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二百六十話

「ただいまー」

「ただいまーっきゅ」


 拠点の町に舞い降りて孤児院に着地する。


「おかえりー……」


 建物に入ると、なんか子供達が食堂でヘトヘトな様子で休んで居る。

 エミロヴィアがそこでお茶を子供達に配ってるぞ。

 食後のお茶かな?


「どうした? なんかお前等疲れてないか?」

「遊び疲れた」

「ねむーい」

「まだ神獣様の新作お菓子食ってないのに寝るわけには……いかない」


 ……良いから寝なさい。と言う程度には暗い。


「兄貴、おかえりなさいなんだな。今子供達に食後のハーブティーを配ってるんだな」

「ああ、随分と子供達が疲れてるな」


 死んだみたいに寝転がっていびきをかいている子供も居る。


「ムーイがずっと遊び相手になってあげてたんだな。晩ご飯の後も子供達と楽しい声がずっとしてて、オデが気付いた時はみんな疲れてお休みしてたんだな」

「へー……」


 まあ、ムーイは無限の体力とばかりにスタミナがあるもんな。

 力の源が戻った今、眠気以外でムーイが止まることは無いだろう。


「疲れたなら部屋で休んでれば良いのに……」

「寝るっきゅ」

「楽しかったんだよー」

「まだ……寝たくない」


 船を漕ぎながら言う事か……スタミナ回復力向上を取る事を勧めるのは正しい大人のする事ではない。

 元気な子供達な事で。


「カトレア母さんがご飯に呼ばなかったらみんな体力切れで寝かされる所だった……ぜ」

「良いから寝なさい君達」

「お肉が、俺達を……待ってるんだ」

「そう……お肉をもっと食べるんだ」

「肉……食べたい」


 ……君達、食いしん坊か。

 既に食べて居るだろうにまだ食いたいと。

 片付け終わってるでしょうが。

 残った肉を食べたいと思ってる?

 さっきのやりとりから考えて俺が帰還した際にムーイに作るお菓子を欲しがるハイエナな子供達だな。


「もう食事をするのは止めなさい」

「でも……」


 そんな状態で食ったら喉に詰まるとかありそうだろう。

 ……しょうがない。


「よーし、君達ー……俺のお腹の目をしーっかり見るんだぞー」

「え? う……」


 と言う訳で眠気を堪える不健康な子供達に俺はやむなく睡眠の魔眼を極々弱ーく施す。


「ううう……」


 虚ろな表情で子供達が目を泳がせつつ、徐々に眠り始める。


「子守歌を歌うんだなー」


 エミロヴィアも子供達の健やかなねむりの為に歌を歌い始める。

 中々悪く無い声をしている。

 やがて子供達は静かに寝静まったので尻尾で抱えて寝室へと運んで行く。

 エミロヴィアも俺に倣い、みんなを抱えてくれたぞ。


「兄貴、助かったんだな」

「まあな。随分と楽しく遊んでやっていたみたいで何よりだ」

「そうなんだな」


 なんだかんだエミロヴィアも迷宮種だし、この辺りのスタミナ管理は出来るか。

 ドジとか本人は思っているけどそこまでドジじゃ無いと俺は思うんだがなー。


「ラウの坊ちゃん、ユキカズの兄貴とお出かけはどうだったんだな?」

「お空の旅は楽しかったっきゅー! 他の村で遺跡を見てきたっきゅー」

「楽しそうで良かったんだな」

「エミロヴィアとお義父さんが水の中を泳いで見せてくれないっきゅー?」


 ラウのキラキラの瞳が俺とエミロヴィアに襲いかかる。


「エミロヴィアのお腹からお義父さんが目を見せてお腹の中で映像を見せるっきゅ、水の中が見たいっきゅ」


 ……ムーイに寄生中にラウに見せたアレをしてほしいと遠回しに言ってるんだろうか?


「う……ユキカズの兄貴……」

「わかってるって、出来なくは無いと思うけどあんまり良い方法じゃないくらいは」


 そりゃあ水中移動する際には良い方法だとは思うけどさ。

 意味も無く潜る必要性があるのかって事にはなる。

 ちなみに兵役時の座学で水中ダンジョンって代物があるのは聞いた事があるし、ルリーゼ様と一緒にペンケミストルの城に侵入する際のダンジョンで一部水没した所は入った。

 あの時は魔獣兵を使用して静かに通過したっけ。


「ダメっきゅ? お勉強……」

「理屈を捏ねるのが上手になってきたね。ラウ」

「兄貴の不思議な力で出来ないんだな?」

「魔法で水の膜を張るのがあったような気はする」


 ゲイザーの能力で出来るかも知れない。


「エミロヴィアのお腹からの景色」

「を、俺が記録して後で上映してやろう」

「きゅー!」


 あ、屁理屈を突破されたラウが頭を掻きながら転がった。

 エミロヴィアのお腹の中の乗り心地に興味を持ってはいけません!

 ラウ……君、なんとなく竜騎兵に乗る才能がありそうだね。

 問題はライディングのスキルが必要で、そのスキルって異世界の戦士以外だと偉い立場の人から許可が無いと取得出来ないんだけどね。

 ……こっちの世界だと俺が申請したら与える事が出来そうだなー。

 なんて言うか神獣ってこの世界だと王様的な立場っぽいと言えばそれっぽい。


「きゅー」

「ラウの坊ちゃんは元気なんだな」

「俺の背中にずっと引っ付いて居て疲れてるとは思うんだけどね」

「まだ眠くないっきゅー! 遊び足りないっきゅー!」


 元気だね君は……子供は体力の化け物とは言うけど異世界でもそこは適応するんだね。


「はいはい。エミロヴィア、子供達はみんなぐっすりだ。ムーイを含めたみんなは何処?」


 ムーイとカトレアさんを含めて健人とか何処に行った?

 片付けがそこそこ……ここでもたもた食べてた子達をエミロヴィアに預けて別の作業に入ってるんだろうけどさ。


「持って来た魔物さんの解体の続きをするって言ってたんだな」

「ああ、となると小屋とかかな?」


 健人の方は時間だし何処かに飲みにでも出ているって可能性が大きいか。

 そんじゃとりあえずムーイを探すとするかね。


「エミロヴィアは飯食ったか?」

「用意して貰ったのを食べたんだな」

「そうか、食べ足りないとか無いよな?」

「大丈夫なんだな。沢山貰ったし、食べ足りなかったら畑で虫さん居ないか探すんだな」


 まあ、エミロヴィアと畑の相性は良いか。

 ちょっと怯えられてないかと不安になるけどエミロヴィアの反応からして警戒はそこまでされてないので大丈夫だろう。


「じゃあオデ、お片付けしておくんだな」

「ああ、後でお菓子作るからそこまで丁寧にしなくて良いからな」

「わかったんだな」


 と言う訳でムーイが居るだろう小屋へと向かう

 小屋の前へと行くと……。


「――で、ここがこうなってて」

「うん。うん」

「んで――」


 カトレアさんにムーイの声がする。

 俺が近づいてノックしようとした所で何かスタッと着地するような音がして小屋の扉が開かれる。


「よお、雪一」


 健人が何か引っかかる形で小屋の扉を開けて俺に挨拶してきた。


「もう帰ってきたんだな」

「ああ、ラウを乗せたまま遠出をするのはどうかと思うしムーイが心配すると思ってな」

「ただいまーっきゅ」

「うっす。ラウ、空の旅は楽しかったか?」

「きゅー!」

「夜の町とか空から見たら何かロマンチックな雰囲気を日本に居た頃は感じたもんだが、雪一とラウはどうなんだ?」


 言わんとしている事が分からなくも無い気もする。


「別に日本じゃ無くても異世界でも夜景の綺麗さはあるが……」


 飛空挺のある異世界で、俺はその飛空挺の豪華客船タイプで搭乗員をしていたんだ。

 夜の町の上だって飛んでいたので町の明かりの綺麗さは知っている。

 まあ……摩天楼並の夜景は生憎と無いけどさ。


「きゅ? 明かりが目印っきゅ」

「まー……異世界の町の外以外って明かりと呼べる物がほとんど無いからなー」


 夜の明かりの無い空って逆に何も見えないって感じで恐くもある。

 俺の場合は夜目で見えるけど、綺麗かと言うと別になんともない。

 ラウはオウルエンスで夜目が利く種族だから感覚は似てるのであんまりロマンは感じないか。


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