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二百五十二話


「こちらのお部屋でございます」


 カトレアさんの案内された部屋で俺とムーイ、ラウは就寝する事になった。

 エミロヴィアは孤児院の裏手にあるグフロエンス用の部屋に招かれてそこで休む。

 種族毎に就寝スタイルが異なるそうでグフロエンスの場合、安眠出来るのはお風呂の浴槽みたいなものらしい。

 ちょっと水を入れて乾燥しないようにするんだとか。

 多種多彩な種族が行き交う町らしき配慮って感じだ。

 エミロヴィアはそのグフロエンスじゃないけどさ。あんまり乾燥も気にならない様子だったし。


「ユキカズも一緒に寝る?」

「いっしょっきゅ!」


 うーん……実はまだ眠くないんだよな。

 町に着くまでエミロヴィアに寄生してて半覚醒で寝てたような感覚だったし。


「寝ないけど二人が寝入るまでは見守ってるよ。特別に寝るまでまた語ろうか」

「やったー」

「きゅー!」


 そんな訳で壁に照射をして読み聞かせを行う。

 語るのは異世界の戦士になるまでの俺の物語、ムーイは本当……この話を聞きたがるな。

 俺の過去なんてそんな面白いもんかって思うけどさ。

 今度健人の冒険とかも想像で補完して語ってやっても良いような……ないな。女好きも限度を超えろって話だ。


「すー……」

「きゅー……」


 なんて感じに内心健人への愚痴を思いながら語って居るとムーイ達が寝息を立て始めた。


「おやすみ」


 布団を掛け直して仲良く眠るムーイ達の寝顔を見届けた俺は部屋から出て孤児院内から出る。

 さて……何か問題が起こったりしてないか見回りをしよう。

 こう言った町に着くと兵士だった頃の感覚が蘇ってしまうな。

 なんだかんだ短い期間だったけど兵役時の癖というのは身についてるもんだ。

 しかも飛べるとなると行ける範囲が広がるので……本当、便利に感じてしまって悲しいような気もする。

 村よりも見る範囲が広いが……往来は想像よりは静かだな。

 精々酒場が少し賑やかだと思う程度か。

 ……そういや健人が酒場に夜行くとか抜かしてたな。

 ちょっと様子を見るか。

 と、見に行くと。


「おーし! 今回の冒険は中々の収穫だったぜ?」

「さっきから聞いてるわよ。神獣様を見つけてくるなんて凄いじゃない。目的も一緒なら頑張りなさいな」

「そうだけどよーあいつくそ真面目だし、妙なこだわりがあるんだよ」

「ケントと似たような人だって感じたわよ? むしろ妙な願い事をしないって所は上位じゃないの?」

「あ、ひっでー! そんな事言ってるとヒーヒー言わせちまうぞー」


 と、健人が酒場でレルフィに絡んで居た。

 まったく……何をやらかしてることやら。


「何やってんだハーレム野郎」

「あ! ユキカズ! てめえこんな時間に何の用だよ」

「町の見回り、何が起こってるか分からないから念のために飛び回って監視してんだよ」


 ついでに高く飛び上がっておかしな事が起こってないかの探索もしている。


「かー! 兵士ってのは真面目なもんだぜ。今はそうじゃねえんだからゆっくり休みやがれ!」


 リイにも突っ込まれてるだろ! って健人が指摘してくる。


「あの真面目なリイが言うって事は素直に休んだ方が良いと思うわよ」

「気にしなくて良いさ。頑丈なのは取り柄なんでね」

「それで一週間以上ぶっ続けで寝た奴は誰だ?」

「俺だ。あの時は限界以上に頑張ってたんだからしょうがねえだろ」


 ムーイが死なない様に常に動いてたんだからな。


「あの時に比べたら休んでるようなもんだから疲れねえよ」


 現にエミロヴィアの中で休んでたようなもんだ。

 生活周期で夜勤してるだけだっての。


「ふふ、ケントとそこまで言い合えるのは中々居ないのよね。ケント、良い相手と知り合えたわね」

「よくねえぞコラ! やっと帰ってきたんだからイイ女と楽しい時間を楽しみてえんだよ。ユキカズ! 帰れ!」

「そんなの俺の勝手だろ! まあ、見回りしてるからすぐに行くがな。また来るからあんまり騒ぐなよ」

「うるせー」


 って感じに軽いやりとりの後に俺は再度見回りをして……溜まったエネルギーを町のターミナルポイントに放出してから数時間後に再度酒場にやってきた。

 相変わらず健人は酒場に居るようだ。

 ただ、雑談はせずに静かに一人で飲んでいる。

 若干黄昏れてるように見えるのは気のせいか?

 それとも泥酔でもしてんのか?

 ちょっと心配なので声を掛ける。


「数時間ぶりだな。酒も回って大人しくなったか?」

「ああ? ったく、また来やがったのか」

「明日は何をするつもりかは決めちゃいないが夜更かしは程々にしとけ」

「へいへい。生憎狼男が定着してから夜はそこそこ強いんでね」


 その辺りは種族的な特徴かね。


「もう少ししたら店じまいだし、その後良い事をお願いするぜ」


 へへへ、って下品に笑う健人に呆れの感情しか湧かない。

 まったく……こいつはこんな奴だったんだな。

 今のうちに睡眠系の魔眼で強引に眠らせるのも手か?

 なんて考えていると健人が椅子の背もたれに思いっきり腰掛けながら呟く。


「……あっちに戻りたいけどこっちの方の異世界で良いと思う事も無いわけじゃねえだぜ?」

「あ?」


 なんだ? どういう風の吹き回しかよく分からないが健人らしくない話な気がする。


「良い事ね。生憎と俺はこっちと元いた異世界の違いが今ひとつ分からないが」


 何分どっちの異世界も日が浅いので違いはよく分からない。

 ターミナルの形状が異なる点以外は俺自身の変化だったり、ムーイみたいな迷宮種だから人間とは違うって問題なんで明確な違いが分からない。


「雪一、お前も今まで見た村や町で思わなかったか?」

「ん? うーん?」


 そう言われてもピンと来ないな。

 健人の方が異世界での日数が多いのだから分かる事も多いんじゃ無いだろうか?


「まあ、お前はよくわかってねえかも知れねえけどよ。こっちの世界の連中はな……同族内は元より他種族で争わねえんだ」

「……」


 言われて考える。

 確かに……あっちの方の異世界だと国家間の争いとか種族的な嫌悪などが無数にあったのは間違い無い。

 ブルをオークだからと言って迫害しているのは過去の歴史があるのは分かるけれど、それでもブルは争おうとしてないのにあの嫌われようだ。


「あっちの異世界だと種族的な争いが多くてな……味方のオークが敵では無いのを証明する為に、襲い来る同族のオークを殺すなんて事がまかり通ってやがる」


 ふと……ドーティスさんがオークを倒した時の事を思い出した。

 ブルもそうだけど、オークにオークを殺させるのは良くないのではないかと俺も思う。

 けれどブルやドーティスさん自身、アサモルトやライラ教官、フィリンは気にしなくて良いと俺を慰めてくれる。

 幾ら人種が大きく違うと言ってもカテゴリーでオークとされているのだから、良くないのではないかとは思うのだ。


「文明が低いってのもあるのかもしれねえけど、人種による差別はこっちの世界にはねえし、欲深い権力者ってのはまずいねえ。そういう意味だとこっちの世界も……悪くはねえんだよ」

「……それでも健人、お前はあっちの異世界に戻りたいんだろ?」

「ああ……あっちに守りたい奴等がいるからな。こっちの連中は信心深くてむず痒い」


 それもどうかとは思うけど……確かに、何かが希薄に感じるのは事実か。

 神様への信仰が厚く、強欲ではいけないって考えが根付いているにしてもおかしいって事か。


「ちなみによ。俺みたいにこっちの世界に迷い込んで永住したんじゃねえかって奴の痕跡は結構あるんだぜ? 人間っぽい連中の子孫がよ」

「ほう」

「だからあっちに大事な物が無い奴は永住も良いとは思うぜ。けど、雪一。お前はどうなんだ?」


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