二百五十七話
「っと愚痴ってもしょうがねえ、今日は食糧調達がメインだしそろそろ切り上げて帰るぞ」
「おー」
「それと仕留めた魔物の処理だが解体はそこそこにしろって話だ」
食料目的なので血抜きはしてあるけど輸送しやすいように解体はそこそこで良いのね。
ちょっと変わった依頼だとは思うが……まあそこまで気にする必要もない。
「わかった。んじゃ運んで行きますかね」
って事で本日の業務とばかりに狩りを終えた。
「それでなんだが、ムーイ、エミロヴィア」
「なんだー?」
「なんだな?」
「町で色々とやってるがお前達、何か苦痛とかストレスになるような事があったら遠慮せずに言ってくれよ?」
迷宮種という人とは異なる二人だから実は我慢してるって事もあるかも知れない。
そう言った何かをちゃんと把握して息抜きやストレス解消をするのは二人の世話をする俺の役目だからな。
「オレは特にないぞー? みんなと楽しく過ごせてる」
「オデもなんだな。畑で植物さんを育てて薬を作ってありがとうって言われて嬉しいんだな」
「実はって事があったら気兼ねなく言えよ。例えばムーイはお菓子を子供達に分けてるから減って居てもっと食べたいとか」
「みんなで一緒にお菓子食べると一人で食べるよりもっと美味しく感じるぞ」
ほう、それは良かった。
「エミロヴィアは食事が足りないとかあるかも知れないが……エネルギー関連は帰りに俺が寄生して荷物を運びやすくするから少しは解消出来ると思うが大丈夫か?」
「だ、大丈夫なんだな! ユキカズの兄貴はオデ達に気を利かせすぎなんだな」
「そうだぞー」
ふむ……それなら良いのだが。
ちなみにエミロヴィアは全裸だとどうかって事で大きくならない場合は着るって事で羽織りを着て貰っている。
ムーイも無理の無い範囲で服を作った。
むしろ全裸なのは俺か……しょうがないだろ、コロコロ形を変える事が多いんだから。
「神獣の申し子様が思うよりも二人とも馴染んでるわね。変わった能力を持ってるけどみんな気にしてないのよ?」
と、レルフィさんが補足してくれる。
そうか、まあ二人とも温和な方だしな。
馴染んでくれて嬉しいもんだ。
「俺が責任を持って二人とラウの世話をするからな。体調管理は大事にしないと」
「むしろユキカズの毛並みが一番気になるぞー」
「なんだな」
「うん。お義父さんが一番不健康っきゅー寝ずに働いて疲れないっきゅ?」
「ユキカズ、ストレス溜まって無いのかー?」
なんか逆に心配されてない?
俺ってそんな毛並み悪いか? あんまり気にしてなかったけど。
「ハ! 真面目な兵士様の方が心配されてちゃ溜まんねえなぁ?」
健人五月蠅い。
「割としたい事をしてるし疲れもそこまでは無いな」
むしろ相変わらず湧き出すエネルギーの逃がし所で困る程度か。
ターミナルポイントに流したり、エミロヴィアに寄生して大技を放つ事で解消してる。
高威力熱線は魔眼が焼けるから痛くてな……。
ブルみたいな良い人を見て癒やされるのはムーイとエミロヴィアの行動でどうにかしてるし。
ああ……ブルの善行活動に付いて行って癒やされたい。
早く原液をその目に収めたいぜ。
見て癒やされると言えばムーイとラウが仲良く寝てる姿とかも癒しと言えば癒しか。
ブルの寝顔を見るのも楽しかったし……思えばあの頃から俺は変わらんな。
町での活動で見回りとかしてるとストレスになるかと思ったけど……兵役時に付いた習慣が出来て逆に安心すると言うか。
改めて思うとちょっと虚しいかも知れない。
「神獣の申し子様は働き者ね。リイを初めとして町の人たちやカトレアも言ってたわよ? 部屋の掃除やベッドシーツの張り直しから何まで手慣れていて凄いって」
「ええ、正直もう少し休まれた方が良いです」
「各地のホテルの清掃作業と給仕作業、お菓子屋勤務を経験してるからなー今は仕事でやってる訳じゃ無いけど懐かしいな」
「お前あっちの異世界で何してたんだ? ホテルの業務員か流れの菓子職人か何かなのか?」
健人が何か突っ込んで来る。
うるさい。俺もよく分からん。
「これも兵士の仕事にあった事だ」
「いや、ぜってー何か違うと思うぞ? レラリア国の兵士ってそんな雑務すらやらせるブラック業務なのか?」
なんか言われて悲しくなってくる。
トーラビッヒの所に居た頃の仕事は間違い無くブラック業務だったけどライラ教官の下に居た時は……俺指名の業務だった気がする。
少なくとも兵士として派遣されたって名目で兵士とは違う仕事をさせられたと言うか。
「健人、お前は知らないかも知れないが冒険者ってのは資格を得るまで関わる人がやる仕事の大半をやらされるんだ。じゃないとサービスを受けるのが当たり前になって横柄になるからな」
冒険者の下で働く準冒険者制度で冒険者になった奴はその辺りが横柄で風聞や評価が悪いのが多い。
「俺がホテル仕事と菓子を任されたのは他の奴等が無骨で出来なかったってだけだ」
ライラ教官にも言ったな。
「さらにそれっぽい仕事として町の困り毎に対処するのが兵士の役目だろ? そもそも夜間に酒場で起った喧嘩騒ぎの鎮圧とかダンジョン前の見張りだって俺はしたぞ」
ちなみにブルがイケメン狼男に変身出来るって判明した後のブルの仕事評価は俺に匹敵してたぞ。
適材適所って奴だろう。
……俺の評価点はホテル業務と菓子作りが大きかったのが悲しい。
藤平が起こした事件まではある程度出世してギルド業務の手伝いになってたから大丈夫。
って自分を慰める事にしよう。
「聞く限りじゃ健人、お前は冒険者資格を持って無さそうだからあっちの世界で冒険者をするならしっかりと兵士をやる事になるぞ」
「資格持ちの仲間に面倒臭い事はさせるぜ」
他人任せな事を……だからコイツは異世界の戦士だったのに活躍を聞かないんだろう。
「むしろお前はその姿であっちに戻って兵士を続けられるのか?」
「う……」
今の俺はどう見ても人間じゃ無いし、レラリア国がどう扱ってくれるか怪しいのは事実だよなぁ。
兵役期間もまだ終わってないし。
魔物と処理されない事を祈ろう。
こう……あるじゃん? 必死に世界の為に戦ってやっとの事帰還したら化け物と言われて倒されるとかそう言った救いの無い展開。
出来ればそんな結末じゃない事を祈ろう。
「お前こそこっちの世界に永住したら良いんじゃねえか? 神獣の申し子様よぉ?」
「うるさい。そろそろ帰った方が良いだろ?」
こうして俺達はダンジョンから町へと戻った。
町に戻った俺達は倒した魔物を孤児院に運び込んだ。
「まあ、こんなに沢山持って来て下さったのですね。ありがとうございます。こんなに倒すの大変だったでしょう?」
カトレアさんが両手を合わせてお礼を述べる。
「そんな大変じゃなかったぞ」
「ああ、楽勝だったし多量に持って帰れたな。これでしばらくは飯には困らねえよ」
「お肉ー!」
「肉だー!」
「ご飯だー!」
子供達が楽しげな声を上げている何処の世でも子供は肉が好きって事かな?
ただ……カトレアさんにコカトリスを渡して良いのか?
まあ……ブルが豚肉を食べたりもして居たのであんまり深く考えるような事では無いのだろう。
「では解体などのいろんな処理は私たちに任せて下さい」
「神獣の申し子様は確かこの後、用事は?」
「えっと、ターミナルポイントにエネルギーを振り込んだ後、町長へと報告、空を飛んで足が速いって事で近隣の村へとちょっと出かける手はずになってる」
「ユキカズ忙しい?」
「そこまでは忙しくは無いさ」
情報収集は役目みたいなもんだし、何か事件が起った際に対処出来る様にしないといけない。





