二百四十八話
「正直に言えば夫が居る女性でも神獣様の力の前では……それだけ神獣様の魅力があると言っているんです。不用意な発言をしては双方が不幸になりますのでご注意を」
俺にも飛び火しそうな問題じゃないか。
やべえ。下手にいい人を見つけて、相手が女性で褒めまくったら知らずに押し倒されかねないって事かよ。
言葉には注意しよう。
「……」
ムーイが俺と健人と周囲の者たちを黙って見ている。
いや、何か言ってくれよ。こう……健人がダメだって方向で。
「ユキカズの兄貴、大変なんだな」
ああ、俺の事をしっかりと理解してくれるのはエミロヴィアだけか?
元々の善良さに癒しを求めたい。
「ボク……ダメなの? 神獣様」
健人の子供らしき子が俺に困り顔で尋ねてくる。
「いや、そういう訳じゃない。君は胸を張って生きなさい。でも女遊びはダメだぞ? だから君のお父さんを注意してるんだ」
「弟や妹が生まれるのダメなの?」
「そうじゃないよ。家族を大事にするんだよ。俺は健人と大事なお話があるからあっちで遊んでおいで」
本当、返答に困るなぁ。
俺は子供が頷いて遊びに行くのを笑顔で見送り、真顔になってから健人に視線を戻した。
「おいおい、神獣の申し子様よぉ。子供には随分とお優しいじゃねぇか」
「うるさい。何にしても健人、お前とは色々と話をしなくちゃいけなさそうだな」
こんな性欲に支配された獣をあっちの世界に解き放って良いのかを考えねば行けないな。
まさか健人が藤平の上位互換だとは思いもしなかった。
ブルの親父じゃあるまいし……もしや最初の神獣に選定される奴はみんな揃って似たような特徴を持っていて、各地に女を作って子供を大量に作るのか?
『ははは! 君の発想に最初の子が心外だって抗議してるよ! ははははは!』
だから笑ってるんじゃねえ! 答えろコラ!
くっそ、脳内神の声が笑ってるだけで答えねえ!
「ふん、雪一、お前が邪魔をしようと俺のイイ女コレクションを止めることは出来ねえぜ?」
「ぜってえ止めて見せるからな」
バチバチと健人を相手に視線でにらみ合いをしてやる。
俺の視線は文字通り攻撃力があるから注意しろよ?
健人の女遊びを止めさせる為だけに魅了の魔眼の練習をしても良いと思って来てるからな。
「ここで立ち話をするのも何なのでまずはお部屋へと案内しますね」
健人とにらみ合いをしているとカトレアさん達が会話を切り替えようとしてくれる。
……まあ、ここで子供達を相手にする話じゃないか。
親がコレでも子供に罪は無い。
出来れば子供達が健人みたいにやりたい放題じゃないようになってくれる事を祈るばかりだ。
そんな訳で孤児院へと案内された俺達だった。
建物の中は……まあ、孤児院って事だけど木造の教会と学校を合わせたような建物かな。
広めの食堂らしき所に案内されて椅子に腰掛ける。
お茶を出されて俺達は一服する事が出来た。
何でも孤児院で管理している畑で取れる薬草茶だそうだ。
「やー、やっと我が家に帰ってきたって感じだぜ」
……ハーレム野郎の健人が我が家って感じでのんびりしてやがる。
コイツの女癖をどうにか出来るか考え無いと不幸な子供が量産されてしまう気がする。
無責任に種を蒔いてる訳じゃ無いらしいが……。
やはり魔眼か。
「おい雪一、さっきから妙な眼光を飛ばしてくるんじゃねえよ」
チッ! 気付かれた。
「まあまあ……」
カトレアさん達が俺を宥めようとしてくれているけれど本当にそれでいいのか?
リイとかもこんな奴が良いのか不安になるので見つめる。
「気になさらなくて良いですよ。ケントの立場や目的はしっかりと把握してますからね」
「わかりやすくはあるから了承はしてるわよね」
「まあ、拝み倒されましたし、こちらも受け入れるだけの時間は下さいましたのでね」
と、被害者の女性達が苦笑気味に健人を擁護している。
合意の上なら良いのか? これは俺が日本人基準の感性を未だに持って居るのが原因だろうか?
「雪一、お前は誤解してるぜ? イイ女ってのはそれだけガードも堅いんだ。そんな女達に出来うる限りの恩を売り、褒め称え、力を貸して拝み倒すことでやっと俺を認めてくれるんだ。その苦労が分からねえ内は理解出来ねえだろうな」
「一生理解出来なさそうな感覚だな」
ブルの親父もこんな感じであちこちでやらかしてるんだろうとは思うけどさ。
逆にブルは各地で助けた女性に告白されるのをどうにか逃げ回って居る身持ちの堅さから考えると真逆の存在だ。
「本当、健人はこんな変な女捕まえて何を言ってるのよって思ったわよねー」
「力しか取り柄の無い筋肉だるまにイイ女って心から言われるなんて思いもしなかったわよね」
カトレアさん達が朗らかに思い出話に花を咲かせるような様子でイチャイチャとしている。
うーん……同族基準で変わった人たちって事なのかね。
「イイ女をイイ女と言って何が悪いんだよ。それを言ったら雪一、お前だってカエルはどうなんだよ」
「オデなんだな? オデ、ユキカズの兄貴にとってイイ女って奴なんだな?」
なんか激しく誤解しそうな話題で健人が反撃してきた。
「オレはー?」
ムーイもここで挙手しなくて良いから。
「確かにムーイもエミロヴィアも良い奴だと俺は思って居るが……健人みたいな事を目的にしてない!」
イイ女だから肉体関係を築きたいとか微塵も思ってない。
「代わりに寄生してるだろ」
「それはお前が提案したり、出来る事だからってムーイとエミロヴィアが受け入れちゃったからだろうが!」
本当はしたくないけど二人の能力が引き上げられる可能性が高いからやっただけだ。
「どうだかな。コイツ等以外で良い奴ってのを見つけたらやるかも知れないぜ?」
健人……いい加減、俺が寄生ばかりする化け物だって認識を続けるならお前に寄生して繁殖能力を奪ってやろうか?
玉を機能不全にするくらいきっと出来るぞ?
にゅるにゅると尻尾を波打って殺気を放ってやる。
まあ……俺の今ある本能で言うならブルに寄生してみたいと言う欲求が無い訳では無いが、それはして良いことではないと分かっているぞ。
「ブヒャアア!?」
「ブルさん、また鳥肌ですか?」
「野生の勘という代物だろうが、一体何を察知しているんだろうな? やっぱり兎束が生きててブルトクレスの事でも考えてるんだろうか?」
「ヒノさんはブルさんの事はどう思いますか?」
「兎束が親しくしたいと思う気持ちは分からなくも無い程善良だとは思うな。アイツは入れ込み具合が果てしないが」
「派遣先でユキカズさんを知る兵士皆さんはブルさんと妙な関係を持っていたんじゃ無いかって疑ってましたね」
「そうか……実際はどうだった訳?」
「ブブブ!」
「もの凄く頭を横に振って……何も無かったのか」
「ちょっと羨ましい位には慕ってましたもんね。ユキカズさん」
「ギャウ!」
「本当、忘れられない奴だな。早く戻って来て欲しいもんだ」
何処かでフィリン達が俺の話題とか上げてくれたりしてるんだろうか。
……出来れば忘れられたりしてない事を祈るばかりだな。
「健人、俺はお前のような節操なしじゃないのを理解してほしいもんだ」
「寄生って此度の神獣様の能力ですか?」
「あー……俺は別に神獣って訳じゃ無く、健人と同じく元は人間で神獣の力を臨界まで使った所為でこんな体になっただけ。ただ……この世界の人からすると神獣の申し子って扱いみたい」
「ええ、私の村を襲撃した迷宮種をその身で守って下さいましたよ」
「きゅ!」
リイとラウが力強く答えてくれる。
ちょっと気恥ずかしい話なんだけどさ。
「俺を選んだ神獣は最後の神獣で見る能力がメインだけど進化の途中で寄生系で色々と覚えちゃってさ」
健人とリイの方にムーイ達に関して説明して大丈夫かと暗に尋ねる。
「ああ、で……カトレア、レルフィ。ここに居るムーイとカエルは迷宮種だ。雪一は迷宮種の力の源ってのを所持しててコイツ等に寄生する事で能力を引き出せる状況なんだ」
健人があっさりと暴露した。
子供達には聞かれないようにしたのか?





