二百五十話
「Lv上げとかに良さそうな場所やダンジョンとか、健人はこの辺りの土地勘あるんだろ? 後で行けば良いだろ」
「まあ、ここが拠点だしな。ただ……お前等に合わせるとなると中々難しい所へ案内する事になりそうだぜ」
「楽しみにしてるぜ?」
ここは詳しい奴に任せるのが良いだろう。
俺も解析のレパートリーは元より、もっとLvを上げなきゃ行けないからな。
とはいえ……最近感じるのだけどカーラルジュを倒した後からLvの上がりが思いのほか悪い。
ムーイに寄生して居た頃が一番伸びが良かったような気がするのは気のせいかだろうか。
「じゃあオレ達、あの子達と遊んで来るぞー!」
「がんばるんだな!」
いってきまーすとばかりにムーイ達が席を立って子供達の元へと向かう。
「きゅー!」
ラウも合わせて行く様でよちよち歩きで続いていった。
「では私は見守って居るとしましょう。何かあったら来ますね」
カトレアさんはそう言うと子供達を見守りに行ってしまった。
まあ……大丈夫かね。
俺も少し様子を見るとしよう。
「おーい! オレも遊びたいぞー」
「あ、ムーイだー!」
「何で遊ぶー? 追いかけっこ?」
「ケントが教えてくれたケンケンパするー?」
「ムーイは何が出来るんだー?」
「えっとなー」
ムーイは孤児院のゴミ捨て場の方を見て近づく。
「これ、ゴミで良いのか?」
「うん」
「オレはなーこんな力が使えるぞー」
と、ゴミをお菓子に変える。
ボリボリと試しにムーイは食べてからお菓子を分け与える。
子供達は恐る恐るお菓子を食べると喜びの声を上げた。
「おおー! すげー!」
「こんな力が使えるってすげーなー!」
「ムーイすげー!」
「エミロヴィアも不思議な魔法使えるのかー?」
「出来るんだな」
パッとエミロヴィアも植物を出して孤児院にある遊具を模倣させる。
植物性の長い滑り台やジャングルジム、ブランコが作られて子供達が思い思いに遊び始める。
おお、トランポリンまであるとは中々楽しそうな場所になってきてるじゃないか。
子供故に危険な遊びをしたりする者もいるけれど、そうした危険行為をした子供が怪我をする前にツルが伸びて怪我をしないように支える。
「わー! マジスゲー!」
「ムーイもエミロヴィアも凄い魔法使いなんだー!」
と、子供達のウケが激しく良かった。
「えへへ、なんだな」
エミロヴィアが照れている。
うん。ムーイもエミロヴィアもこう言った所で皆の力になれるよな。
ちなみにエミロヴィアは孤児院の菜園の方でも役だった様で作物の発育の促進もしてくれているようだった。
「きゅー!」
ラウが俺にだっこを要求してパタパタと手を振っている。
抱き上げて飛べって事ね……はいはい。
俺はラウを抱えて飛ぶ。
「あーラウ良いなー」
「神獣様に抱えて飛んで貰ってるー!」
「オレもー」
「私もー」
「はいはい。順番な……疲れそうだ、魔眼で浮かせるか」
飛びたい連中を揃えて魔眼で浮かせて飛んだ。
「おおおおお!」
「お空を飛ぶってたのしー!」
「すっげー!」
「ケントがマジで凄いの連れてきたー!」
子供くらいならそこまで苦も無く飛ばせるもんだなー。
と言った感じで俺達は孤児院で子供達と遊んだ。
「さーてと、俺はちょっと用事があるからムーイ、エミロヴィア。子供達の面倒をちゃんと見るんだぞ」
「わかったぞ」
「任せて欲しいんだな!」
ムーイは頷き、エミロヴィアはやりがいを見つけたのか元気に答えた。
「そんじゃ俺は行ってくるとしますか」
パタタと羽を広げて更に飛び上がって偵察に出たのだった。
ふむふむ……この辺りの地形はこんなもんか。
妙な奴等の痕跡は無いか……特に被害が無いだけいいのかね。
後は町の往来の確認……いろんな人種が居るな。
みんな空飛ぶ俺を見て一礼する。
さすがに空を飛んでたら気付かれるか。
……この体だと貴族とかの汚職の証拠とかすぐに見つけられるのだろうかね。
姿を消して町長の屋敷とかにそれとなく侵入して確認。
どういった悪い面があるかなー。
「神獣様の来訪に感謝を」
って何か屋敷にあるシンボルに祈りを捧げている。
それ以外は魔物の被害によるけが人の治療に割く人員とか、食料の在庫管理なんかの話し合いとか木材の確保とかかなり勤勉な様子で働いている。
まあ、そうそう悪い奴なんて居る訳じゃないか。
「……神獣様が来訪しているからでしょうね。神様が見守って居るようです」
って手を合わせる頻度が非常に多い。
これはカーラルジュの力で姿を隠しているけど気配を察知されていると言う事だろう。
神獣の気配ってのを消す方法が無いかなー。
って町の連中の監視をしてどうするんだ。
町の外の偵察に戻ろう。
って感じに周辺を軽く飛んで探索を行った。
あっという間に時間は過ぎていき、日が落ちて夕食の時間となり孤児院に戻った。
カトレアさんがレルフィさんと一緒に料理をしていたので手伝う。
ついでにデザート作りもするぞ。
「あ、神獣様。こちらもどうぞ」
ってレルフィが……ミルクの入ったバケツを渡してくれた。
「これは?」
「ああ、あたしの乳が余ってしまってねー子供達には十分飲ませた残りだよ」
つまり……レルフィさんの乳?
いや、これって貰って良いモノなのか?
と言うかレルフィさんってミノタウロスっぽい種族なので、牛乳って事に……なるのか?
ついでに当たり前の様に卵を割って料理してるカトレアさんも非常に気になるんだけど。
この卵……。
「あ、はい。気にせずに、無精卵ですから」
……これは何のプレイなんだ?
いや、食べて良い代物なのか?
とりあえず俺は考えるのを一旦やめてレルフィさんのミルクをムーイの元に持っていく。
「ユキカズどうしたんだ?」
「ああ、ムーイ。このミルクを飲んで覚えておいてくれ」
山羊の乳とか代用食じゃなく栄養豊富のミノタウロスの乳だから複製品でも高品質のお菓子の材料になるはず。
「わかったぞ。ん……今まで飲んだミルクのどれとも近くて違う味だな」
「あー……うん」
「どうしたユキカズ?」
「いや、ちょっと認識がバグってるだけ。問題は無いから」
ムーイが首を傾げているのを余所に色々と材料を用意して貰う。
ちょっと孤児院の人の居ないところでムーイにお願いして薄い木の板の性質変化をして貰い、型の作成をした。
柔らかい粘土に変えてから型を作り金属に再変換、質は低下するけどお菓子の型には良いだろう。
これでカヌレの作成を行う。
ラム酒は無かったけど健人が所有していたらしき酒があったので代用し、牛乳と砂糖と小麦粉と酒などでカヌレを作る。
懐かしいな。
菓子職人に色々と教わった料理の中にあったレシピだ。
まあ……本来は生地を寝かせないと行けない代物なのだが菓子職人が作った簡易版の奴だけどさ。
魔法資質が開花した奴が作る事が出来るマジックカヌレと言う代物らしい。味は落ちるが手早く作りたい時に良いと教わったのだ。
「おーし完成、明日は本物のカヌレを作るけど今夜はこんなもんだな」
型から出して冷ました大量のカヌレをムーイを始めとした孤児達みんなの夕飯のデザートに差し出す。
「わーなにこれ?」
「ユキカズが作った美味しいお菓子だぞ。絶対に美味しいからみんなで食べよ」
「神獣様が作ったお菓子だってさー」
「へー! お、マジで美味い!」
「カリッとしてるのに美味しー!」
「ユキカズ、これなんて料理なんだ?」
ムーイがモニュモニュとマジックカヌレを食べながら聞いてくる。
「カヌレだ。ただ、魔法で色々と本来の過程を省略した簡易版だけどな。明日には正式なカヌレを出すから楽しみにしてろ」
「わかったー」
楽しげなムーイは聞いた後にテーブルに戻ろうとして、俺の所に再度来る。
どうしたんだ?
「……作り方を教えて欲しいぞ?」





