒されたって噂が流れていたが警戒はしてないようだった」
「とんでもねえ話じゃねえか?」
健人も警戒するほどの話だよな。
「村人の話だと試練で聖獣って倒される事があってしばらくすると復活するって話だった」
「そうね。聖獣様って試練に挑む人に合わせたりするからね。力と決意を見せるのが目的なのよ」
レルフィさんが頷く。
そんな気楽な相手なの? もっと厄介な相手に感じるんだけど?
「俺の時は全力でボコボコにしやがったぞ」
「そりゃあケントが神様に会いたいって一番難しい試練に挑んでるからよ。聖獣様が処理できる願い事、薬草の在処を聞くとかだと私たちでも頑張れば勝てるくらいに加減してくれるわ」
案外気楽に相手してくれるのね。
ただ、俺達の目的はこの世界からの脱出に該当するので本気で挑んで来るって事ね。
「その辺りの噂じゃないかって認識らしい」
「平和なこって、あんまり軽く見て良い話じゃねえと思うな」
健人もこの辺りは重く考えちゃいるか。
カチャカチャと酒場の厨房を借りてパフェを作ってムーイに差し出す。
「いただきまーす。ユキカズ美味しい!」
「おう。出来れば平和であってほしいな」
聖獣が倒されたってのが平和な方で化身とか影が倒されました程度であってほしいもんだ。
「後はその村にもオウルエンスの神殿みたいなものがあってトランセンドシードが見つかったって所だな」
「雪一が行くと見つかるのか? 神獣の優遇が果てしなくね?」
「オウルエンスの神殿で見つけた玉で反応したから俺じゃ無くラウだな」
「きゅー。よく分からないっきゅ」
ラウの持って居る玉も謎の代物だよな。
わからない事ばかりで困る。
「ほー……で、トランセンドシードは俺にくれるんだよな?」
「当たり前の様に渡すと思うか? 必要になってからな?」
貴重品なんだし、安易に健人に渡して良い物では無いだろ。
仮に俺やムーイ達が使わないものでもな。
「ケチくせえ事言ってんじゃねえよ」
「うるせえ、健人、お前さ……何処でも女作りやがって。限度を知れ。大家族でも目指してるのか?」
「あ? どこの村だよ」
「アナグマっぽい人種の所だよ」
「あーあそこにも居るぜ、イイ女。あの村に行ったんだな」
はあ……ニヤニヤし始めやがって。
「ちょっと不器用な女でな。村から離れたダンジョンに生えてる薬草が必要になった際に、取りに行く村の奴の代わりに先に行って取って村の近くに植えておく真似をして手柄を譲るなんて事してやがるんだ」
いやー気付くのが大変だったぜ。
って女語りをしてる。
まあ……確かに不器用な人だなそれ。
手柄を譲るやり方がまどろっこしい。見つけたで済まさないのか?





